今季の松下信治(MPモータースポーツ)は昨年までの速さがすっかり影を潜め、予選21番手ということさえあった。FIA-F2第6戦スペインでのレース1も、18番グリッドからのスタート。しかしそこからの松下は、猛暑のコンディションでライバルたちが崩れていくなか、絶妙のタイヤマネージメントで上位に駆け上がっていく。
そしてドンピシャのタイミングで入ってきたセーフティカー(SC)のおかげで、ついに3番手に。そこからは選手権リーダーのカラム・アイロット(ユニ・ヴィルトゥオーシ)、角田裕毅(カーリン)を次々に抜いていって、ついにトップに。そのままチェッカーを受け、今季初優勝を遂げた。
インタビューで本人も言うように、予選でのドライビングの改善という課題は残る。しかし長いトンネルは抜けたと、言っていいのではないか。
──────────
──18番グリッドからの優勝、おめでとうございます。
松下信治(以下、松下):ありがとうございます。今回に限らず、予選で上に行けないのが、これまでずっと苦戦してきた一番の要因です。いまだにそこが課題なのですが、一言でいうと僕の運転が予選アタックにまったく合っていない。オーバードライビングなんです。自分では攻めていないつもりなのですが、車体やタイヤ重量が重くなった今年のクルマが、そんな運転に耐えられない。タイヤが最終区間まで保たなかったりします。セットアップを変えても、状況は変わらない。自分が攻めすぎてしまうんですね。わかってはいるのですが……。
レースになれば、速さは去年と変わらないんです。F3マシンは、まさにそういう運転を要求されるらしいです。車体が重いわりに、タイヤが小さいので。そういう攻めすぎない運転、コーナー出口重視の運転をする必要がある。ブレーキ番長の時代じゃないなということです。
──チームメイト(フェリペ・ドルゴヴィッチ)とのタイム差は、運転の違いが一番大きいということなのですね。
松下:ええ。バルセロナで言えば、フルブレーキングから方向を変えるターン1は、僕の方が速いんです。モンツァで僕が速いのは、まさにそれですよね。でも、コンバインコーナーと呼んでいるターン4のような横Gがかかりながらのブレーキングでは、クルマもタイヤも重いと、僕のようなアグレッシブな運転だとそこでダメになってしまうんです。
──レースでは、その差が出にくいということですか。
松下:タイヤを保たせる意識が先にいきますから、自分でも抑えられます。
──レース1の序盤は、かなり抑えて走っていたのですか?
松下:はい。僕の周りはソフト勢が大半で、どうせ抜けない。だったら我慢して走って、順位を上げていこうと。そこでチームメイトには離されていったのですが、とにかくタイヤを保たせようとしました。
今年のタイヤは、通常のコンディションならデグラデーションが低いんです。なのでタイヤの保たせ方がうまい僕の良さが、去年ほど活かせなかった。でも今日はすごく暑くて、デグラデーションがひどかった。それで相対的に、いいレースペースを維持できましたね。レースでの速さは去年と変わらないので、本当に予選を何とかしないと。
──終盤はアイロットと互角にバトルして、抜けましたしね。
松下:そうですね。失いつつある自信が、取り戻せた感じです。アグレッシブなだけじゃなく、賢くいかないと。すべきことはわかっているのですが、できるようになるまでが遅い。適応能力というか(苦笑)。
──アイロットをターン3から4にかけて抜いていきました。あのオーバーテイクは、素晴らしかったです。
松下:ありがとうございます。ソフトのペースは良かったし、同じコンディションでも互角に戦えました。チャンピオンシップ的にも、僕には失うものはない。思い切って行きました。
アイロットもアグレッシブなドライバーで、ターン7ではすでにインにいた僕に思いっきり被せてきたりしてましたし。僕も譲らず、順位を守りましたけどね。そこは負けられないところでした。
──ターン4の思い切ったブレーキングもよかったですね。
松下:はい。あそこを逃していたら、アイロットのペースも速いからそのあと抜きあぐねたでしょうね。
──ペースに勝るニキータ・マゼピン(ハイテックGP)が後ろから抜こうとしたのを防いだのも大きかったですか。
松下:最終コーナー立ち上がりでのホイールスピンを抑えようとしたら、ストレートでスリップにつかれてしまいました。でも単純なまっすぐブレーキングだし、抜かれるわけないと強気でいきました。
──ミック・シューマッハー(プレマ・レーシング)の崩れ方を見ていると、戦略的にはソフト→ハードが正解だったように思えます。
松下:どうなんでしょう。意外にソフトが保ったので、SCのリスクを考えれば、ソフト→ハードの方が良かったかもしれません。でも実質的には、そんなに違いはなかった印象です。
いずれにしても僕の位置からだと、皆と同じソフト→ハードでは勝機はなかった。エンジニアはソフト→ハードを主張したのですが、こちらに賭けました。SCが出たら終わりですけど、逆に最高のタイミングで来てくれました。
──あのタイミングでソフトに交換して、最後まで保つと思っていましたか?
松下:序盤に10周保っていましたからね。燃料の軽い終盤なら、大丈夫だろうと思いました。
──チームメイトだけは、序盤に異常にソフトが長持ちしてました。
松下:ええ。リヤが柔らかいセッティングが良かったみたいです。
──予選でのチームメイトとのタイム差が、開幕以降いっそう開いている印象です。自分の運転に自信をなくしていたことも、関係していますか?
松下:それは、間違いなくありましたね。チームメイトが速いので、そのドライビングスタイルに合わせようとする。そうすると自分本来の良さは消えるし、簡単に合わせることもできない。どっちつかずの状態になってしまう。予選になるとどうしても、奥までブレーキングを行こうとか思ってしまいました。
──次戦以降、改善できそうですか?
松下:問題点は見えていますから。チームメイトは予選でかなり速いので、データをしっかり比較しようと思います。とにかく予選で前に行かないと、話にならないですから。
──今日のレースは今までのキャリアの中でも、最高のひとつではないですか?
松下:確かに自分の置かれた苦しい状況のなかで、あきらめずにしっかり仕事をしたという意味では、評価できるレースです。でもパフォーマンス的には、満足できていないです。なのでベストレースとは感じていないですね。いい位置からスタートして、SCの助けもなく勝つのが一番ですから。ストーリーとしては、18番手からの優勝はかっこいいですけどね(笑)。なのでそんなに浮かれてはいないです。
──去年のモンツァでの優勝の方がうれしかったですか?
松下:そうですね。モンツァとか、レッドブルリンクの優勝とか。
──ここ数戦、ずっと悩んでいたと思うのですが。
松下:今まででは、一番の悩みでしたね。予想していた自分の位置とは、真逆にいる。それが本当に厳しかった。なんとかトップ10内にいるなら、まだわかる。でもそのレベルじゃなかったですからね。辛かったです。
ただレースペースの良さは支えになってたし、投げ出さなくて良かったです。ここからもう一回、去年のようなレースが続けられれば、まだ選手権4位とかのチャンスもあると思いますし。最低でも、そこは取りたい。応援してくれてる人たちとも、それは約束しましたからね。