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「#MeToo」に火をつけた調査報道、2人の女性記者の闘いを描く 『その名を暴け』日本語版が出版

2020年08月15日 09:21  弁護士ドットコム

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セクハラや性的被害を告発する「#MeToo」運動のきっかけになったハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行。米紙ニューヨーク・タイムズのジャーナリスト、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの調査報道により、多くの女優や従業員が被害をうけたことが明るみに出た。


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2人が報道までの軌跡をまとめた共著『SHE SAID』の日本語版『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』が7月30日、新潮社から翻訳出版された。



被害を受けても、示談金と引き換えに「秘密保持契約」を結ばされて来た女性たち。それは自分の経験を語る権利を放棄するためのサインでもあった。ミーガンとジョディは沈黙を強いられてきた被害者に連絡をとり、金銭のやり取りや証言の裏付け作業を進めていく。



翻訳を手がけた古屋美登里さんは「隠されていた事実を浮き彫りにするジャーナリストの凄さと女性たちの連帯にただただ感動しました。読んで震えて欲しいです」と話す。





●隠されていたワインスタインの悪行

『恋におちたシェイクスピア』や『華氏911』、『英国王のスピーチ』などを手がけたワインスタインは、アカデミー賞作品賞を5回も受賞し、ハリウッドを代表する存在だった。その一方で、女性への性的暴行の噂が立っていたが、公に報道されたことは一度もなかった。



そんな中、2016年10月に女優のローズ・マッゴーワンが、あるプロデューサーにレイプされたとツイートする。ジョディの取材は、マッゴーワンへのメールから始まった。







性暴力被害の取材は難しい。暴行は一対一の密室でおこなわれることが多く、被害者の証言しかなければ加害者が「記事は嘘だ」と否定して終わりだ。ただ、ワインスタインの場合は違った。多くの女性と示談を重ねていたのだ。示談書や支払われたお金の記録があればーー。ジョディは女優たちの連絡先を調べ始めた。



ワインスタインも黙ってはいなかった。2人の動きを察知すると、敏腕弁護士を何人も代理人につけ、探偵も雇い記事の発表を止めさせようとする。ミーガンとジョディも、実名をあげて告発する女性や情報提供者を守るためさらなる取材を進める。2017年10月5日に記事が公開されるその直前まで、息をもつかせぬ攻防が繰り広げられた。



翻訳にあたって、古屋さんは「2人の文体は新聞記事のように事実を淡々と伝えるもので、書き手の感情が書かれておらず訳すのに苦労した」と振り返る。



「彼女たちは自分自身の感情を出さずに、取材した人の言葉を書いて事実を連ねています。どう評価するかは読んだ人が考えるべきであって、報道は裁かない姿勢が大事なのかもしれないと思いました」



ニューヨークの裁判所は2020年2月24日、ワインスタインは2人の女性に対する性的暴行の罪で、有罪の評決を下した。



●声をあげた女性たち

本では、米連邦最高裁判事候補としてトランプ大統領から指名されたブレット・カバノー連邦控訴裁判所判事から高校時代に性的暴行を受けたと告発した心理学者のクリスティン・ブレイジー・フォード教授のストーリーも描かれている。



2018年9月に開かれた公聴会でカバノーとフォードがそれぞれ証言する様子は、全米の主要なチャンネルでライブ中継された。





フォードの証言は多くの性暴力被害者の心を打ち、国会議事堂前でのデモに発展。その後、マクドナルドの労働者やジャーナリストなど、様々な女性が性的嫌がらせの被害を告発した。



「フォードはカバノーを批判するというより、立場上彼がその職を引き受けるのはまずいのではないかと言いたかった。自分に起きたことをなかったことにはできないというその一点で行動していました。性加害者であるカバノーが、日本でいう最高裁判所判事の立場に就くことはおかしいと自身の責任感から告発したのです」(古屋さん)



本の翻訳をする中で、古屋さん自身も「あれは性的嫌がらせだったのか」と過去の出来事について思い巡らすことがあったという。



「本を読むうちに自分の半生を振り返って、これまで気づかなかったことに気づくと思います。女性たち一人一人は無力でも、連帯すれば運動となり、それがまた女性たちを勇気づける。老若男女問わず読んで欲しい一冊です」