2020年08月13日 11:01 弁護士ドットコム
妊娠していた女性の同意を得ないで堕胎させたとして、岡山市内の病院に勤務する男性医師(33)が、不同意堕胎致傷の疑いで、このほど岡山府警に逮捕された。
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報道によると、男性医師は2020年5月、20代の女性に麻酔薬とみられる薬を投与し、女性の同意を得ずに妊娠約2カ月の胎児を堕胎させるとともに、女性に全治約1週間の傷害を負わせた。
胎児の命を奪った行為について、今回の逮捕容疑は「不同意堕胎致傷罪」だが、殺人罪の適用はないのだろうか。濵門俊也弁護士に聞いた。
ーー胎児を死なせてしまっても殺人罪にならないのはなぜでしょうか
「行為の客体について、堕胎罪は『胎児』、殺人罪は『人』という違いがあります。つまり、行為の相手が『胎児』か『人』かで成立する犯罪が変わりますから、人の始期としての出生時期が重要です。
判例(大審院大正8年12月13日判決)及び通説は、一部露出中の胎児の肢体に直接侵害を加えたか否かを基準とする『一部露出説』を採用しています。したがって、一部でも胎児が母体から出てきた時点から、刑法上、『人』として扱われることとなります」
ーー妊娠約2カ月の胎児が、刑法上の『人』に該当することはなさそうですね
ーー不同意堕胎罪とはどのような犯罪でしょうか
「妊婦の同意を得ないで堕胎する犯罪で、『6月以上7年以下の懲役』という法定刑が定められており、堕胎罪のなかでは最も重い刑です。
また、不同意堕胎致傷罪は、『傷害の罪と比較して、重い罪により処断する』と規定されています。傷害罪の法定刑は『15年以下の懲役又は50万円以下の罰金』とされていますから、不同意堕胎致傷罪の法定刑は、『6月以上15年以下の懲役』となります」
ーー逮捕容疑は「不同意堕胎致傷罪」です。どのような点が致傷と判断されたのでしょうか
「報道によりますと、被害女性に麻酔薬とみられる薬を投与、意識をもうろうとさせて承諾を得ないまま堕胎させるとともに約1週間のケガを負わせた疑いとのことですから、この点を『致傷』と評価しているものと思われます。
薬を用いて意識をもうろうとさせる行為のみをとらえると傷害罪になるだけですが、堕胎行為を含めて包括的な一つの行為ととらえ、それに伴う約1週間のケガをもって、不同意堕胎”致傷”罪に当たると考えているのではないでしょうか」
【取材協力弁護士】
濵門 俊也(はまかど・としや)弁護士
当職は、当たり前のことを当たり前のように処理できる基本に忠実な力、すなわち「基本力(きほんちから)」こそ、法曹に求められる最も重要な力だと考えている。依頼者の「義」にお応えしたい。
事務所名:東京新生法律事務所
事務所URL:http://www.hamakado-law.jp/