2020年07月23日 08:31 弁護士ドットコム
接待をともなう飲食店や風俗店などで新型コロナウイルスの感染者が急増していることを受け、菅官房長官は7月20日の会見で、風営法に基づく警察の立入検査を強化し、感染防止対策の徹底を呼びかけていく考えを明らかにした。
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菅官房長官は「夜の街の感染が極めて大きいことは東京都の検査でも明らかになっている」「ホストクラブとかキャバクラが根源」と指摘し、「風営法上の義務の徹底を図って、合わせて新型コロナ防止対策の徹底を呼びかける」と話した。
ツイッターでは「何でもありになってしまう」「コロナに乗じたガサ入れ」と立入検査に疑問の声も上がっている。風営法を適用して、コロナ感染防止のための立入検査をすることはできるのだろうか。若林翔弁護士に聞いた。
ーー警察はどのような場合に風営法に基づく立入検査ができますか
風営法37条2項は、風営法の施行に必要な限度においてのみ、警察職員は立ち入りができると規定しています。
また、風営法の解釈運用基準(警察庁生活安全局長通達)では、立ち入りができる範囲について、風営法の目的の範囲内で必要最低限に留める必要があると定めています。
「風営法の施行に必要な限度」や「風営法の目的の範囲内」というのは、設備や構造が守られているかどうか、従業者名簿が備えられているかどうかなど、風営法の規定が遵守されているかどうかを調査する場合やそれに対する指導を行う場合が、その典型例です。
ーーコロナ感染防止のための立ち入りは、「風営法の目的の範囲内」といえますか
解釈運用基準では、犯罪捜査の目的や他の行政目的のために行うことはできないと規定されています。たとえば、「保健衛生上の見地から調理場の検査を行うこと等は認められない」ことが例示されています。
コロナ感染防止という目的は、風営法の目的とは異なる「他の行政目的」といえ、例示のケースと同様に認められないと考えられます。
ーーコロナ感染防止という目的で警察の立入検査が行われることに対し、懸念も出ています。どう考えますか
前述の解釈運用基準には、以下のような規定があります。
「立入り等は調査の手段であり、その実施に当たっては、国民の基本的人権を不当に侵害しないように注意する必要がある」
「立入り等の行使に当たっては、いやしくも職権を濫用し、又は正当に営業している者に対して無用な負担をかけるようなことがあってはならない」
これは、警察による立ち入りが、営業をしている者に対する負担になることや警察による権力の濫用が起こりやすいものと考え、これらを抑止するとともに、立ち入りは風営法の目的の範囲内で必要最小限に留めなければならないとする規定です。
コロナを理由とする警察の立ち入りは、まさしく風営法が懸念している権力の濫用に他ならず、行政権の行使は法律に基づいてのみ行われるという法治主義の根幹である「法律による行政の原理」に反するものであると考えます。
また、一度権力の濫用が認められてしまえば、今度は犯罪捜査を目的とする立ち入りが行われるなど、さらなる法定手続きの潜脱や権利侵害が行われることも懸念されます。
【取材協力弁護士】
若林 翔(わかばやし・しょう)弁護士
顧問弁護士として、風俗、キャバクラ、ホストクラブ等、ナイトビジネス経営者の健全化に助力している。また、店鋪のM&A、刑事事件対応、本番強要や盗撮などの客とのトラブル対応、労働問題等の女性キャストや男性従業員とのトラブル対応等、ナイトビジネスに関わる法務に精通している。
Youtube:『弁護士ばやし』チャンネル
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事務所名:弁護士法人グラディアトル法律事務所
事務所URL:https://fuzoku-komon-law.jp/