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スーパーGT:「フロントが守れない」FRのClass1初挑戦のNSX。開幕戦で見えたセッティングの課題

2020年08月06日 13:41  AUTOSPORT web

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2020年スーパーGT第1戦富士 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)
66周、300kmの決勝レースで見えてきたホンダNSX-GTの課題は大きくふたつ。それが富士で重要な最高速とタイヤのドロップダウンの大きさだ。

 公式練習時点からスリップストリームに入らない単走状態での最高速に着目すると、常時300km/hにタッチする勢いのGRスープラに対し、週末のセッション結果でNSX-GT勢最上位を競い続けたARTA NSX-GTとRAYBRIG NSX-GTは290km/h台中盤がアベレージ。

 唯一、KEIHIN NSX-GTだけがセットアップ差で300km/hに迫ろうかという状況だった。

 またタイヤドロップに関しても、土曜時点で「予選ができないかも」と想定されるほどの天気予報を受け、前日に硬めのタイヤを多く消費して予選シミュレーションをこなしたという事情もある。

 その点に関して、ATRAの野尻智紀は「柔らかいほうしか残ってなかったので、最初の福住(仁嶺)選手のスティントはもう結構悲惨で、本当に頑張ってくれた」と後輩を労いながら、今回の結果はその点以外にも原因が存在していそうだと分析する。

「決勝後半、僕が履いた硬い側のタイヤでも同様にポテンシャル差ってのは埋まらなかった。ただ長い距離を走れたっていうだけ。マネジメントというよりクルマの持ってる特性の方が大きいのかもしれないですね。あと、ストレートも少し差があったように思えました」

 その決勝中には、ストレートでGRスープラに早い段階で並ばれ前に出られると、GT300の処理に詰まったりした際には「太刀打ちできない」ような状況だったという。

「タレ始めるのもフロント側……というより両方? この辺はチームのセットアップとかその辺も関係があるんですけど、まだまだ接地の安定みたいなものは改善できる余地はあるかな、と。僕たちはまだ結構跳ねてる場面も多いので、そこを良くしていかないと、ダウンフォースが減ったときに走れなくなってしまう」

 今季からARTA NSX-GTのエンジニアを担当するライアン・ディングル氏も「後半スティントのタイヤでスタートしても、レース結果は変わらない気がする」とドライバー陣をフォローしつつ、対ライバルでの課題を口にする。

「僕は昨年までトヨタ陣営で仕事をしていたので、(FRになったNSX-GTも)特性的に似ているところはあると感じる。スープラはLC500とほぼキャラクターが同じ感じ。レースに強いクルマ。タイヤウェア(摩耗)が低いんですけど、上手く荷重を入れれば変動を抑えられるクルマじゃないですかね。そうでないとレースでのああいう(タイヤの)保ち方はしないと思う」

 今季、エンジンを移したことでフロント軸重が大きく増したNSX-GTだが、それと同時にClass1+α規定ではフロア面の自由開発領域が消滅し、エアロデバイスを活用してフロントのダウンフォースを確保することがより難しくなっている。それはつまり、空力面でフロントタイヤの消耗を助けてやることができない、ということだ。

「(共通サスペンションの)ジオメトリーの部分も含めて一番違うと個人的に思うのはエアロ。フロントが守れないね。エアロをどうやって出すかは昨年までのクルマと結構違うので、サスペンションの使い方を合わせなきゃいけない」

「現在のF1みたいな感じで、完全にサスペンション優先するとエアロがオイシいところからちょっと外れる……とか、そういうバランスがある。DTMのクルマと似たような方向性。それはそういうレギュレーションになったから」と語るディングル氏。

 第2戦の富士は8月第2週の開催で、気温も路面温度もこれまで以上になると予想される。ドライでもウエットでもタイヤ選択の精度が求められる点はNSXの開発陣も重々承知している。

車体開発担当の徃西友宏エンジニアが「開幕戦をヒントに今季のクルマに合わせたタイヤの選び方という部分も、もう少し精度を上げていかなくちゃな、とは思っています」と語れば、このオフから開幕戦土曜の時点でも「課題はロングラン」と常に指摘してきたエンジン担当の佐伯昌浩プロジェクトリーダーも、セットアップ面での進化で対抗する術を模索する。

「決勝では残念ながら止まってしまいましたが、17号車のスピードはそれなりに勝負できるところにいた。全体的にそっち方向に調整していくのか、もう少しセットアップ進めていくとそういう部分も見つかってくる、って考えてます」

 ライバルたちは過去6シーズンにわたって現行規定に繋がるFR車両を走らせてきた。対するホンダは今季がFRのClass1初挑戦。決勝ロングランのデータがそろい、気候に対するタイヤ選択の精度が上がり、そこに対するセットアップ最適化が進めば、勝負の行方は分からない。シーズンはまだ始まったばかりだ。