2020年07月24日 09:31 弁護士ドットコム
終身雇用や年功序列賃金といった日本型雇用システムの一環である「新卒一括採用」。一斉に採用した新卒学生たちを企業内で教育し、長期間にわたって雇用し続けることを前提とした仕組みだが、経団連の中西宏明会長が、5月の記者会見で、「経済界は(新卒者らが)一括採用で落ちると二度とチャンスが来ないという現状を考え直し、柔軟に採用すべきだ」と語るなど、見直しの機運が高まっている。
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なぜいま、「新卒一括採用」を見直す必要があるのか。若者はどのように自分のキャリアを築いていけばいいのか。AIの活用やデジタル化が雇用にもたらす影響について研究している、神戸大学大学院法学研究科の大内伸哉教授は、「急速な技術の変化には、内部の人材に必要なスキルを身につけさせて調整していく、という悠長な体制では対応できません。コロナ禍で、ますます変化が激しくなる」と話す。(武藤祐佳)
大内教授によると、新卒一括採用を含め、長期的に雇用を維持する日本型雇用システムの前提が崩れているという。
「このシステムがうまく機能するためには、技術革新と、そのために必要な教育訓練の内容がある程度予測できることが必要です。しかし近年、AIを始めとする急速なデジタル化が進み、予測が難しくなっています。
そうすると、企業は内部で人材育成をせず、外部から即戦力になる人材を見つけてくるようになります。当然、新卒一括採用のような、本人の能力やスキルに関係なく多くの人を採用し、企業内で時間をかけて育成するというやり方は機能しなくなるでしょう」
大内教授は急速なデジタル化の結果、「労働法で定義されているような雇用はなくなり、全員がフリーランスのような自営業者として働く」という将来像を示す。
「雇用という働き方は、産業革命によって大規模な工場で大量生産をするようになったことで生まれました。機械に合わせて指揮命令に従って動く人が必要になったからです。それまではみな、基本的には自営業です。
雇用の起源は、古代ローマの奴隷の取引に使われた契約にあります。つまり、雇用というのは決して良い働き方ではなく、言葉はきついようですが奴隷的であるわけです」
そのような仕組みが、デジタル化で人の仕事がAIやロボットに置き換えられ、大きく変化するという。
「雇われて指揮命令に従ってやるような仕事は、AIやロボットに置き換えられていきます。人間に残るのは、機械にやらせるほうが費用の高くつくつまらない仕事か、逆に機械ではやれないようなクリエイティブな仕事です。ただ、クリエイティブな仕事は雇用に適したものではありません。だから、私たちの働き方は自営業という原点に戻ることになるのです。」
しかし、フリーランス化が進み、企業が人材育成を行わなくなれば、職業に必要な教育訓練は企業外で行わざるを得なくなる。スキルの乏しい若者はどうすればいいのか。大内教授は「自助が重要になる」と指摘する。
「一番大事なのは自助、自分でやるということです。国による教育の目的は、本人が自助できるようになるための基本を身に付けることであるべきです」
大内教授は、今後、教育を3つの階層に分けて考えるべきだと主張する。「職業に必要な最先端の技術教育」、「職業基礎教育」、「教養・リベラルアーツ教育」だ。
「最先端の技術はどんどん変わっていくので、後者2つの教育が自助の土台として重要になります。たとえば、法や金融の基礎的なリテラシーは、経済活動をするために不可欠です。そのような基礎能力を、中学校や小学校高学年から職業基礎教育で身につけられるようにすべきだと思っています。
そしてもう一つ根底にある一番大事な教育があります。独創性を生み出す基礎となる、教養・リベラルアーツです。
これまでの教育は、協調性があり組織に適応できる人材を育てることが目的になっていました。これからは、単純な業務や定型的な業務はAIが行い、人にはクリエイティブな発想が求められるようになります。そのため、教育では独創性や想像力を育てる必要があります。その基礎となる歴史や思想といった教養をしっかり学ぶことが、教育に求められています」
さらに、インターネットから「自分に合った情報、フェイクでない情報を選別する」ための情報リテラシーも重要だという。
「今の若い世代にとって、情報は頭に入っているのではなくて、インターネットに転がっているものですよね。修業経験ゼロの寿司屋が出てくる時代です。職業教育では、自分がやりたいことについて、情報を選別できるようにすることが大切です。
デジタル時代では、距離は全く関係なく、ネットでつながってさえいれば仕事ができる。さらに、翻訳技術が飛躍的に高まるので、言語の違いも関係なくなる。そうすると、例えば日本企業も日本人を採用する必要がなくなります。このような変化の時代には、既存の教育と全く違う教育を行わなければ、日本の若者たちは埋もれてしまうでしょう」
技術の発達によって、雇用だけでなく、人の能力の捉え方も変化するという。大内教授は、「何かができないという状態が、AIやロボットを使うことで補えるようになる」と話す。
「例えば、もしメガネという道具がなければ、近眼であるということは大変なことですよね。ところが、メガネがあれば、生活に支障が出ない。このメガネに該当するものが、技術の発達でどんどん出てきているんです。
マッスルスーツがあれば高齢者でも重労働ができます。目が見えない方でも脳に刺激を与えれば画像を捉えられるという研究もあり、いつかはその技術も実用化するかもしれません」
そのような社会における政府の役割は、ハンディがある人に技術的な手段を与えて本人が自助できるようにすることだという。しかし、十分にサポートを行っても残ってしまう課題があると大内教授は指摘する。
「自助の時代に最後にハードルとして残るのは、何もやろうとしない、やる気がないことです。やる気がどうしても持てなくて自助ができない、と言われてしまうとどうしようもないですね」
厳しいように思えるが、大内教授は「全て個人でやるというのは大変なこと。全部自助に任せていいなどとは考えていない」とも話す。
「『共助』『公助』も大事です。現在、政府によるサポートは不十分なので、公助をしっかりやるべきということは繰り返し提言していく必要があると思っています。
そして、自助から共助に発展するというシナリオもあります。同じような問題意識を持った人がたくさん集まると、意見が理解されるようになり、社会が動くこともあります。例えば、数年前にフリーランスの人たちが立ち上げた『プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会』の意見は、国の政策にも反映されています。
このように、自助から始まって共助に進むと国を動かすこともできます。雇用で働くことが普通であった時代は何でも企業に任せてしまい、最後は政府が助けてくれればいい、と思う人がほとんどでしたが、これからはそうは行きません。
新しい社会への移行が実際に起こるには、10年くらい待たなければならないと思っていました。しかし、コロナ禍が急速なデジタル化を促すことになるため、移行期間は大幅に短縮されそうです。コロナ禍でネガティブなことだらけですが、うまく乗り越えて、若い人を中心に、新しい社会を実現させてくれることを願っています」