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嵐 櫻井翔、『家族ゲーム』吉本荒野役でも見せるアイドルならではの対応力 再放送を機に“言葉”を操る演技を考察

2020年08月04日 12:02  リアルサウンド

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リアルサウンド編集部

 嵐・櫻井翔主演の『家族ゲーム』(フジテレビ系)が、8月4日から再放送されることが決定。2013年の4月期に放送され、視聴者の心に衝撃を与えた話題作が帰ってくる。


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■現代社会の闇を臆せず描いた作品
 こんな時代だからこそ、必要なドラマだったといえる。当時の視聴者は、たとえ物語の細部は忘れていても、結末の記憶が朧げになっていても、本作を観て受けた「ショック」は必ず覚えているはずだ。本作に登場する、イジメの描写や家庭内不和、人々の歪み。心理的な“えぐみ”が、頭にこびりついて離れない。


 かつてのように、非行に走る少年少女や、目に明らかな学級崩壊が取り沙汰される時代ではなくなった。本当の問題は目に見えない、見ようとしない現代。時代が変化するにつれ形を変えた「家族」の崩壊、現代社会の闇を、臆せず描いた作品だ。


■思わず目を背けたくなるようなショックが肝に
 一見、何不自由なく暮らしている沼田家には、気がかりがあった。いじめを原因にひきこもりとなり、高校進学も危うい状態である次男・茂之(浦上晟周)だ。両親は「東大合格率100%」を謳う家庭教師の評判を聞きつけ、自宅へと招く。そこへ現れたのが、櫻井演じる吉本荒野だ。


 両親は「茂之が学校へ行けるようになること」「兄・慎一と同じ進学校に合格すること」を吉本に依頼。吉本は「教育方針に一切口出ししないこと」を条件に快諾する。


 吉本の「指導」は、非常識ともいえる型破りなものであったが、緻密な計算が隠されていた。結果、茂之は登校できるようになり、成績も上昇していく。


 一方、吉本が沼田家に出入りするようになってからというもの、家族それぞれが抱える“本当の問題”が、少しずつ明るみになっていく。互いに見て見ぬふりをし、壊れてしまわないようギリギリでバランスをとっている状態だった沼田家。不自然に取り繕うことで生じた“ほころび”は、家族それぞれに歪みをもたらしていた。


 吉本は、沼田家をあえて一度叩き壊してしまうことで、家族再生へと導く。大きな視点で見ると、前向きな結末を迎えるヒューマンストーリーだが、結末を迎えるまで息もつけない、サスペンス要素を持つ作品だ。


 後半にすすむにつれ明かされる「吉本荒野」の正体、過去。沼田家が、音を立てて崩れ落ちる瞬間。思わず目を背けたくなるようなショックが、本作の肝といえる。


■『ザ・クイズショウ』神山悟との共通点
 後半に明かされるのだが、本作にて櫻井は一人二役を演じている。さらに言えば「吉本荒野」という男は、劇中でいくつもの表情を見せる。ときにポップに、ときにシリアスに。何を考えているのか、どれが本当の吉本であるのか、まるで分からない。掴みきれないこの男に感じる「得体の知れなさ」、不気味さから、図らずも目が離せない。


 2009年、櫻井は『ザ・クイズショウ』(日本テレビ系)という作品に出演している。ここで演じた神山悟というキャラクターもまた、本作の吉本と通ずる得体の知れなさと、うすら怖さを秘めていた。櫻井は、こうした影のある人物、心のうちを読めない人物を演じるのが、非常に上手い。ゾクっとするほどに、まるで“体温”を感じさせない一瞬がある。


 吉本も神山も、心に傷を抱えている人物だ。もちろん作中では、“そう”なるに至るまでの経緯も、櫻井が演じている。同じ人間を、まるでスイッチを切り替えるように別人に見せるテクニック。いまにも爆発しそうなほどの感情を常に抱えながら、平然と別の顔を装ってみせるさまはまさに怪演。演技力はもちろんのこと、理解力、そして想像力を必要とする作業だ。


■「言葉」を巧みに操る櫻井ならではの演技
 『家族ゲーム』では、櫻井のたたみかけるような台詞回しも印象的だ。声色の使い分けにも工夫を感じる。ラップを強みとし、キャスターやMCとして「言葉」を巧みに操る櫻井ならではの演技だ。


 吉本を、感情を伴わない平坦なトーンと大量の言語情報で圧倒させるキャラクターとして作り込むことにより、いざ表情、感情、声色が合致したときの爆発力がすさまじい。


 10代から現在に至るまで、助演・主演問わず数々の映像作品に出演してきた櫻井。他作品で見せる演技では、しっかりと体温も感じられるし、台詞の抑揚からきちんと感情が伝わる。つまり、これほど奇怪なキャラクターを計算して演じ、作り上げているということだ。頭脳派ならではの緻密な役づくりに脱帽し、「役」に対する櫻井の真摯な姿勢が、表現を通して伝わる。想像を体現してみせるエンタメ性と対応力は、さすがアイドルだ。


■主題歌の嵐「Endless Game」にも注目
 主題歌は嵐の「Endless Game」。壮大でドラマチックなイントロ、迫りくるようなスリリングなサビが、視聴者をドラマの世界へとぐっと引き込む。


〈くだらないことばかりさ でも信じていたいよ〉


 現実を嘆きながら、希望を見つけようともがく歌詞。本作が投げかけるテーマ、そして吉本の想いがマッチし、胸に刺さる。


 Aメロ、Bメロ、サビ、そしてDメロと、異なる顔を見せながら展開していく複雑なサウンドに面白味がある。まさに“ゲーム”を感じる良曲だ。


 期待の再放送では、吉本の「得体の知れなさ」をぜひ、怖がってほしい。そして、本作を観たあと心に残る感情を、たとえそれが恐怖や嫌悪感であったとしても、どうか大切に覚えていてくれたらと願う。それこそが、作品からの、吉本からのメッセージであるはずだから。(新 亜希子)