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「右手で隠してたから見せてない」 公然わいせつ容疑で逮捕された港区議の「言いわけ」は通用する?

2020年08月08日 09:51  弁護士ドットコム

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川崎市の駐車場で、下半身を露出したとして、東京都港区の区議、赤坂大輔容疑者が8月6日、公然わいせつの疑いで神奈川県警に現行犯逮捕された。


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報道によると、赤坂容疑者は8月6日午後1時半ごろ、川崎市内の駐車場で下半身を露出した疑いが持たれている。通りかかった10代の女性らに声をかけ、ズボンを下ろしたという。



赤坂容疑者は4期当選の区議で、「都民ファーストと日本維新の会」会派に所属。日本維新の会では、次期衆院選における公認候補となる東京1区支部長をつとめている。



赤坂容疑者は「右手で隠し、左手でズボンを下ろしていたので見せていない」と容疑を否認しているという。しかし、この「言いわけ」によって公然わいせつ罪をまぬがれることはできるのだろうか。鐘ケ江啓司弁護士に聞いた。



●「手で隠していても、公然わいせつ罪は成立」

もし仮に、右手で隠していたため、女性たちが見えてなかったとしたら、公然わいせつ罪にはあたらない可能性はあるのか。



「報道内容を前提とすると、性器を手で隠していても公然わいせつ罪は成立すると考えられます。



性器を隠しているので『わいせつ』ではないとか、『公然』ではないという意見が考えられますが、今回の場合は目の前で脱いでいるという点が重要です。



公然わいせつにおける『わいせつ』の意義について判断した最高裁判例はありませんが、一般にはわいせつ物陳列罪の『わいせつ』と同じ定義、すなわち『性欲を刺激、興奮又は満足させる行為であり、普通人の性的差恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為』と解釈されています。



陰部を隠して行われたストリップショーについて、公然わいせつ罪の成立を認めた判例もあります(福岡高判昭27.9.17高刑集5-8-1398)。そして、公然とは,不特定または多数の人が認識することのできる状態をいいます(最決昭32.5.22集11-5-1526)。



ここから考えると、目の前で脱ぎだして、性器を衣服でなく手で覆うようにして隠しているということは、性器を露出していなくてもわいせつな行為といえますし、公然性も認められるでしょう」



●公然わいせつ罪にあたらなくとも、神奈川県では…?

公然わいせつ罪にあたらなくても、ほかの罪はどうだろうか。



「神奈川県迷惑行為防止条例には次のようにあります。



(卑わい行為の禁止)
第3条 何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗つている人に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。

(1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接に人の身体に触れること。


(2) 人の下着若しくは身体(これらのうち衣服等で覆われている部分に限る。以下「下着等」という。)を見、又は人の下着等を見、若しくはその映像を記録する目的で写真機その他これに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置し、若しくは人に向けること。

(3) 前各号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。


また、神奈川県警の逐条解説では



『第3号は、前各号以外のいやらしくみだらで、社会通念上、人の性的差恥心を害し、嫌悪感を催させ、又は不安を催させるような言動の一切を禁止するものである。

具体的には

・傘の柄等を他人の胸部や霄部に押しつける行為
・ 耳元等に息を吹きかける行為や耳元でわいせつな言葉をささやく行為
・下着を見るためにスカートをまくり上げたが見ることができなかった場合

等がこれに当たる』


とされています。 今回のケースが、仮に公然性やわいせつ性の点が問題となり、公然わいせつ罪が成立しないとしても、迷惑行為防止条例違反にはなるでしょう。



余談ですが、現在、公然わいせつ罪よりも、迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)のほうが法定刑は重く設定されています。



しかし、公然わいせつ罪が成立する場合、国法が優先して迷惑行為防止条例違反は成立しないと考えられています(坂田正史「迷惑防止条例の罰則に関する問題について」(『判例タイムズ』1433号21頁・2017年4月/33頁注46はこの点を疑問視しています)。



そのため、議員にとっては、公然わいせつ罪が成立するほうが軽くなるということもありえます」



(刑法)
174条:公然とわいせつな行為をした者は、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する。

(神奈川県迷惑行為防止条例)
15条:3条の規定に違反した者は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処する。



【取材協力弁護士】
鐘ケ江 啓司(かねがえ・けいじ)弁護士
刑事弁護、中小企業法務(労働問題、知的財産権問題、契約トラブル等)、交通事故、借地借家、相続・遺言、後見、離婚、犯罪被害者支援、等々幅広い事件を取り扱っている。執務のかたわら、条例による盗撮規制の研究をしており、全国47都道府県の警察本部が作成した迷惑行為防止条例の逐条解説を保有している。

事務所名:薬院法律事務所
事務所URL:http://yakuin-lawoffice.com/