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『ONE PIECE』サンジは“頭脳派の参謀”へ 騎士道精神あふれる男の真価に迫る

2020年08月01日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ONE PIECE』

 “闘うコックさん”から、いつしか麦わらの一味において“参謀”的な役割を担うようになったサンジ。もとより、麦わらの一味にとっては料理人として欠かせぬ存在であり、彼の繰り出す自慢の脚技は強力で、戦闘員としても重要であったのはご存知の通りだ。


参考:『ONE PIECE』ウソップは“勇敢なる海の戦士”になれたのか? 圧倒的な成長の軌跡を振り返る


 そんなサンジが麦わらの一味に加入したのは、単行本8巻の第68話でのこと。東の海にある海上レストラン・バラティエにて、クリーク海賊団との戦闘後だ。マンガはもちろん読んでいたが、アニメ版でこのシーンが放映された当時の筆者は小学生。サンジが大恩人であるゼフに向けた「……長い間!!! くそお世話になりました!!!」というセリフには、子どもながらに胸を熱くしたものであった。彼の口癖である語頭に「クソ」をつけるのなども、よくマネしたものである。


 腹が減っている者を前にすれば、たとえ敵であろうとも情けをかける慈悲深い一面も持つサンジ。こういったところもまた、まさに“カッコイイ兄貴”のようで、彼に慈悲をかけられる登場人物たちさながらに憧れたものである。だが同時に、料理人としてのプライドを傷つけられたときや、仲間たちが危機にさらされている状況など、怒りに身を任せてしまうとどんな危険にも身を投じてしまうという弱点もあった。恩人・ゼフが自らの足を犠牲にしてまで幼き日のサンジを救ったように、彼には“自己犠牲の精神”を感じる。


 だが、それが顕著であったのは、首領クリーク率いるギンやパールらと一戦交えた「バラティエ編」や、魚人・アーロンによって海に落とされたルフィを救うために水中戦に挑んだ「アーロンパーク編」など、一味加入初期の頃だけのことのように思う(前者ではまだ加入していないが、共闘している)。もちろん、必殺技・悪魔風脚(ディアブルジャンブ)などが“怒り”の念から生まれたように現在進行形でもその性質は見られるが、冒険の過程で成長し、より冷静な判断をできるようにもなったのではないだろうか。そう、いつしか一味の参謀的な役割を務めるようになり、頭脳派の一面を垣間見せるようになったのだ。いや、そもそも読者である我々が冷静になって麦わらの一味の面々を眺めてみれば、いくつかの難点を除けばサンジが最も常識人なのである。


 彼が早くも参謀的な役割を果たしたのが、ルフィたちがMr.3&ミス・ゴールデンウィーク、Mr.5&ミス・バレンタインらに追い詰められた「リトルガーデン編」のことなのではないかと思う。たまたまサンジは後の宿敵となるMr.0(クロコダイル)からの連絡を受け、機転を利かせてMr.3を装うことで、目的の地・アラバスタへのチケットを手に入れたのだ。ここでは一同の闘いに参戦しなかったサンジだが、彼のこの活躍は「アラバスタ編」でも活きてくることとなった。そしてその参謀ポジションがより研ぎ澄まされたのが、「エニエス・ロビー編」だろう。ここで彼は、仲間であると信じていたロビンが世界政府に囚われの身であると感づき(その真相を知るのは後でのことだが)、単身救出に向う姿には多くの方がしびれたはずである。


 サンジといえば麦わらの一味において、ゾロと並び、船長・ルフィの右腕的なポジションだ。そんな、海賊団にとって主戦力といえる二人だが、この両者の“犬猿の仲”的な関係性が面白い。肝心なときに寝ていたり方向音痴を発揮したりする天然的なゾロと、女性が好きすぎるのが玉に瑕な三枚目のサンジ。しかし、一味の結束力が精神的に揺らいだときには、ゾロの“武士道精神と”サンジの“騎士道精神”が呼応し合うこともある。心の底では、背中を預け合える二人であり、やはりどちらも船長の右腕だ。そして、ゾロもそうだが、ここぞというときの核心を突いたサンジのセリフには唸らせられる。人生の教訓にしている方もいることだろう。筆者の一番好きなセリフは「お前にできねェ事はおれがやる。おれにできねェ事をお前がやれ!!!」である。これはエニエス・ロビーでウソップに向けて放った言葉だが、感情的にならず、その場その場での自分の“役割”を考え、実行に移す。ここに彼の大きな成長が感じられるし、これまた実に参謀的な発言である。


 サンジの成長が麦わらの一味に与えた功績は大きい。“頼れる兄貴肌”も、物語が進むにつれてより強固なものになっていく。他の面々と違わず、彼もまた“過酷な過去”を背負う男でもあった。そんな彼の目指すロマンである、オールブルーとは何か? これからもアニキに“お世話になる”つもりだ。(折田侑駿)