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『ハイキュー!!』最終話……挑戦者たちに注がれた作者の無尽蔵の愛

2020年07月23日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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【※本稿は『ハイキュー!!』最終話のネタバレを含みます。】


 『週刊少年ジャンプ』2020年33・34合併号で、8年半に及ぶ『ハイキュー!!』の連載がついに最終回を迎えた。


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 これまで連載されていた「終章」では、日向のブラジルでの武者修行の様子、そして、Vリーグでの日向と影山の再会が描かれただけではなく、それぞれのキャラクターたちの進路が明かされた。


 最終回の舞台は東京オリンピック。「終章」ではまだ登場していなかったキャラクターたちもみな顔をそろえた。そんな最終回の見どころを解説する。


■これぞ大円団!誰もを納得させる最終回


 最初のページでは烏野高校の面々が、そして見開きのセンターカラーでは、これまで登場したキャラクターたちが集合している。これだけで胸が熱くなってしまう。


 オリンピックのバレーボール試合会場では、春高で活躍した選手たちが顔をそろえた。その様子を登場人物たちがそれぞれの場所で見守る様子はさながら同窓会だ。確かに素晴らしい選手はたくさんいたけれど、そんなにオリンピックの会場に勢ぞろいするだろうか。そこがリアルではない、という人もいるかもしれない。


 しかし、ひとりひとりが努力を重ね、苦しむ様子はとてもリアルだったと読者は知っている。苦しみながら試合に向かう姿も見てきた。こんな未来があってもいいじゃないか。8年半の連載ではひとりひとりの努力が丁寧描かれていたし、読んでいて納得させられるだけのパワーを持っていた。


 それにもちろんバレーボールから離れた者もいるが、それぞれの「今」の職種を見るとなるほど、と思わず頷いてしまう(花巻貴大の転職活動中も含めて)。


 『ハイキュー!!』を通して、読者である私たちは「夢を叶える方法」を教えてもらったのではないだろうか。


■華麗なセリフの回収に痺れる


 日本代表に及川の姿はない。及川がいたのは、日本の対戦国となる――アルゼンチンだ。及川がかつて言ったセリフを思い出す。


〈「…俺は 全員倒す 覚悟しとけ!」〉


 国内にいれば、誰かとチームメイトとなるだろう。代表選手となればかつての敵は味方となる。一体どうやって“全員”倒すのか。その解が帰化した形だ。日向も『無茶な奴』だったが、及川もやはり『無茶な奴』だったのだ。


〈「さあさあ 世界一ゼイタクな 内輪揉めですよ」〉


 そのセリフがまた及川らしい。その及川のサーブを受け、影山がセットし、日向が打つ。いつまでも、2人の前には最高のライバルとして及川が立ちはだかっている。


 稲荷崎高校の元主将・北信介は、最後の試合となった春高2回戦、対烏野戦でチームの主力である宮兄弟にこんなセリフを残した。


〈「どや俺の仲間すごいやろって もっと言いたかったわ」〉


 そんな北がオリンピックの試合を見ながら周りの人たちに向かって満面の笑みで言う。


〈「どや 俺の仲間 皆 すごいやろ」〉


 また、全日本男子代表チーム監督の雲雀田は、影山が招集された全日本ユース強化合宿でこのように言っている。


〈「『日本、高さとパワーの前に破れる。』ーなんて決まり文句は もう古い」
「バレーボールはもっとおもしろいと証明しよう」〉


 オリンピックの代表選手には小柄の日向や星海がいる。パワーが武器の牛若もいる。そんなチームを率いて雲雀田は改めて言う。


〈「さあ 今日も バレーボールは 面白いと 証明しよう」〉


 かようにさまざまなセリフたちがこれまでのシーンを呼び起こす。最終話(28ページ)がとても長く、厚みがあるように思えたのはそのせいなのかもしれない。


■これからも挑戦は続く


 オリンピックで得点を決めた影山と日向、“烏野高校伝説のコンビ”。2人にとってオリンピックはきっとひとつの終着点だ。しかし、ページをめくると、そこには再びネットを挟んで向かい合う2人が描かれる。


〈「挑む者だけに 勝敗という導と その莫大な経験値を得る権利がある」〉


 これも全日本男子代表チーム監督の雲雀田のセリフだ。一度も負けない者はいない。昨日の敗者たちは、今日は何者になるのか。


 ネットを挟んだ日向と影山は言う。


〈「「俺が勝つ」」〉


 最終話のタイトルは「挑戦者たち」。日向も影山も、そして全ての者たちが永遠に挑戦者なのだ。


(文=ふくだりょうこ)