2020年08月15日 09:51 弁護士ドットコム
千葉県内に住む女性(60代)にとって、最近のひそかな楽しみは、野良猫がやって来ることだ。一軒家のキッチンには、昔ながらの勝手口があり、近所に住む猫たちが通る様子を目にすることができた。その勝手口の前で「みゃー、みゃー」という泣き声が聞こえたのは、春先のこと。
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女性は「首輪をせず、痩せている様子と顔つきの鋭さから、飼い猫ではないとわかりました。離れている時に、ご飯の残り物を置いたところ、しばらくして野良猫がとって食べていました。それから毎日のように来るようになりました」と、嬉しそうに話す。
そして夏になって、その子どもと思われる3匹の赤ちゃん猫たちも、女性のもとを訪ねるようになった。一方で、野良猫を餌付けして問題がないのか心配もあるという。野良猫への餌付けは法的には問題があるのか。鈴木智洋弁護士に聞いた。
ーー結論的には、野良猫への餌やりは法的な問題があるのでしょうか
現状、野良猫に餌をやることを直接禁止している法律はありません。
むしろ、猫は動物愛護法上、虐待や遺棄から守られる存在として法律上位置づけられているとも言えます。野良猫に餌をやること自体は、違法とはなりません。
ーーでは、この女性のような行為は問題ないと言っても大丈夫ですか
そうとは言えません。
例えば、勝手口にとどまらず、私有地の駐車場や他人の家の軒先など、他人の所有地で断りなく餌やりをしたような場合には、無断で他人の土地に立ち入ったとして、民事上の損害賠償の問題になり得ます。
また、路上や公園に餌をまいたまま放置していれば、道路法や各地の公園条例に違反する可能性はあります。
さらに、相談者は1匹に餌やりをした結果、その数カ月後には、その子猫たちも来るようになりました。このまま餌やりによって野良猫が沢山集まってきたような場合には、野良猫の鳴き声がうるさい、敷地内に糞をされた、といったことで近隣トラブルが発生することもあります。
鳴き声や糞尿被害なども、ある程度までは受忍限度の範囲内ということになるでしょうが、その程度が酷い場合には、不法行為を構成するということで民事上の損害賠償の問題になることもあります。
ーー不法行為等に該当するような場合でなければ、餌をあげても問題ないのでしょうか
冒頭で申し上げたように、法律レベルでの直接の規制はありません。また、相談者が住む千葉県にはないのですが、条例レベルで規制をしている自治体はあります。
たとえば京都市は2015年、「周辺の住民の生活環境に悪影響を及ぼすような給餌」を禁止する内容を含む、「動物との共生に向けたマナー等に関する条例」を制定し、住民に対して、「適切な給餌」をするように求めています。この条例によって、不適切な給餌は禁止されました。
しかし、この条例によっても、どのような場合に餌やりが禁止されるのかが明確になっていない点に問題があるのではないか、ということも言われています。その不明確さがあるために、餌やりをやめさせたい住民と、餌をやっている住民との間で対立を引き起こす可能性も否定出来ません。
ーー相談者のように「お腹を空かせて家にくる猫をみると放っておけない」という気持ちも確かにわかるものです
最終的には、世の中には猫が好きな人、嫌いな人、野良猫による鳴き声や糞尿などに困っている人など様々な人がいるという前提を理解しつつ、相互に他者への配慮をした上で餌やりを行うしかないのかもしれません。
なお、2017年に和歌山県が、地域猫活動(野良猫を捕まえ、不妊・去勢手術をし、元の場所で住民が飼育する取り組み)の推奨を全国で初めて条例に明記しました。即効性はないかもしれませんが、いずれ猫の数は減り、糞尿などの被害も減ると考えられています。
今後は、こういった活動も期待されていくと思います。
【取材協力弁護士】
鈴木 智洋(すずき・ともひろ)弁護士
専門は労働法(使用者側限定)、行政法(行政側限定)、動物法・ペット法。動物法・ペット法に関しては、ペット法学会に所属する他、国立大学法人岐阜大学応用生物科学部獣医学課程の客員准教授も務めている。
事務所名:後藤・鈴木法律事務所
事務所URL:http://www.gs-legal.jp/index.html