新型コロナウイルスの影響で多くの飲食店が窮地に陥っている。そうした中で、ウーバーイーツなどのデリバリーサービスやテイクアウトに活路を見出す飲食店は多い。
ウーバーイーツの登録店はいまや1万4000店を超え、筆者が住む埼玉県内でもウーバーイーツの自転車をよく見かけるようになった。しかし、中には「ウーバーイーツも食べログも必要ない」と強気の姿勢を見せる飲食店オーナーもいる。強さの理由はなんなのか。飲食店への取材を通じて探ってみたい。(文:篠原みつき)
「温かいものは温かいうちに食べてほしい」
埼玉県内で洋食レストランを営むオーナーシェフのAさん(67歳)は、新型コロナの影響について「正直、それほど困っていないんです」と語る。今年で開店から23年、客の大半が常連で、自粛期間中にも変わらず来てくれる人が多いのが理由だ。
近隣の学校や病院の職員による宴会がなくなり、団体客が入らないのは痛手としながらも「暮らしていけないことはない」と余裕を見せる。自宅兼店舗のローン返済は残っているが、家賃を支払う必要がないことも大きな強みとなっているようだ。
飲食業全体にとっては厳しい状況が続く中、Aさんは都内でレストランウェディングを経営する友人から「ウーバーイーツをやろうかと思うんです」と相談された。Aさんは即座に「おまえそれウーバーイーツにカネ持っていかれるだろ」と反対した。Aさんの店にも、新型コロナの前と合わせて2~3回はウーバーイーツからの誘いがあったというが、すべて断っているそうだ。
「ウーバーイーツは35%売上持っていかれるでしょ。価格はそれに上乗せする形になるので、結局お客さんが払うお金が高くなるだけ。温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに食べてほしい。美味しいものを出しても、配達で劣化して『そんなに美味しくないね』と言われるのが嫌なので、うちはやらないです」
ウーバーイーツは登録料こそ無料だが、店側はウーバーイーツ総売上から35%の手数料を支払わなくてはならない。その分、提供メニューを割高にしなくてはならず、客に対して申し訳ないと感じるようだ。
過去には、口コミグルメサイトの代表格である食べログからも「クーポンをやらないか」と有料掲載を勧められたことがあるという。しかし、食べログで適当な評価をつけられることに不信感を持っているAさんは、こうしたグルメサイトへの有料掲載もウーバーイーツも一切やらないと決めている。
「なにより、休んでお客さんが離れるのが怖いです」
とはいえ、売上が減ってつらかった時期もあるという。3月までは去年より多かった売上が、4月末から6月末には半減してしまい、個人事業者らに支給される持続化給付金100万円の給付を受けた。申請から受け取りまでは1か月ほどかかったそうだ。ただ、36席あるAさんの店舗では、業者への支払いなどの経費1か月分くらいにしかならない。
「正直100万入っても、普通に営業していたら経費で月に70~80万円出てしまう。7月に祖父が亡くなったので、(給付金分は)葬式代で飛んじゃいました」
埼玉県ではまだ時短営業の要請は出ていない。酒を飲む前提の店ではないが、ワインを空ける夜の客は客単価が1万円と高いため、時短ということになったら痛手になるという。
「なにより、休んでお客さんが離れるのが怖いです。絶対客が戻るとは言い切れない。いまも完全には戻っていないですから」
と甘くない現状を付け加えた。店にはAさんとの世間話を楽しみに訪れる客も多い。県が休業要請を出しても、客離れは命取りになるため完全休業することはできないという。
それでも、Aさんは「裕福ではないけど、首吊るほど苦しくないですね」と語り、今後もこの窮状を乗り切っていく自信があるようだ。以前AIが仕事を奪うと話題になったとき、実業家の堀江貴文氏が
『スナックなど「ママに会いたいから」といった属人的な理由でお客さんが来る店はつぶれない』
と自身の著書のなかで説いていた。飲食業全体にとっては厳しい状況が続くが、AIにもコロナ禍にも負けない飲食店の典型を見た気がする。