2020年07月15日 10:12 弁護士ドットコム
パートナーの不倫が原因で離婚することになった夫婦もいる。中には、離婚後に相手を許し、再び同じ人と結婚するというケースもある。しかし、上手くいく場合もあれば、過去の不倫が尾を引き、破局に向かう場合もある。
【関連記事:私の婚約者を奪った「妹」が妊娠、結婚式の招待が来た・・・妹と「絶縁」できる?】
弁護士ドットコムにも「私が不倫をしてしまったことが原因で離婚しましたが、夫に許してもらえたので、もう1度夫と結婚しました」という女性が相談を寄せている。
相談者によると、再婚後に夫は豹変。子どもの前で相談者に暴行したり、暴言を吐いたりするようになった。
夫は、相談者を「許した」と言いながらも、実際は過去に不倫されたことを忘れられず、「許せない」という気持ちも強く残っているようだ。妻である相談者が不倫していた事実を周囲に言いふらしているという。
相談者は、夫の言動に限界を感じ、離婚することを検討している。しかし、過去に不倫をしたことは動かせない事実だ。
「不貞行為」は法律上認められる離婚原因でもあり、1度目の離婚の原因を作ったのは相談者ということになる。そのため、相談者は「私も有責配偶者として慰謝料を支払わなければならないのでしょうか」と聞いている。
橘里香弁護士は「原則として、慰謝料を支払う必要はないと考えられます」と語る。なぜ、支払う必要がないと考えられるのだろうか。
「相談者夫婦の場合は、一度離婚して、再婚しています。このことから、過去の不貞については、夫が許し、解決したものと解されるからです。
判例でも『相手方配偶者が不貞行為を宥恕(ゆうじょ:寛大な心でゆるすこと)したときは、その不貞行為を理由に有責性を主張することは宥恕と矛盾し、信義則上許されない』としたものがあります(東京高裁平成4年12月24日)」
相談者は、子どもの目の前で暴行されたり、暴言を吐かれたりすること、夫が周囲に過去の不倫の事実を言いふらしていることを理由に、離婚を請求したいと考えている。
裁判で離婚をする場合は、法律で定められた離婚事由が必要だ。相談者の場合は「婚姻を継続し難い事由」(民法770条1項5号)があるといえるのだろうか。
橘弁護士は「暴言や周囲への不倫の公言のほかに暴力までありますので、『婚姻を継続し難い重大な事由』があると認められる可能性は高いと思われます」と説明する。
では、夫に対する慰謝料請求が認められる可能性もあるのだろうか。
「暴力は、理由はどうあれ決して許されるものではありません。そのため、慰謝料についても認められる可能性は高いでしょう。
また、たとえ本当のことであったとしても、正当な理由なく人の社会的評価を低下させる事実を吹聴することは『名誉毀損』にあたります。不貞を周囲に言いふらしたことも有責事情として考慮されるといえ、程度によっては慰謝料も認められるといえます。
暴言についても、執拗に責め続けるなどした場合には、離婚理由や慰謝料発生の理由になるといえるでしょう。
ただし、既に一度許されたとはいえ、過去の不貞の責任は妻側にもあります。そのため、その評価にあたっては、一定程度経緯も考慮されることになると思われます。
不貞について完全に許すことは難しいことではありますが、一度許すと決めた以上は、双方共に、関係改善に向けた努力をしていくことが大切です」
【取材協力弁護士】
橘 里香(たちばな・りか)弁護士
沖縄県那覇市出身。1979年生まれ。メンタルケア心理士の資格を持ち、「相談しやすさ」「話しやすさ」に定評がある。離婚事件に注力し、これまで数多くの事件を解決に導いている。
事務所名:弁護士法人一新総合法律事務所
事務所URL:http://www.n-daiichi-law.gr.jp/