棋聖戦第3局――。渡辺明棋聖と激戦の末に敗れた藤井聡太七段。“魔王”相手に2勝し、このままストレート勝ちかと思われていたが、その壁は厚かった。将棋ライターの松本博文さんは、“事前準備”が明暗を分けたと語る。
「お互いに相手の最新の戦型を研究したものの、渡辺棋聖の準備のほうが万全だったのが大きな勝因だと思います。スケジュールを見ると、7月に入って渡辺棋聖は2局目で、藤井七段は5局目。藤井七段は過密な日程のなかで、事前準備に十分時間が取れなかった可能性があります」
棋聖戦に加え、王位戦にも挑戦中の藤井七段。屋敷伸之九段の18歳と6か月を塗り替える“最年少タイトル獲得”を期待する声も多い。
「藤井七段は14歳と2か月という最年少でプロ入りを果たし、デビュー以来無敗で将棋史上最多の29連勝を達成するなど、記録を次々と打ち立ててきた神童です。この最年少記録を更新できるのは彼以外にはいないと思いますね。この先、これだけ規格外の天才が出てくる可能性はほとんどないと思うので」(松本さん)
前人未到の偉業を達成するための、今後の課題は?
「藤井七段は今、過密なスケジュールのなか、日本中を飛び回っています。その状況のなかでどれほどのパフォーマンスを発揮できるのか、そして今後はいかに時間的な余裕を確保し、それを休息や次の対局の準備に当てることができるかが重要なポイントだと思います」(松本さん)
渡辺棋聖との次なる“決戦”は木曜日。運命やいかに――。
一式そろえるのに
百万円以上はザラ
史上最年少でのタイトル獲得に、あと一歩の藤井聡太七段。試合運びにも注目が集まるなか、たびたび話題になるのが“指し方”。「まるで芸術作品」と評する声もあるが、何が他の人と違うのか? 将棋ライターの松本博文さんは次のように語る。
「“強いうえに華がある”指し方と言えます。一局中のどこかで必ず、人を驚かせるような一手がある。スター性を感じる美しい手を指してくれるんです」
普段は謙虚、しかし将棋盤の上では強い意志を感じさせるという。
「大先輩相手でも物怖じせず、自分の実力を信じている印象です。やはり本質的な部分でとても負けず嫌いなのでしょう」(松本さん)
タイトル戦でもうひとつ注目を集めたことが。趣ある和装姿だ。
「棋士にとって晴れ舞台なので、和装で臨むのが伝統です。最近では羽生善治九段の影響が大きいと思います。彼は'89年に竜王のタイトルを取って以降、和装で臨んでいます。羽生九段に憧れた子どもたちが棋士となり、その形式が継承されているんです」(松本さん)
高価なイメージがあるが、一式そろえるにはいくらかかるの?
「一部では30万円ほどと報じられていましたが、おそらくそれでは足りません(笑)。百万円以上はざらと聞きます。藤井七段のように、若手棋士はタイトル戦出場など特別な機会があって和服を用意するのがほとんど。羽生九段は百着以上、持っていると言われていますよ」(松本さん)
ファッション&裏名場面を振り返り!
デビュー戦は学ラン
中学の学ラン姿で臨んだデビュー戦は、初々しさが印象的だった。当時14歳と2か月という史上最年少でプロ棋士デビューを果たすと、ひふみんこと加藤一二三・九段と対局。その年齢差はなんと62歳!('16年12月24日・プロデビュー戦)
さわやかな夏服姿も
“相撲好き”で知られる藤井七段。この日は師匠の杉本昌隆八段と桝席で観戦。爽やかな夏服姿が印象的だった。終了後に白鵬と対面すると、扇子をプレゼント。白鵬から「かわいいね」と言われ、タジタジな様子!('17年7月12日・大相撲名古屋場所)
愛用の“青リュック”を持って
増田康宏六段相手に勝利しデビュー戦から最多の29連勝を果たす。紺のスーツにデビュー当時、注目が集まった“青色のリュックサック”で登場。リュックはカリマー社製のプレストンデイパックで、一時期は問い合わせが殺到する事態に('17年6月26日・第30期 竜王戦決勝トーナメント1回戦)
100勝達成も謙虚に
通算100勝に達した際の記者会見にて、100勝に対する感想を聞かれると、「喜ばしく思っているが、最終的にどれだけ強くなって実績を残すかがいちばん重要」と謙虚なコメント。('18年12月12日・第27期銀河戦)
和装で“勝負”をかけて
和装で対局に臨むや否や、「大人っぽくなった」と話題に。将棋棋士にとって和服は、タイトル戦など重要な対局のときに身を包む“勝負服”。師匠の杉本八段いわく「(藤井は)和服は4着持っている」とのこと('20年7月9日・ヒューリック杯棋聖戦五番勝負の第3局)
“全集中”モード
対局時の集中した表情。棋士は1回の対局で体重が2、3キロ落ちるほど、エネルギーを使うことも。知識はもちろん、集中力も大切な要素('19年1月20日・第12回朝日杯オープン戦準々決勝)
お茶が熱くて思わず驚き!
対局前。これからの闘いに向けてお茶をひと口飲むと、その熱さに驚いたような表情に! ライバルにも動じない藤井七段の貴重な一瞬。('17年6月26日・第30期 竜王戦決勝トーナメント1回戦)
悔しさにじむ闘いも
百戦錬磨のイメージが強いが、悔しい経験も。この対局で井上慶太九段相手に137手で敗れ、当時の連勝が16戦でストップしてしまった('18年3月28日・第68期王将戦1次予選)