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香港「国家安全法」違反したら、日本人も逮捕される? 外国人も「処罰対象」規定への懸念

2020年07月16日 09:51  弁護士ドットコム

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香港での反政府的な活動を取り締まる「香港国家安全維持法(国安法)」が6月30日に施行された。同じ日に公開された法律によると、香港に永住権を持っていない外国人による「香港以外の場所」での行為も処罰対象になるという(38条)。


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これを受け、ネット上では「日本人にも適用されるってこと?恐ろしい」「香港についてツイートしないようにしよう…」「世界のどこにいても、逮捕される可能性があるのは怖い」などの声が複数あがっている。



●日本人が、日本国内で「国安法」違反行為をしたらアウト?

日本人が、日本国内において国安法違反行為をした場合、逮捕されたり、処罰されたりする可能性はあるのだろうか。柏本英生弁護士は、次のように説明する。



「国安法は、外国人が香港外でおこなった行為についても処罰するとしています(国安法38条)。そのため、日本人が日本国内で、国安法が規定する犯罪行為をおこなった場合でも、国安法による処罰の対象になり、行為後に香港に行った際には処罰される可能性があります。



『外国人が外国でおこなった行為が犯罪となるなんて変だ』と思われる方もいるかもしれません。しかし、一定の犯罪については、日本の刑法にも同じような規定があります(刑法2条)。



しかし、外国には自国の捜査権は及びません。そのため、香港の警察が日本に来て捜査をしたり、逮捕したりすることはできません。国外にいる逃亡犯罪人を捕まえるためには、国際捜査協力を求める必要があります」



●インターポールを通じて国際手配された場合は?

柏本弁護士によると、国際捜査協力の主な方法としては、(1)国際刑事警察機構(インターポール)を通じて国際手配(赤手配)をする、(2)特定の国に対して個別に逃亡犯罪人引渡し請求をする、の2つがあるという。



「(1)赤手配は、各国に対して、逃亡犯罪人を自国に引渡すために拘束するよう求めるものです。逃亡犯罪人がどの国にいるのかが分からなくても利用することができます。



この赤手配は2012年の1年間で8136件おこなわれており、比較的ハードルが低いもののようです。そのため、香港が国安法違反者の日本人を国際手配する可能性はあります。



しかし、日本では、憲法33条が「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となってゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」と規定しています。



これは、現行犯として逮捕される場合以外は、裁判官が発する令状がなければ逮捕されないということです。そして、日本には、赤手配に基づいて裁判官が令状を発付する制度はありません。



そのため、赤手配が出されただけでは、警察が指名手配犯を捕まえることはできません」



●香港から日本に対し、逃亡犯罪人の引渡しを請求される可能性は?

そうなると、(2)香港から日本に対して、逃亡犯罪人の引渡しを請求することになりそうだ。この点について、柏本弁護士は次のように語る。



「日本が『逃亡犯罪人引渡条約』を結んでいるのはアメリカと韓国だけです。しかし、条約がなくても逃亡犯罪人の引渡しをすることは、国際社会の慣習(国際礼譲)から可能であり、実際に日本から中国に引渡しをおこなったケースもあります。



条約を結んでいない国との間の犯罪人引渡しのルールについては、『逃亡犯罪人引渡法』という法律があります。この法律に基づいて、日本の裁判所が『仮拘禁許可状』または『拘禁許可状』という令状を出して、逃亡犯罪人を拘束することになります。



ただし、この法律には、外国に引渡しをしてはならない場合が定められています。その中には、犯したとされる犯罪が政治犯であるとき、犯したとされる犯罪が日本の法律における一定の重大犯罪に当たらないとき、という規定に加え、『逃亡犯罪人が日本国民であるとき』という項目があります(逃亡犯罪人引渡法2条)。



このように、日本人は引渡しの対象から外されています。そのため、日本が香港からの要請に応じて日本人を捕まえたり、香港に引渡したりすることはありません。



なお、以前、ペルーが日本に対し、フジモリ元大統領の引渡し請求をおこなった際、日本はフジモリ氏が『日本国民』に該当するとして、引渡しを拒否しました」



●国安法違反行為をした日本人が、海外旅行に行った場合は?

では、国安法が規定する犯罪行為をおこなったとされる日本人が、中国や香港以外へ海外旅行に行った際に、拘束されたり、香港に引渡されることはあるのだろうか。



柏本弁護士は「その滞在国の法制度によります」と語る。



「日本もそうですが『政治犯は引渡さない』『自国の法律で犯罪とならない場合には引渡さない』という規定を設けている国は多いので、そのような国に滞在した場合には、引渡されないと思います。



国安法は施行されたばかりで、その運用はまだ不透明です。今後、香港が国安法違反の外国人に対してどのような態度を取るのか、注意して見守っておく必要があります」




【取材協力弁護士】
柏本 英生(かしもと・ひでお)弁護士
刑事事件が専門の法律事務所にて、多数の刑事事件に携わる。近年は、有名人の弁護、裁判員裁判、少年事件・医療観察事件に加え、外国人の刑事弁護や入管手続等の国際案件も多数取り扱う。弁護人としての活動に限らない「トータルサポート」がモットー。
事務所名:弁護士法人中村国際刑事法律事務所
事務所URL:http://www.t-nakamura-law.com/