2020年08月10日 08:51 弁護士ドットコム
夫婦にとって、セックスレスは時に離婚の理由にもなり得る。東京都に住む会社員のヒロコさん(40代女性)も、その一人だ。
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ヒロコさんが夫とセックスレスになったのは、結婚してすぐのことだった。子どもを望んでいるのに、「疲れている」「忙しい」ことなどを理由に拒否され続ける日々。夫とは何度も話し合いを重ねてきたが、状況は改善されなかった。
周囲に「子どもは?」と言われる度に、虚しさに襲われたという。ヒロコさんは自信をなくし、心療内科を受診するようにまでなった。
「最後に話し合ったときは、お互いに感情的になり、大げんかになりました。夫には『毎日、缶ビール6本も飲む女は抱きたくない』『家にいるときはジャージや部屋着。女性として見られない。そもそも、お前が悪いんだけど』と言われました」(ヒロコさん)
「完全に女性として否定された」と感じ、夫との離婚を決意したヒロコさん。子どもをもつことが夢だったが、「もう40代なので、正直諦めなければいけないと思っています。やるせない」と語る。
民法が定める離婚事由に「セックスレス」は明記されていない。では、セックスレスの継続を理由とする離婚は認められるのだろうか。
離婚問題に詳しい木下貴子弁護士は、つぎのように説明する。
「家族社会学の研究者の著書によると、結婚の機能として『個人に対する性的欲求充足の機能』が挙げられています。また、夫婦は原則として性関係を予定しており、『生殖の正当化を含み、自分の子が欲しいという願望を充足させる』のが夫婦であると考えられています。
そのため、特別に『性交渉しない・子どもを作らない夫婦となりましょう』という合意をしない限り、性交渉をし、子どもを持ちたいと求め合えるのが夫婦であると考えられます。
したがって、セックスレスの継続は、民法770条1項5号の『その他、婚姻を継続し難い重大な事由があるとき』に該当し、離婚が認められうるでしょう。
実際に『婚姻が男女の精神的・肉体的結合であり、そこにおける性関係の重要性に鑑みれば、病気や老齢などの理由から性関係を重視しない当事者間の合意があるような特段の事情のない限り、婚姻後長年にわたり性交渉のないこと』は、原則として婚姻を継続し難い重大な事由にあたるとする裁判例(昭和62年5月12日京都地裁判決)もあります。
ただし、性交渉をしないことについて『合理的な理由』がある場合には、セックスレスだけでは離婚が認められないこともあるでしょう。
今回のケースの場合、ヒロコさんの飲酒状況や服装がセックスレスの理由とされていますが、これは一般的には『合理的な理由』としては認められにくいでしょう」
「もっと早く離婚を決断できていれば、別の人とやり直し、子どもをもつこともできたと思います」と話すヒロコさん。どんなに悔やんでも時間は戻らないことから、夫に対して慰謝料を請求することも検討しているという。
木下弁護士は「ヒロコさんのケースでは、慰謝料が認められる可能性はあります」と語る。
「合理的な理由も示さず、セックスレスが続いたケースで、200万円、500万円といった慰謝料が認められているケースもあります。
慰謝料の額はセックスレスの事実だけでなく、年齢、再婚可能性、婚姻の際の経済的負担、離婚による経済的不利益なども考慮されます。
性交渉は本能的な要素もあるため難しいところではあります。
しかし、ヒロコさんの夫が指摘する理由(ヒロコさんの飲酒や服装のこと)がセックスレスの原因だとしても、長期間のセックスレスが続いたことで出産適齢期を過ぎてしまい、『子どもがほしい』というヒロコさんにとっては大切な望みが叶えられないことに対しては、一定程度の慰謝料が認められる可能性はある事案だと思われます」
【取材協力弁護士】
木下 貴子(きのした・たかこ)弁護士
離婚・親権・養育費の分野で1000件以上の案件を扱う。「離婚後の親子関係の援助について」「養育費」をテーマに講演。離婚調停での「話し方」アドバイスブックはこれまでに1万9000人以上が利用している。著書「離婚調停は話し方で変わる」「離婚回避・夫婦関係修復につなげる話し方の技術」がAmazon法律部門他ランキング第1位獲得。
事務所名:多治見ききょう法律事務所
事務所URL:https://tajimi-law.com