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夏に大活躍? プジョー「リフター」はSUV風味のハイトワゴン

2020年08月17日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
プジョーのハイトワゴン「リフター」が日本に上陸を果たした。フランスのグループPSAが販売するクルマで、シトロエンの「ベルランゴ」とは双子車だ。リフターの実車に触れてみると、同じカテゴリーのルノー「カングー」はもちろん、ベルランゴとも明確な差別化がなされていて、個性を尊重する国、フランスからやってきたクルマであることを実感した。

○「カングー」とは違う位置づけ

輸入車のほとんどがドイツ車というこの日本で、根強い支持を得ているフランス車の1台がルノー「カングー」だ。背の高いボディがもたらす使い勝手の良さとフレンドリーなデザイン、フランス車伝統の乗り心地の良さ、姿からは想像できないほど高次元なハンドリングなどが評価されている。

ただし、欧州に行くと、ルノー以外にも多くのブランドがこのカテゴリーに参入していることがわかる。なぜか日本では長い間、カングー以外の車種が輸入されなかったが、これだけ根強い人気を得ているとなればニューカマーが出てきても不思議はないわけで、同じフランスのグループPSAからプジョー「リフター」とシトロエン「ベルランゴ」の2台が参入してきた。

価格はカングーが254.6万円からなのに対し、ベルランゴは325万円、ここで紹介するリフターが336万円からと開きがあるので、「ライバルとはいえないんじゃない?」と思う人がいるかもしれない。

リフターのボディサイズは全長4,405mm、全幅1,850mm、全高1,890mmで、カングーと比べると125mm長く、20mm幅広く、80mm背が高い。ただし、この程度の違いは多くのカテゴリーで存在するものだ。

大きく違うのはエンジンで、カングーは1.2リッターのガソリンターボなのに対し、リフターとベルランゴは1.5リッターのディーゼルターボエンジンを積む。ガソリンよりディーゼルのほうが高価格なのは多くのブランドで共通であり、排気量もPSAの2台のほうが大きい。

トランスミッションも、カングーは6速の3ペダルMTあるいは2ペダルのデュアルクラッチタイプなのに対し、リフターとベルランゴはギアが2つ多い8速のATになる。さらに装備では、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシスト、アクティブセーフティブレーキなどからなる先進運転支援機能を備える。

リフターとベルランゴを日本に導入したグループPSAジャパンは、カングーとの直接のバッティングを避け、スペックで優位なエンジンとトランスミッション、後発の強みを生かした安全機能などを採用し、プレミアム的な位置づけにしたことがわかる。

○シトロエンとの双子車とは思えぬ作り分け

ここまでリフターとベルランゴをひとまとめで紹介することが多かったのは、プラットフォームやエンジンだけでなく、ボディ骨格も共用するいわゆる「双子車」だからだ。でも、デザイン面で両者は驚くほど個性が違う。

スタイリングは、ノーズやウインドーに丸みを持たせたカングーに対し全体的に骨太感があるフォルムで、サイドウインドーの後ろ2枚をつなげた処理も特徴的だ。ここまでは、リフターとベルランゴの2台に共通するデザインである。しかし、フロントマスクはフードまで変えてシトロエン顔、プジョー顔を作り出しているし、リフターの前後フェンダーにはアーチモールが付き、サイドのプロテクションモールはそこから連続したデザインとなっている。

ボディサイズも微妙に違う。リフターはベルランゴより背が50mmも高い。車高をやや上げており、タイヤはSUV用になるためで、タイヤサイズは215/65R16と、205/60R16のベルランゴより大径かつ幅広だ。前後のバンパー下にアンダーガード風のアクセントを付けていることでもわかるように、リフターはSUV風に仕立てているのである。

キャビンに乗り込むと、小径ステアリングの上から遠くに置かれたメーターを見るという、最近のプジョーでおなじみの「iコクピット」が迎えてくれる。ここもシトロエンのベルランゴとは異なる。メーターの針のデザインも変えるなど芸が細かい。

ATのセレクターがインパネ中央の張り出した部分に置かれたダイヤルになっていることは2台に共通する。奥には、カングーにはないスマートフォンの非接触充電も用意された。

ただし、リフターには非接触充電の脇にもうひとつのダイヤルがある。オフロード走行用のドライブモードに切り替えられる「アドバンスドグリップコントロール」だ。このダイヤルは、同じプジョーのSUVである「3008」と「5008」も装備しているもの。ここからも、リフターがSUV志向であることがわかる。

さらにリフターでは、ここからセンターコンソールが前席間に伸びていて、スライド式のカバーを備えた深いコンソールボックスを用意している。ベルランゴでは、この部分はシンプルなトレイになっている。

インパネやドアトリム、シートに配されるアクセントカラーは、ベルランゴがベージュとライトグリーンで明るい雰囲気なのに対し、リフターはシックなダークブルーだ。シートのステッチも、プジョーらしくブルーとしている。ブランドイメージを大切にするグループPSAらしいチョイスだ。
○オフロードの走りにも期待

前席の作りは同じらしく、どちらもフランスらしいふっかりした着座感が得られる。ところが、スライドドアからアクセスする後席は違う。背もたれを倒すだけで全体が低く畳める機構は共通だが、分割はリフターが2:1なのに対し、ベルランゴは3分割になっている。ベルランゴは同じシトロエンのミニバン「グランドC4 スペースツアラー」に合わせたのかもしれないが、こんな部分まで作り分けするとは驚きだ。

天井まわりは同じだ。大きなガラスルーフの中央に、トレイとしても使えるスケルトンのバーを渡してあって、その前には全幅にわたるトレイ、後ろにはボックスが備わっている。通常の屋根では得られない開放感が満喫できるだけでなく、収納スペースにも事欠かない。リアゲートにガラスハッチがついているのも、狭い場所での開閉にありがたい。使い込むほどに良さがわかるような作りだ。

ちなみに先輩のカングーはどうかというと、PSAの2台と比べるとインパネもシートも低めだが、外側に膨らんだウインドスクリーンと大きなサイドウインドーのおかげで、ガラスルーフとは違う種類の開放感が体感できる。

カングーはインパネが2トーンではなく単色のブラック仕上げだったり、ドアのフレームの部分がカバーされていなかったりと仕立てはベーシックだけれど、外観同様にフレンドリーなデザインがその印象を和らげる。シートの座り心地はこちらもフランス車そのものだし、観音開きのリアゲートは個性的な道具を扱う喜びを届けてくれる。
○山でキャンプで! 夏の行楽の相棒に

走りについても触れておくと、PSAの2台が搭載する1.5リッターのディーゼルターボは、ガソリンエンジン3リッター級の最大トルク300Nmをわずか1,750rpmで発生するのに加え、8速ATが的確にギアチェンジしてくれるので、回転を上げずに速度だけが伸びていく感覚。1,620キロのボディを思いどおりに加速させる。1.2リッターガソリンターボのカングーよりも余裕は上だ。

リフターの乗り心地はベルランゴやカングーに比べれば固めだが、それでも十分に快適。プジョーらしいチューニングだ。印象的なのはハンドリングで、小径ステアリングで大きな箱を操るのはゲームのような感覚。もちろん、取り回しも楽だ。コーナーでは、背の高さにさえ慣れればキビキビした走りが堪能できる。

オフロードは走らなかったが、アドバンスドグリップコントロールが予想以上の走破性を見せてくれることは3008などで体験済み。車高は高く、タイヤもSUV用だから、未舗装路では4WDのSUVに迫る走破性を見せてくれるはずだ。日本車でいえば三菱自動車工業の「デリカ D:5」や「eKクロス スペース」に近いキャラクターなのである。

このようにリフターは、双子車となるベルランゴや先輩格のカングーとは違う個性の持ち主であることが確認できた。その個性とはプジョーらしさ、SUVらしさであり、山あいのキャンプ場に家族で出かけるのにお似合いの1台だと思った。

森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)