トップへ

ひきこもり「自立支援業者」を監禁罪などで刑事告訴…破産で賠償なし、被害男性「逃げ得許さぬ」

2020年07月28日 15:42  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

「ひきこもり支援」をうたう民間施設「あけぼのばし自立研修センター」から、無理やり「拉致」されたとする元入所者が、運営する「クリアアンサー」(東京都新宿区)の元代表らを逮捕監禁致傷などの罪で刑事告訴し、警視庁牛込署に受理された。


【関連記事:「なんで避けないの」歩道走るママチャリ、通行人と接触し激怒…悪いのはどっち?】



元入所者や代理人弁護士らが7月28日、会見で明らかにした。同社は民事提訴もされていたが、2019年末に破産。債権者らには支払いがなされない見込みだ。元入所者らは「逃げ得を許さない」と訴えた。



●施設への「拉致」、精神病院での拘束

元入所者の30代男性高橋さん(仮名)への連れ去りが行われたのは2018年5月。自宅にいた高橋さんを施設の職員らが乱暴にタクシーに乗せ、連れて行った施設の地下室に9日間、閉じ込めたとされる。



また、資格を有する指定医の診察などの医療保護入院要件を全く満たさずに、医療保護入院と称して精神病院で高橋さんの体を拘束したという。



同社の元代表の男性ら関係者計9人への暴行罪、逮捕監禁致傷罪、監禁罪。そして、精神科病院の医師2人と看護師2人への逮捕監禁罪。2つの事件について高橋さんは6月15日に告訴状を提出し、牛込署が受理した。



7月に入って、高橋さんへの事情聴取も始まった。





●逃げる引き出し屋、許してなるものか

「あけぼのばし自立研修センター被害対策弁護団」の団長を務める宇都宮健児弁護士によれば、高橋さんのケースは「引き出し屋」被害の氷山の一角とのこと。



「当事者に了承を得ないまま、家族や親族と契約を結び、事実上の拉致監禁を行い、従わない場合は精神病院に送り込む。そのような手法をとる業者が『引き出し屋』と呼ばれている。



そのひとつが、あけぼのばし自立研修センターだ。内閣府調査によると、ひきこもりの数は100万人を超えている。同じような業者は多いと思われる。不正業者の一掃につなげたい」



同社に対してはすでに、高橋さんらが、損害賠償請求などの民事訴訟を2019年2月8日に起こしている。他の元入所者らも同様に提訴していた。しかし、同社が12月23日、突然破産を申し立てたことによって、訴訟は中断。民事上の責任を問うことが事実上できなくなってしまった。



弁護団らは同社の破産手続きは「責任逃れ」だとして、「悪質な行為をしているのに、逃げ得を許してはならない。刑事告訴した」と刑事上の責任追及の意味を語る。



●元代表「同意ない連れ出し行為は事実無根」

同社の破産手続きをめぐっては、今年3月30日に第1回債権者集会が開かれ、7月27日に第2回があった。



債権者は元入所者の家族ら複数にのぼる。入所者らが支払った料金は、3カ月で400~500万円のケースもあれば、1年で1000万円以上のケースまで明確な基準はない。



破産管財人の報告でも、被害者に対する金銭の支払いは見込めない状況だったという。



冒頭、破産者である同社代表の男性から、謝罪名目で簡単なコメントが発表された。



高橋さんが元代表の「謝罪」を振り返る。



「同社が入所者に対して支援の名の下に行ってきた同意のない連れ出し行為や監禁行為といった数々の違法行為について、全くの事実無根としたうえで、メディアによる会社への偏向報道の結果、同社の事業環境が急速に悪化し、倒産に至った」との説明をおこない、「利用者および契約者に迷惑をかけた」と謝罪したという。



高橋さんは、「暴力行為の事実から目をそらし、暴力の被害者への謝罪を一切行っていない点で、謝罪として不十分であることはあきらか」と斬り捨てる。



高橋さんが起こした民事訴訟で同社は準備書面を提出。そこで、拉致行為や監禁の事実を認めていたという。書面の内容は以下のようなもの。



「被告(同社)が原告の同意を得ることなく、原告を車に乗せて、原告宅から被告の施設まで移動させたことは事実である」



「被告が上記期間中(9日間)、原告を施設の地下で生活させ、逃げ出さないように監視していたことは事実である」



民事訴訟との言い分に「矛盾」があると憤る高橋さんは、暴行や監禁について、債権者への謝罪を改めて求めたが、元代表が何かコメントすることはなかったという。



●どうしても責任をとらせたい



高橋さんは「逮捕起訴を通じて、クリアアンサー社の傍若無人なふるまいを社会は決して許さないという毅然とした姿勢で示していただくようお願いしたい」と捜査機関に求めた。



宇都宮弁護士は、悪質業者がはびこるとされる背景として、ひきこもりに悩む家族への国や自治体による支援が弱いことを理由にあげる。



「その弱さが狙われている。捜査で支援の取り組みをうながしたい」



11月2日に第3回債権者集会が予定されている。