MotoGP第5戦オーストリアGPのMotoGPクラス決勝レースで、ヨハン・ザルコ(エスポンソラーマ・レーシング)とフランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)が接触。大クラッシュとなった。そのとき、何が起こったのか。
そのクラッシュは決勝レース1の9周目に起こった。経緯を整理してみよう。8番手を走行していたのがモルビデリ、その後方に9番手でザルコがつけていた。そしてゆるやかな左コーナーとなっている2コーナーを過ぎ、ハードブレーキングが必要な3コーナーに向かうあたりでザルコがモルビデリを交わして先行し、そして間もなくふたりが衝突した。
高速でぶつかった2台のマシンはライダーを振り落として3コーナーを旋回中だったマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)、バレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)たちを襲った。ビニャーレスとロッシは、ぎりぎりで吹っ飛んでくるマシンに接触せずにすんだ。その状況は運が良かったとしか言いようがない。
ザルコとモルビデリのマシンは路面に叩きつけられながら3コーナーに飛ばされたため、数多くのパーツがコース上に散乱した。危うく大惨事になるほどの大クラッシュだった。このアクシデントのため、レースは赤旗が提示され、一時中断となった。
転倒後、3コーナーのイン側グラベルに飛ばされたザルコは立ち上がり、うずくまるモルビデリに駆け寄った。ふたりに大きな怪我はなかったことも幸運だった。
決勝レース後、ザルコはオンラインによるメディア向けの取材に、予定よりも10分以上遅れてやってきた。モルビデリと話すことはできなかったが、ロッシと直接会話し、状況を説明していたのだという。
「モルビデリをオーバーテイクしたとき、彼と接触した。僕がとてもワイドになっていたと思われているけれど、それは正しくない。僕はいつもよりワイドになったわけじゃなかった。僕たちはお互いに接近して、スリップストリームでブレーキをした瞬間、モルビデリが僕に接触して、完全にコントロールを失い、クラッシュしたんだ。最悪なことに、バイクがバレンティーノやほかのライダーを襲った。すごく恐ろしいことだ」とザルコは転倒について語った。
「バレは僕に、テレビでいろいろなポイントからクラッシュを見たけれど、僕がブレーキングですごくワイドになっていたと言った。僕はそれほどワイドになっていないと考えていることを説明し、僕たちはもう一度、チェックをした。僕はおかしな走りをしていなかった。モルビデリを止めたかったわけじゃないし、わざとじゃないことを明らかにしたかった。ここでは300km/hくらい出る。MotoGPクラスはMoto3クラスみたいにブレーキングでラインを変えられない。バレは僕に、注意するようにと言ったよ」
「僕はクレイジーだったとは思わない。あのとき、僕のエンジンはモルビデリよりもとても力強かった。彼を抜いたときにはまだ5速で、ブレーキングポイントの300メートルほど手前だった。めちゃくちゃなオーバーテイクではなかった」
ザルコは2コーナーすぎ、コースの左側から右側にマシンを寄せていった。そこはモルビデリが走るライン上であり、モルビデリはザルコのスリップに入る形になったのだという。
「僕は左を走っていた。右にスペースがなかったからだ。ブレーキングでは、もしかして傾いていなかったのかもしれない。少し右に寄らないといけなくて、そこはスリップストリームだった」
ザルコはそのときのラインがワイドになっておらず、それが故意でもない、ということを主張した。
■モルビデリ「彼を避けることはできなかった」
モルビデリはメディカルセンターに運ばれ、CTスキャンの結果、右手、右肩、頭を打ったが大きな怪我はなかったことが確認された。ただ、この日の取材予定はキャンセル。そのため、ペトロナス・ヤマハSRTのプレスリリースよりモルビデリのコメントを確認したい。
「奇妙なクラッシュだった。ヨハンは僕をストレートでオーバーテイクして、ブレーキング中にとてもワイドになってラインを変えてきた。その変更されたラインとスリップストリームで僕は行き場がなくなり、彼を避けることはできなかった」
モルビデリ同様、レース後にザルコと話し合いをしたというロッシも、ザルコのラインがワイドになった、と考えている。
「ザルコはとてもワイドになって、フランコに選択の余地を与えなかった。そして僕やマーベリックを危険にさらしたんだ。大変なことになっていたかもしれない。ザルコと直接話をして、彼にそういうことを伝えた。彼は僕に、わざとではなかったと言った」とロッシはレース後の取材でそう回答した。
彼らのコメントを総合すれば、今回のクラッシュは、ザルコがラインを右に変え(実際のところ、そのライン取りがワイドだったかはともかく)、それがスリップストリーム上に入り、行き場をなくしたモルビデリがザルコに接触した、と考えられる。
弾丸のように飛んできたマシンに危うく当たりそうになったロッシは、心境をこう語った。
「とても怖かった。恐ろしかったよ。非常に危険な状況だった。MotoGPはみんなアグレッシブで、小さなクラッシュもある。けれど、僕にとっては行きすぎないことが重要だ。コース上ではライダー同士、敬意を払わないといけない。このスポーツがとても危険なものだということを、忘れちゃいけないんだ」
誰も深刻な怪我を負わなかったことが本当に幸運な“大クラッシュ”だった。