2020年08月11日 10:21 弁護士ドットコム
司法制度改革にともない、それまでと比べて弁護士になる人が増えた一方で、この間、旧司法試験時代から数えて20年近くも司法試験に落ちつづけたという男性がいる。八神さん(@ibbZEuXH3AkukTh)だ。
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現在は、弁護士になる夢は「あきらめた」という八神さん。工事現場の交通誘導員のバイト、ブログ運営、単発のライターをかけもちしながら、これまでの体験や近況などをツイッターやブログ「司法試験八振の末路」でつづり、注目をあつめる。
八神さんが、弁護士を目指して司法試験の勉強に本格的に取り組みはじめたのは、大学3年生のころ。1990年代のことだ。当初は独学だったが、大学卒業後からは、いわゆる「予備校」を利用しながら、最難関と呼ばれる試験に挑戦していた。
「社会的弱者のために人生をかけて働きたい」
2004年から法科大学院(ロースクール)制度がはじまると、あるロースクールに入って、そこでも勉強をつづけて、卒業後は新司法試験を受けた。しかし、ことごとく不合格となってしまった。
当時、ロースクール卒業後の受験回数は「3回」という制限があり、3回とも落ちた場合、「三振」などと揶揄された。「三振」した人が新司法試験を受けるためには、新たにロースクールに通う必要があった。
八神さんは二度目のロースクール生活を送ることになる。その後、受験回数が緩和されて、さらに5回の受験チャンスを得ることができたが、残念ながら、そのすべてに失敗した。
「八神」というハンドルネームは「八振」(三振+五振)からきている。
実は、記者も弁護士を目指して法学部に入った人間の一人だ(八神さんと違って、すぐにあきらめてしまったが・・・)。今回、八神さんの言葉を残しておきたいと考えて、インタビューした。(ニュース編集部・山下真史)
――どうして司法試験を目指したのですか?
月並ですが、当初は社会的弱者のために人生をかけて働きたいという思いがありました。幼いころに観た映画やドラマで、法廷の中で戦う弁護士像に憧れを抱いたのかもしれません。
しかし、それは表面だけで、実際は社会的に認められたいとか、経済的に成功したいとか、女性にモテたいとか、そんな煩悩に支配された欲求もなかったと言えば、嘘になります。
――司法試験の勉強で苦労したことは何ですか?
旧司法試験時代に短答試験(マークシート)に合格したこともあり、短答式は比較的得意でした。中でも刑法はあまり勉強せずに得点できたので、得意と言っていいと思います。
その反対に論文は大の苦手でした。旧司法試験時代の「一行問題」(「◯◯について論じなさい」という形式の問題)は比較的好きな部類でしたが、事例問題が苦手でした。新司法試験になると「一行問題」は出題されなくなったので、新司法試験の論文にはまったく対応できなかったと言ってよいでしょう。
苦手科目は憲法、行政法の公法系です。特に憲法は勉強してもしなくても得点できず、成績は変わりませんでした。よく憲法は水物と言われますが、それを体現したような成績でした。
――ロースクールでの勉強はどうでしたか?
ロースクールでの勉強は、司法試験に直接役に立ったかと言われればわかりません。私自身、合格していないので評価のしようもないのですが、教授によって方針がまったく異なっていました。
実務家出身の教員は、テクニカルなことを教えてくれたので、予備校の授業を受けている感覚に近かったと思います。研究者の教員に関しては、やはり学説に強いこだわりを持っておられる先生もいらっしゃって、試験に直結しなかったように思えます。
仲間とゼミを組んだり、答練をできたことは非常に有意義でした。司法試験の勉強は半ば孤独になりがちですが、励まし合ってロースクール生活を終えることができました。
なお、出身ロースクールについては回答を控えさせていただきます。一度目のロースクールでは未修者コースで授業料は半額程度免除になりました。二度目のロースクールでは既習コースで全額免除でした。
――不合格について。
新司法試験「三振」のときは本当に辛かったです。人生で最も勉強しましたし、自分なりにも手応えはありました。
三振のときはリーマンショック(2008年)の影響が残る不景気でしたので、ハローワークに通っても「既卒・高年齢・職歴なし」では、まともな仕事がありませんでした。人生に絶望したのを今でもはっきりと覚えています。
このときにはうつ症状を発症していました。今考えても一歩間違えれば、危うい精神状態だったと思います。
五振のときは、感情が無の状態というか、やっとこれで試験から足を洗える大義名分を得たような感じがして、絶望の中にも少しだけ安心した気持ちになりました。
――後悔はないですか?
私の人生は後悔だらけです。戻れるのならば大学生時代に戻って、司法試験を受けず、新卒カードを使って会社員になりたいです。そして家庭を持ち、「住宅ローンが大変だ~」とか同僚に冗談交じりに言えるような生活がしたかった。
高望みせずに普通の生活がしたかったです。しかし、私が選んだ人生なので仕方がないことです。ですので、ブログでも、出版予定の電子書籍でも、私は「司法試験に挑むかどうか考えること」に一番時間をかけてほしいことを訴えています。
私のような末路を見て、仮に同じようになったとしても耐えられる自信がある人にだけ司法試験にチャレンジしてほしいと思っています。大切な人生の時間です。二度と戻って来ませんから。
――未練はないですか?
「弁護士という仕事」に対しての未練はあります。人生の大半を費やして挑戦したわけですから。私もなれるものなら、一度は弁護士バッジをつけて法廷に立ちたかった。しかし叶わないことというのはあります。
一方で、「司法試験」に対する未練は微塵もありません。やりきりました。
司法試験の経験者なら理解してくれると思うのですが、1回でも受験すること自体にとてつもない体力と精神力、エネルギーが必要です。これを20年近く繰り返してきたわけですから、受験自体はやりきったと自分を評価しています。
――法曹という仕事の魅力は何だと思いますか?
法曹はとても魅力的な仕事だと思います。ときには人の生死を左右したり、社会的に弱い立場の方々の人権を守る仕事なわけですから。そんな仕事はほかにないと思います。社会的に重い責任と使命があるのだと思います。
たまに弁護士が不正をはたらいて逮捕されるニュースがありますが、本当に悲しい気持ちになります。
今法曹として活躍されている方々には、「あなた方の活躍されている舞台の下に私を含めた志半ばで思いが叶わなかった人たちの存在があること」を忘れないでほしいと思います。その思いも連れて法廷で戦ってほしいと思います。