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「YouTubeアニメチャンネル」急成長のいま、“アニメと著作権”の関係に変化…「違法動画ではなくUGCと捉えることも必要」

2020年08月04日 19:52  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

『あたしンち』(C)ママレード/シンエイ
海外人気の勢いが止まらない日本のアニメーション。かつては海賊版サイトなどの違法アップロード問題が大きく取り沙汰されていたが、昨今はNetflixなど動画配信サービスの普及によりやや落ち着いた印象がある。

だが、実際のところはどうなのだろうか。

本記事では、「アニメと著作権」の歴史と先端事例について、専門家の意見を交えて紹介する。
[取材・文=いしじまえいわ]

■アニメと著作権・前史
まずは「アニメと著作権」の歴史を振り返ってみたい。

アニメの著作権問題は、原作権の所在に関する係争やいわゆるパクり問題、中間成果物の権利問題などはTVアニメの黎明期から存在した。
ただしその多くが作品単位の問題や制作者や権利者間での問題であり、産業全体に係る問題になるケースは少なかった。

また、映像の保存がビデオテープ等のアナログメディアで行われていた時代では、保存を繰り返すことで画質や音質が劣化していた上にそれを共有する方法も限られていたため、ファンによるアニメのコピーが著作権法で認められた私的複製の域を出ることは稀だった。
アニメファンが著作権問題に直接関わるケースが増え、ビジネス面でも影響があると見なされるようになったのは、ITインフラが整いはじめてからのことだ。

■21世紀のアニメ違法視聴問題
2000年代に入る前後にデジタルデータの取り扱いが主流になると、作品のコピーによる劣化はほぼ問題にならなくなった。また、それをネット上で不特定多数に共有する方法も現われたことで、アニメのコピーは私的複製の域を超え、違法視聴が問題視されるようになった。

くしくも違法コピー問題が顕在化した00年代は深夜帯放送のアニメが増え、玩具やキャラクターグッズに代わってDVDなどのビデオグラムがアニメの主商品になっていった時期でもあった。
主力商品とバッティングしたことも、違法コピーや違法視聴が問題化した要因の一つだろう。

アニメの違法コピーと共有による著作権侵害は、90年代末から00年代初頭にかけて現われた「ファイル共有ソフト」によって注目されることとなった。
当初は比較的データサイズの小さい音楽データなどが共有されていたが、ブロードバンド環境が整うにつれてアニメ本編映像も違法に共有されるようになった。2007~08年には『機動戦士ガンダム00』の映像や『CLANNAD』の画像の違法配信で逮捕者も出ている。
利用者から逮捕者が出たことや共有ソフト「Winny」の開発者が逮捕されたこと(ただし開発者の金子勇氏は著作権侵害幇助容疑で逮捕されたが2011年に無罪が確定している)などの影響もあってか、次第に利用者が減っていった。


その一方で隆盛してきたのが、2005年に登場したYouTubeなどの「動画共有サービス」だ。PCへのソフトウェアインストールや操作知識が必要とされたファイル共有ソフトと違い、PCが無くてもスマートフォンやタブレット等でも視聴できる簡易さやウイルス感染の恐れが少ないことから国内外で普及したが、同時にアニメの違法共有のトレンドも動画共有サービスの方に移行していった。

2006年に放送されたアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』のヒット要因の一つに、本編映像が動画共有サイトで度々違法に共有され拡散したことが指摘されている。
本作は全国ネット放送ではなかったため、海外だけでなく国内でも当初は違法アップロードされた映像で視聴した人も多かったものと思われる。

当時はTV放送とほぼ同時にネットで世界同時公開という現在のスタイルは確立しておらず、TVで視聴、録画できなかった場合、パッケージが発売されるまでは録画した記録メディアを知人やレンタルビデオ店で借りるか違法で視聴するしかなかったのだ。

海外で正式に放送・パッケージ販売されるにはさらに大きなタイムラグがあったため、海外のアニメファンが正式なビジネス展開が始まる前に字幕(fan-subtitled=ファンサブ)を付けた動画を無料で公開し、それが人気を博してしまう例もあった。

このように、動画共有サイトでの違法配信は長年アニメ関係者を悩ませることとなった。
一方で、日本のニコニコ動画やアメリカのCrunchyroll、中国のbilibili(ビリビリ動画)のように当初はアニメを違法で配信していたものの次第に正式にライセンスを獲得するようになり、現在ではアニメ製作に係るようになった動画共有メディアも存在する。

■VODの台頭、専門家はどう見る?
その後、NETFLIXやAmazonプライム・ビデオなどの「定額制動画配信サービス」(VOD=Video on Demand)の台頭によって状況はまた変化した。
2010年代半ばに登場したこれらのサービスによって、違法アップロードされた動画よりも高画質の映像コンテンツを放送からほぼ同時に(場合によっては先行で)視聴することが可能になった。
また、コストをかけることで字幕の翻訳クオリティも向上した。

比較的安い金額の課金で高品質なアニメ映像を合法的に見られるようになった現在、法を犯して低画質の動画でアニメを見たいという人は過去に比べて減ったのでは、と思われる。

では、実際のところはどうなのだろうか。

ソーシャル(SNS)に最適化したコンテンツ制作、SNS運用、コンテンツ著作管理の専門家集団であり、住友商事、東宝、米Fullscreen3社の合弁事業であるALPHABOAT社のゼネラルマネージャー・佐藤法重氏は「アニメを含む映像コンテンツ全体の違法アップロードは減少傾向にあるのでは?」と語る。

VODの普及に加え、YouTubeなど動画配信プラットフォームのシステム自体の著作権管理体制が強化されたことが要因だという。

では、ネット上でアニメの著作権は適切に守られるようになったのかというと、そうとは言い切れない。
佐藤氏は「YouTubeなどのプラットフォームは著作権管理の仕組みを提供するが、そのシステムを適切に活用できるかはあくまで権利者側に委ねられている。アニメの公式YouTubeチャンネルが数多く開設されアニメを無料配信するケースが増えたことで、きちんとした対策と行っていないタイトルについては、それをダウンロードして違法で転載される危険性は増加傾向にある」。
「権利者自身が、きちんと「違法動画に向き合い、適切な対応を実施できる管理体制を整備しなければいけない」という。
→次のページ:これからのアニメとネットの付き合い方は?


■これからのアニメとネットの付き合い方は?
ネット上でのアニメの著作権侵害は途絶えることがなく、権利者はそれに対応せざるを得ない、というのが現状のようだ。

この状況に改善の余地はないのだろうか。

ALPHABOAT社著作権管理チームの金聡一氏は「ファンがアップロードした動画をブロックするか放置するかの二者択一ではない、細やかな対応が必要になるのでは」と唱える。

同社は現在アニメ「あたしンち」の専用チャンネルの運営・管理を行っている。専用のCMS(=Contents Management System)を用いることでYouTubeにアップロードされた同作の違法アップロード動画を抽出し、適宜対応しているという。


「たとえば、動画を全編アップロードしたものはブロックする一方で、3分以内の動画や作品紹介用のダイジェストムービーに編集された動画などはブロックせず、広告収益を権利者に還元するよう再設定しています。また、ある国ではブロックするけど他の国では公開OKとするなど、権利者様と協議の上、方針にあわせたポリシーをコンテンツごとに設定しています」と金氏は言う。

対応を細分化するメリットは何か。「ファン動画から広告収入を得られるだけでなく、視聴データの解析によってどの国ではどのエピソードのどのシーンの視聴傾向が強く人気がある、などの情報を得ることができます。これによって海外展開や次のコンテンツ展開に際してファンの望むものを的確に提供できます」

また、同社に出資している米Fullscreen社の Rights Management Specialist ・福角佑輝氏は「我々は『違法動画』という言葉は使いません」と言う。

「私たちは字幕を付けた動画や作品の見どころを集めた紹介ムービーなど、ファンがファンに向けて作ってくれた動画をUGC(=User Generated Contents)と捉え、それが生み出す可能性を探っています。これからは権利者もUGCをどう捉え、どう活かしていくかのビジョンを持つことが求められるようになるでしょう」

Fullscreen社はロサンゼルスの企業だが、筆者には「欧米企業は権利意識が強く適法でないものは断固として許さない」という印象があったため、福角氏のコメントは意外に感じられた。
それを伝えると「アメリカの企業も動画配信サービスの黎明期は正規でない動画を厳しく取り締まる傾向がありました。様々な事例が蓄積されていく中で、単に法に照らして取り締まるだけではなく、権利者にもファンにもより良い結果になるよう徐々に傾向が変わっていったのです」と答えた。

動画メディア上でのUGCの概念では欧米は日本の先を行っているように感じられるが、実は日本にも違法アップロードされたアニメ動画をうまく活用した事例が過去にあった。

『涼宮ハルヒの憂鬱』関連の違法動画が放送当時数多くアップロードされていたのは前述の通りだが、2008年に角川(現KADOKAWA)はYouTubeに違法アップロードされた動画のうち権利者の許諾を得られたものを「角川公認MAD」(アニメ映像に編集や加工を加えたり他の作品映像と混ぜるなどした動画作品)として認定する取り組みをスタートした。

同取り組みは2012年頃まで続けられ、それ以降は中止されたようだが、過去に認定された動画の一部は現在もYouTube上に残っている。


上記動画は2009年にアップロードされた角川公認MAD動画の一つだ。
劇中曲のフルサイズに合うよう本編映像を編集したものでまさにUGCと呼ぶべき動画である。権利者である角川の公認の上、2020年現在も削除されることなく視聴可能な状態が維持されている。

この動画はアップロードから10年経った2019年に1億再生を達成し、現在に至るまで毎日ファンによるコメント欄への書き込みが絶えない。
UGCを緩やかに管理することでファンも権利者も利益を得ている好例と言えるだろう。

■ネットで共有されたアニメ、今後の課題は?
では、ネット上にアップロードされたUGCを緩やかに管理する上で、ボトルネックになるのは何か。佐藤氏は「著作権者への正しい啓蒙と、日本独特の製作委員会文化への適切な対応」が鍵だと言う。

「出資者の観点では、アメリカでは通常1コンテンツ1オーナーなので許諾はオーナー1人に確認を取ればいいケースが多い。
一方、アニメや映画など日本の著作物には権利者が多数存在するケースが多い。コンテンツをネット上でどう運用するか、そこで得た収益をどう分配するかなどは製作委員会での取り決めが必要になりますが、過去のコンテンツの中には当時取り決めが行われておらず、再取り決めの精神的・物理的ハードルが極めて高い。今後はネット上でUGCが生成されることを前提に委員会を作った時点でポリシーを定めておくことが肝要です。
また、同様の理由で、原作者・監督・脚本家などの権利者といかに事前に認識を合わせておけるかも大変重要です」と警鐘を鳴らした。

権利の所在が比較的明確なマンガ業界では、権利者の意向を汲んだうえで同人活動をある程度黙認する慣習があり、そこで作品人気が高まったり新たなプロ作家の才能が見出されたりするケースはしばしば存在する。

またボーカロイドソフト「初音ミク」などはキャラクターを用いた創作におけるガイドラインを明示することで人気を長く持続し、成功を収めている。
もしマンガや初音ミクと同様にアニメにおいてもある程度自由に映像を編集し二次的作品を制作することが認められれば、大なり小なり作品人気の拡大には寄与するだろう。

そういった取り組みが海外展開を含めた次の一手の契機になり、ひいては膠着したアニメビジネスそのもののブレイクスルーになるかもしれない。

『あたしンち』
(C)ママレード/シンエイ

[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]