2020年08月11日 10:21 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの影響で、2020年度の最低賃金はほぼ据え置きとなる見通しだ。中央最低賃金審議会が7月22日、「引上げ額の目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」との報告書を出したからだ。
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労働者側から不満の声がもれる一方で、胸をなでおろしている使用者もいる。その代表例がコンビニだろう。24時間営業が基本なだけに、小さな時給アップが大きな負担につながる。
都内のある加盟店オーナーは、「コロナ禍で売り上げが減っています。最賃が上がったら、トドメを刺される経営者が多かったと思います」と、心底ほっとした様子で語った。
三井住友トラスト基礎研究所の調査によると、コンビニの73%が、最賃とほぼ同額(101%未満)の水準でアルバイトを募集しているという(2017年10月18日 )。それだけに最賃アップの影響は大きい。
24時間、常時バイト2人で試算すると、時給が5円上がれば、年間で9万4000円ほどの負担増になる。2019年度は全国平均が前年より27円アップしたが、年間だと約50万円増という計算だ。
これはオーナーにとってインパクトのある数字だ。たとえば、単店経営のファミリーマート加盟店の4割近くが営業利益400万円以下という数字もある(2012年度)。経営が苦しい加盟店にとっては、最賃アップが生活を大きく左右する。
2019年度にあった経済産業省の「新たなコンビニのあり方検討会」の委員も務めた武蔵大学の土屋直樹教授は次のように語る。
「経営状態が良い店は時給を上げられますが、そうでない店は競合する他業種よりも低い金額で募集しなければなりません。結果として、人手不足や人件費削減のため、オーナーが長時間労働になるという構図があります」
土屋教授は、埼玉地方最低賃金審議会の委員でもある。中央の審議会は目安を示さなかったが、埼玉県では10月から2円アップの928円になる見込みだ。
「時給は5円刻みになっていることが多い。使用者側も『“繰り上がり”のない1~2円ならば』という感じもあったかもしれません。数円上がっても、コンビニを含め、経営側にはそこまで影響は出ないのではないでしょうか」
一方でコンビニもコロナで大打撃を受けている。日本フランチャイズチェーン協会によると、4月から6月のコンビニ売上高(既存店ベース)は、前年比10.6%減→10.0%減→5.2%減と推移している。
6月になって、セブンイレブンが前年比1.0%増と転じたが、ファミマ、ローソンは依然として苦戦を強いられている。
コンビニ加盟店ユニオン執行委員長の酒井孝典さんも大きな影響を受けたオーナーのひとり。自身が経営するファミマ店舗(単店)は売り上げが大幅に減り、「最低保証」にかかってしまったという。
「住宅街などではむしろ売り上げが伸びたという話も聞きます。立地によって、コロナの影響が全然違います」(酒井さん)
苦境にあえぐ加盟店がある一方で、コロナ禍においては、コンビニが雇用の受け皿となり、人手不足が解消されつつあるという指摘もある。たとえば、ニュースイッチ(日刊工業新聞)は7月7日の記事 で、応募が例年の約2~3倍になっていると報じている。
実際、冒頭で紹介したオーナーの店では、「一時的に応募が殺到して、(オーナーの)シフトがなくなるくらいだった」という。
しかし、「感染が怖い」と辞める人や、緊急事態宣言が明けて「仕事が見つかった」と店を去る人もいたため、オーナーが長時間労働をする生活に戻ってしまったそうだ。
こうした状況から、土屋教授は今後、加盟店間の二極化がさらに進んでいくのではないかと考えている。
売り上げのある店では、待遇の改善などによって人手不足などが解消されやすくなるが、売り上げのない店はよりオーナーの働き方が過酷になる恐れがある。
土屋教授が委員を務めた検討会は、コロナ問題が本格化する前の今年2月、「本部の加盟店支援の強化」などを柱とする報告書を発表した。前後して、各本部も取り組みを発表。対応を求められている。
例年通りなら、最賃が約30円アップしていたわけだから、最賃がほぼ据え置きになることで、本部側には「猶予」ができたようにも見える。しかし、店舗によっては、コロナによって大きな影響を受けている。また、日本の最賃が先進国の中でも低いことを指摘する声も大きい。
「今年度の最賃が変わらなくても、コンビニ加盟店をとりまく環境の厳しさは変わりません。本部も判断が難しいと思いますが、コロナ時代におけるビジョンを示せないと、加盟店がついて行けなくなる恐れがあります」
経産省による「コンビニ調査2018」では、「契約を更新したい」と答えたオーナーの割合は45%で、2014年度調査より23ポイントも減少している。オーナーのなり手がいなくなると、フランチャイズ本部の繁栄も難しくなる。