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仕事“できそう”な鷹野さん×お腹弱い鶸田くんの名タッグ シレっと笑える『無能の鷹』

2020年07月21日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 この前、なにかで「人を見た目で判断するのは簡単で、それは思考停止だ」と書いてありました。でもたいていの人は見た目でどんな人か、仕事ができそうかを決めますよね。それで思い出す知り合いがいます。ものすごーく仕事ができそうな雰囲気を醸し出してる女性です。いつもパリッとスーツを着ていておしゃれで、キリッとした顔立ち。


 だけど口を開くと、「このケースは先方のアセットのビッグデータがサジェストしたカスタマーインサイドをデザインドリブンでフレームワーク化して……」みたいに横文字羅列して、「ごめんなさい、難しい話して……」みたいなこと言います。


 小難しいことを言うと仕事ができるって思ってるのかな、逆にめちゃくちゃあたま悪そうだけどな、話が長いわりには言ってる中身がなんにもないしと思っていたんですが、何人もが「彼女は仕事ができる」と思っていたようなので、戦略は成功していたようです。


 ただし、見た目で評価されて中身がついてこないと、その後の信頼度に大きく響きます。ギャップが大きければ大きいほど、絶望感がでかい。それはそれで大変だろうなと思います。


 『無能の鷹』は、見た目でとにかく仕事のできそうなオーラを出してる鷹野さんと、自己肯定感が低く、なにかあるとすぐお腹壊しちゃう鶸田(ひわだ)くんの物語。


 鶸田くんは別に仕事ができないわけじゃないのに、自分に自信が持てない。引き換え小学生程度の能力しかなく、社内ニートになっている鷹野さんは、会社でどんなに低評価だろうが気にしません。なぜなら、「私がこの会社を必要としているから」「会社に必要とされてるかは考えないようにしてる」んだとか。



まじかよメンタル強ぇーな。(鶸田談)



 そして彼女は、「丸の内のオフィス街をパリッとした服でカツカツ歩いて 受付を社員証でピッしたかったの」と、かっこよく言います。鷹野さんは、どんなに中身のないことを言うときでもかっこいいんです。


 鷹野さんのように、人とのコミュニケーションがうまくとれない、周囲からは変わり者と言われている登場人物がたまにドラマやマンガに登場します。そしてまた鷹野さんのようにスーパー爆発的ポジティブで、どんなに指導しても仕事ができるようにならない、そして気にするそぶりもない社員が一定数社会にはいて、それが問題になっていると産業カウンセラーの知り合いから聞きました。その現場の苦悩は計り知れません。


 だけど鷹野さん鶸田くん2人のコンビは、めちゃくちゃ化学反応を起こしてグイグイ結果を残していくんです。リアルでもこんな名タッグが産まれないかしら。あり得ない話ではない、気もします。


 ところであの、多くの人は「コンサルってなんか怪しい」と思ってませんか。「小難しいこと言って、実は大したことしてないよね」みたいな。鷹野さん鶸田くんの勤める会社はITコンサル会社です。鷹野さんの見た目だけの感じと、コンサルの“イメージ”って、わりとおんなじなんですよね。そうした設定がうまく、淡泊な感じの絵柄に、シレっとした笑いもよくあってて、めちゃくちゃ笑えます。


 「続きがどうなるかはぜんぜん気にならないけど、続きが出たら絶対買う」という、とても珍しいタイプの作品です。仕事で辛いことがあったとき、何かで落ち込んだとき、読むとブフっとなって元気が出ますよ。


■和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女マンガ解説、ライター、編集。大学卒論で「少女漫画の女性像」を執筆し、マンガ研究のおもしろさを知る。東京マンガレビュアーズレビュアー。視覚障害者による文字起こしサービスや監修を行う合同会社ブラインドライターズ(http://blindwriters.co.jp/)代表。


■書籍情報
『無能の鷹』既刊1巻(KC KISS)
著者:はんざき朝未
出版社:講談社
価格:本体450円+税
https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000036084