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大森南朋、松重豊や光石研らとは一味違う“癒し系おじさん”俳優に 「何か裏がありそう」との声も

2020年07月28日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

大森南朋『私の家政夫ナギサさん』(c)TBS

 この春以降の連続ドラマは、コロナ禍の影響により、スタートも終了時期もバラバラで、もはや何月期と括れない状態。だが、そうした苦境の中でも生み出される新作ドラマの放送は単純に嬉しく、視聴者を楽しませてくれている。7月7日から始まったハートフルラブコメディ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)も好評だ。30歳を超えてますます魅力的な多部未華子演じる肩ひじ張った主人公・相原メイに共感する人も多いが、メイと同様、大森南朋演じる家政夫のナギサさんに癒される人が続出している。


 しかし大森といえば、父親(麿赤兒)ほどではないにしろ、コワモテな風貌と雰囲気を持つ俳優。そんな大森が“癒し系おじさん”に? だが、思えばこれまでにも遠藤憲一や松重豊、光石研ら、“癒し系おじさん”としての人気も獲得したアウトロー系俳優はいた。


【写真】劇中で弟を締め上げる大森南朋


 そんな先輩たちに少し目を向けると、182センチの長身に眼光鋭い遠藤憲一は、『実録・北海道やくざ戦争 北海の挽歌』など、いわゆるVシネマでヤクザ役として鳴らしてきたが、『ドクターX~外科医・大門未知子~』や菅田将暉とW主演を務めた『民王』(ともにテレビ朝日系)あたりから、見た目とのギャップを見せて人気に。現在ではバラエティ番組などで見せる素顔も手伝い、すっかり可愛らしいおじさんとして認知されているが、完全に“癒し系”に振り切れることはなく、硬軟をバランスよく生かしている。


 現在、斜め上のキャスティングで驚かせた連続ミニドラマ『きょうの猫村さん』(テレビ東京系)で猫の家政婦役を、どこか楚々とした雰囲気で好演中の松重豊も、多くのVシネマで活躍してきた。遠藤よりさらに長身の公称188センチで、『地獄の警備員』での殺人鬼など、コワモテな個性を生かした役を演じてきたが、最近ではもともと持っていた飄々とした雰囲気を生かし、人気シリーズ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)など当たり役を得て独自の路線を進んでいる。


 16歳のときに『博多っ子純情』で主演デビューを果たして以降、長く活躍し続けている光石研も、一見普通のおじさんに見えて、癖のある役を演じさせると抜群に光る名優だ。今年は朝ドラ『エール』(NHK総合)での温かな父親役で印象を残しているが、公開待機中の映画『青くて痛くて脆い』では、『エール』であれほど関係性のいい親子を演じていた森七菜と、教師と生徒役に扮し、たまらなく怖い空気を醸し出しており、あまりの違いに驚かされる。ちなみに光石は『私の家政夫ナギサ』さんの第4話からメイの父親役として登場。“癒し系おじさん”俳優の先輩として存在感を見せてくれるはず。


 ほかにも3人がともに出演していたシリーズ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)で共演した大杉漣も、アウトロー系を基盤にしながら癒し系としても人気を得ていた名優。両極端なイメージを打ち出して、双方の魅力が支持されるのは、確かな実力あってこそといえる。


 そんな一味違う“癒し系おじさん”枠に、大森南朋が参入した。三池崇史監督の映画『殺し屋1』でイチを演じて弱さと異常性を共存させ、およそ20年後となる今年公開された同じく三池監督作『初恋』では、悪徳刑事を気だるさのなかにも軽やかさを内包させて演じた大森。なかでも彼が放つ魅力は、代表作に挙げられるNHKドラマ&映画『ハゲタカ』や、映画『ヴァイブレータ』、『東京プレイボーイクラブ』、『さよなら渓谷』など、ジャンルを問わずに感じさせる、どこかアウトロー的な空気をまといながらの匂い立つ色気だろう。一方で、特に近年は、ドラマ『コウノドリ』(TBS系)シリーズでの新生児科の部長など、色気を封じて柔らかな役柄も演じてきた。それでもナギサさんほどの“癒し系おじさん”は新鮮だ。


 本ドラマの主人公のメイは、製薬会社のMR(医薬情報担当者)という常にスキルアップが必要な仕事を、周囲には余裕を持ってこなしているように見せながら、必死に努力をして頑張っている。「メイなら」「相原さんなら」“やればできる”との母親や上司の善意で包まれた呪いの言葉に、キャパオーバーに陥るメイを、完璧な家事代行で支えるだけでなく、「相原さんは十分に頑張っています」と認めてくれるナギサさんの微笑みには、思わず「我が家にもナギサさん、お願いします!」と手を挙げたくなる。


 そんな優しいナギサさんだが、イマイチ奥が見えないところもある。本作は、四ツ原フリコのコミック『家政夫のナギサさん』を原作にしているが、タイトルも違えば、メイを取り巻く人々もドラマ用に変更されており、瀬戸康史演じるメイの仕事上のライバルにして完璧好青年の田所も、イマドキの新人君・瀬川(眞栄田郷敦)も、メイの同僚で親友の薫(高橋メアリージュン)も、みなドラマ版のオリジナルだ。


 つまりこれからの展開が読めない。さらに、これまでの大森のイメージも手伝い、「ナギサさん、何か裏があるのでは?」「ただの癒し系で終わるとは思えない」との声も聞こえている。新作ドラマならではの先が見えない物語とともに、多部の共感誘う愛らしさに加え、“癒し系おじさん”俳優としては新星となる大森南朋の新たな魅力を十二分に堪能したい。


(望月ふみ)