2020年08月09日 07:41 弁護士ドットコム
離婚した両親に新しいパートナーができた場合、内心では複雑な気持ちになる人もいるだろう。子どもからみれば、親の新しいパートナーは「赤の他人」だ。特に、親とパートナーが籍を入れずに子どもと同居している場合、親が亡くなったときにトラブルに発展することもありうる。
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弁護士ドットコムにも、「亡くなった父の『内縁の妻』が家から出て行ってくれません」という相談が寄せられている。
相談者は両親の離婚後、父親に引き取られた。その数年後、まだ未成年だった相談者は、父親が購入した家で、父親とそのパートナーである女性と3人で暮らすようになった。父親とパートナーである女性は結婚しなかったものの、長年にわたって同居しており「内縁」関係にあるという。という。
父親が亡くなると、1人っ子であった相談者がすべての遺産を相続した。遺産の中には、父親が購入した家も含まれている。しかし、父親が亡くなった後も「内縁の妻」は家に住み続けており、出て行かないという。
相談者は、内縁の妻には、家から出て行ってほしいと思っている。このような場合、強制的に父親の内縁の妻を家から退居させることはできるのだろうか。
相続に詳しい菰田泰隆弁護士は「相続権のない内縁の妻に居住権が認められるかについては争いがあります」と語る。
「多くの裁判例では、相続人から内縁の妻に対する建物明渡請求について、明渡請求が『権利の濫用』にあたり、明渡しは認められないと判断されています。
権利の濫用に該当するかについては、内縁関係の期間、相続人の建物利用の必要性、内縁の妻の損害等が考慮されます。しかし、相続権のない内縁の妻を保護する観点から、明渡請求を認めない事例が多く、強制的に退居させることは基本的に難しいものです」
相談者は、内縁の妻が家から出て行くことが難しいならば、家賃を支払ってほしいとも考えている。書面を作成するなどして、家賃の支払いに応じてもらうことはできるのだろうか。
菰田弁護士は、つぎのように説明する。
「もちろん、強制的に明渡しを求めることができないとしても、無償利用が常に許容されるわけではありません。内縁の夫と妻との間に使用貸借契約が認められない限り、他人の所有物を使用収益する以上は賃貸借として賃料が発生するケースもあり得るところです。
まずは相手方(内縁の妻)と交渉をおこない、交渉で決着がつかない場合には調停をおこなうことになります。最終的に調停でも決着がつかない場合には、賃料請求の訴訟を提起することになるでしょう。
その際は、周辺の賃料相場等から設定賃料を検討しなくてはならないため、不動産会社の協力が不可欠です。また、賃料が決まったら賃貸借契約書を締結することになりますので、弁護士による作成またはチェックをおこなった上で契約書を締結するように心がけましょう」
一方、今回のケースに限らず、内縁の妻(あるいは夫)の立場からは「パートナーが亡くなった後、内縁関係だったために住む場所を失った」などの声もあがる。
そもそも「内縁関係」の場合は、いっさいパートナーの遺産を相続することはできないのだろうか。
「遺言書がない場合、内縁の妻(あるいは夫)は原則として相続することはできません。ただし、相手方に相続人がいない場合であれば、例外的に民法上特別縁故者として相続できる場合があります。
そのため、内縁の妻(あるいは夫)が相続できる場合は限定的です。
内縁の妻(あるいは夫)としては、生前に遺言を残してもらう、生命保険受取人に指定してもらう、生前贈与をしてもらう等といった対応が必要であり、弁護士に相談しながら準備を進めることが望ましいと思われます。
また、内縁の妻(あるいは夫)が特別縁故者として相続する場合は、管轄の家庭裁判所へ相続財産管理人の選任申立てをおこない、手続きを進める必要があります。この手続きは極めて煩雑であり、時間を要するものです。弁護士としっかり相談して進めるべきでしょう」
【取材協力弁護士】
菰田 泰隆(こもだ・やすたか)弁護士
早稲田大学大学院法務研究科修了。「弁護士こそサービス業である」を理念に、社労士法人菰田総合コンサルティング、税理士法人菰田総合コンサルティングを設立し、KOMODA LAW OFFICEグループとして組織化を進める。法務・労務・税務を総合的にサポートする総合事務所として課題解決を強みとしている。
事務所名:弁護士法人菰田総合法律事務所
事務所URL:http://www.komoda-law.jp/