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鈴木このみが"生きていること"を主題にした『デカダンス』OP「Theater of Life」を語る

2020年07月29日 12:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●作品にも自身の歩みにもリンクした「生きている」という叫び
この夏、アニソンシンガー・鈴木このみがアツい。7月から3カ月連続でリリースされるシングルは、いずれも夏クール放送のTVアニメ主題歌に起用されている。そのうち本稿では、7月29日に発売されるTVアニメ『デカダンス』OPテーマ「Theater of Life」にクローズアップ。

本シングルの制作秘話や、春に開催を予定していた「鈴木このみ 6th Live Tour ~Unveil~」の延期、その後の無観客配信ライブ開催など、現在の心境を率直に語ってもらった。
○●ツアー延期を乗り越えるきっかけになった、ファンからの声

――この春に開催予定だったツアーは延期となり、かわりに「Unveil “ZERO”」として配信ライブを開催することとなりました(※7月19日開催、取材時は開催前)。気持ちの面では、切り替えはすぐにできましたか?

いや、最初は本当にショックで……自分の活動の中でいちばん力を入れてやっているツアーをお届けできなくなったことが、とても心苦しかったです。ファンのみんなが、「楽しみ」と言ってくれているのも知っていたので。

「みんなに元気でいてもらうことが一番」ということで、こういう判断をさせてもらったんですけど、ライブに向けて既にやりたいことも決まっていた状態だったというのもあって、しばらくショックな気持ちを引きずりました。ですが、無観客でもフルバンドで2時間ライブをさせてもらえるということで、今は完全にプラスなマインドになっています。

――プラスに切り替えられた、要因は何だったんでしょう?

「Unveil “ZERO”」を発表したとき、海外の方を含め、遠くに住んでいて東名阪のライブには来られないという方々から「今回初めて観られるので、嬉しいです」というコメントをいただけたことですね。そのおかげで、「もしかしたら、今まで以上にたくさんの人に観ていただけるチャンスになるのかも」というポジティブになりました。あと、「ライブやりたい欲」が上がりすぎて、「どこでもいいから歌いたい!」みたいな気持ちもあって(笑)。

――本業のアウトプットができない状態でしたからね。

そうなんですよね。しかも、シングルが3枚出来たので、「早くこれ、ライブでやりたい!」という気持ちにどんどんなっていきました。本当に、今は届けられること自体がすごく嬉しいです。

――その3枚のシングルのうち、1枚目としてリリースされるのが「Theater of Life」です。まず『デカダンス』1話での使われ方がアツかったですよね。

いや、あの流し方はズルいですよね!(笑)。戦闘が盛り上がるシーンでOPテーマを流していただいて、ちょっと武者震いをしましたし、映像がついて、楽曲がより生き生きとしたように感じました。映像のクオリティが素晴らしいので、それもあって歌がより輝いていて、すごく感動しましたね。

――使われ方もですし、物語として謎も残したなかでこの歌詞とのハマりもよくて。1話を観る前と後だけでも、聴こえ方が全く違ったように感じました。

この曲は主人公であるナツメの想いを歌ったものですけど、ナツメはスタンスが変わらないというか、自分の芯みたいなものを持っている子なので、1話を観ただけでも、すぐにこの歌詞の意味が理解できると思います。2話以降でガラッと印象が変わる作品ですけど、それでこんがらがることはなくて。あくまでも、一本軸になっているのは人間ドラマ。「こういう世の中でどう生きていくのか」を問われている作品だなと私は思っています。

○●速い楽曲にストーリーをもたせるため、心がけたのは普段以上のメリハリ

――楽曲としては非常にアグレッシブなロックナンバーですが、歌声は強さ一辺倒ではなく、随所で柔らかさのようなものも感じました。

この曲の魅力は、「かっこいいだけで終わらない」だと思うんですよ。最初に聴いたときにパッと浮かぶ言葉は”爽快感”や”疾走感”。それこそ、照りつける日差しに青空と荒野……まさに『デカダンス』の風景が最初に思い浮かぶ楽曲なんですけど、その中に不器用だったり遠回りしたりするような人間らしい泥臭さというスパイスがある。それが肝になっているように感じたので、すごく大事にして歌いました。

――おそらくそれは、作品自体の魅力ともガッチリリンクする部分だと思います。

はい。不器用な主人公が描かれているので、より身近に感じていただけるとも思いますし、自分自身ともリンクする部分がたくさんあるのを感じながら歌った曲でもあるんですよ。

――どんな部分で、そう感じられましたか?

この曲には『デカダンス』の「サイボーグに支配された世界の中で、主人公が自分で自分の生き方を決める」というテーマが反映されていると思うんですけど、私自身もこの8年間自分でいろんな選択をしてきたというところでしょうか。

もちろんそのなかでは大きなミスをすることもたくさんあったんですけど、その経験があったから今があると思っていて。もちろんかっこいいのはいいことなんです。それだけじゃなくて。転びながら必死でやってきたけど、それが”生きている”という実感につながっていて、すごく気持ちいいんだよね……っていうところにゴールできたんじゃないかなと思います。

――なるほど。これまでの鈴木さんの歩みも歌い方に反映されている。柔らかく聴こえる部分も強さ際立つ部分も併せ持ったものになっているんですね。

そのあたりは、結構意識しました。あと、単純にリズムが速いので、油断すると一瞬で終わる曲みたいな感じになっちゃうんです(笑)。なので、そのなかでストーリーを作っていけるよう、歌の技術的にも差し引きはすごく意識しましたね。ボーカルディレクションはこの曲を作ってくださったANCHORさんにしていただいたんですけど、やっぱりメリハリをいちばん気にされていて。例えば「Aメロはサビに向けてちょっと抑えよう、みたいに提案していただいて、いつもよりはメリハリ濃いめになるように工夫をこらしました。

●カップリング曲「明けない夜に」で形にした、胸の奥底にあるもの
○●早くファンの前で歌いたい! ライブ映えもある表題曲

――そのメリハリがよりダイナミックな印象を与えていると思いますし、ライブで生で聴きたくさせてくれます。

もちろんアニメのために歌った曲ではあるんですけど、「バン!」と一気にフルまで持っていってくれるような、ライブ映えする楽曲という面もあります。2番以降にはメロがガラッと変わるところもあったり、間奏の部分にはバンドの各ソロもあったりと、「これ絶対ライブでやったら気持ちいいかもー!」っていう要素がたくさん含まれているんですよ。

――特にDメロはコール盛りだくさんですから、そこはお客さんの声があって最終完成になる部分なんでしょうね。

そうですね。しかも最初に「Just follow me!」、つまり「ついてこい!」と言っているので、めちゃくちゃかっこよくてエモい部分になると思うんです。本当に、早くライブでやりたくてたまらない曲に仕上がりました!

――一方、スローなカップリング曲「明けない夜に」では、作詞もされています。まずこの曲、何をテーマに作られたのでしょうか?

この曲は自分にしか書けない、胸の奥底にあるものを素直に書いていこうというところから始まったんですけど……ステイホームの影響もあるんでしょうか。人との関わりがオンライン過多になっていくなかで、どんどん自分と人とを比べられるようになる。そうなると、やっぱり人のほうがよく見えるんですよね。

自分自身についてはダメな部分もいっぱい知っているけれど、人のことって、やっぱりきれいに見える。でもみんな自分にしかない、いいところがたくさんあるのに気にする必要があるのかなと。もしかしたら同じように悩んでいる人がいるんじゃないかなということで、このタイミングでそういったテーマの歌詞を書かせてもらいました。

――前半はサウンドも含めて内にこもっていて、終盤に一気に外へと開けていくような印象を強く受けました。

まさにそんなイメージで、序盤では自分の声を忘れてしまったような感じの主人公を思い描いていたんですよ。人と自分を比べているうちに、その人になろうとしてしまったり、自分にはないものばかりを見つめてしまったり……そんななか、歌詞には載っていない2サビ前の間奏の「ah ah」っていう叫びの部分で、ちょっと朝日が見えてくるんです。

――少し転機のようなものが来るというか。

はい。そこで内にこもっていた自分の殻が破れて、少しずつ自分だけが持っているものに気付きだして明日がやってくる……という風景を思い描きました。

○●最終的に「明けない夜に」で目指したのは、優しい曲

――歌として印象深かったのは、サビ以外の部分に多く含まれる、セリフと歌の中間のような部分です。

そこはシンセメロでいただいたときから、ほとんど譜割りがないような状態だったんです。なので、「どこを喋って、どこにメロディをつけて歌う」みたいなものも、そこまで厳密には決まってなくて。それこそナスカさんに立ち会っていただいたレコーディングのときに、「ここ、喋るように歌うんだったらひと言足したほうがいいよね」とその場で歌詞の調整もしたりして、歌いながら徐々に完成させていった曲です。

――歌い始めはきっと”明けない夜”なんでしょうけど、最後にその先が見えるという希望にあふれた曲のように感じました。

第一印象としてはちょっと暗い曲にも聴こえるかもしれないんですけど、「優しい曲にしたいな」という気持ちが、最初からあったんですよ。

――優しい曲に。

はい。私の中にはすごく幻想的で薄暗い、紫色っぽい感じのイメージがあったんですけど、ナスカさんには「語るように歌いたい」ということと、淡々と事実を述べたうえで、でも本当は自分だけの声もあるんだよねという共感みたいなものを歌いたいと最初にお伝えしていました。なので、気持ちが優しく、和らいでくれたらすごく嬉しいです。

――今回のシングルは曲調こそ両極というか全く色が違いますけど、どちらにもすごく心に刺さるメッセージがありますね。

たぶんどちらも「まわりの環境に流されずに生きていく」というところが共通していると思うんです。そのうち「Theater of Life」は力強く背中をバーンと蹴ってくれる”朝”とか”昼”のイメージで、「明けない夜に」は夜に深く考え込んでしまうときに、優しく包み込んでくれるような存在。アプローチの仕方は違いますけど、1枚を通して「生きているとはどういうことなのか」ということにつながってくるシングルになったのかな、と思っています。

○●鈴木このみ17thシングル「Theater of Life」

発売日:7月29日
01.「Theater of Life」
02.「明けない夜に」
他、「inst」含む全4曲収録
価格:1,200円(税抜)(須永兼次)