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名車と暮らせば~メルセデス「S124」との悲喜こもごも~ 第3回 名車は走らせるまでが大変? 交換部品続出の納車整備

2020年07月10日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
メルセデス・ベンツの名車「S124」と暮らす自動車ライター・原アキラさんに悲喜こもごもを聞く本連載。3回目となる今回は、所有2号車となった「E280 ステーションワゴン Limited」の納車整備に関する話だ。購入時の状況にもよるのだろうが、名車は一目ぼれして買ったとしても、いろいろと手を入れなければきちんと走ってくれないようだ。

○購入額と納期のハナシ

コロナ禍で取材のアシとして使われる機会がなく、のんびりと納車整備が終わるのを待つことにした我がS124の2号機「E280 ステーションワゴン Limited」。冒頭の写真は、その2号機を下から撮った写真である。いきなりエイリアンのような写真で驚かれた方がいるかもしれないが、このクルマ、設計は今を遡ること30年以上前の1980年代であり、最新モデルのようにロワボディに整流効果のあるカバーが取り付けられているようなものとは大違い。下半身が剥き出しなのである(空気抵抗のCd値は当時としては驚異的な0.29を達成しているが)。

このクルマを購入した「アイディング」(横浜市都筑区)の白濱勝秋代表は、納車までには「ちょっと時間がかかりますヨ」と話していた。きちんと走らせるまでにはかなりの部品を取り替えたり、調整したりする必要がある。写真はその時のものなのだ。

白濱代表が「時間がかかる」といった理由は、新しく取得した2号機の車検証を見ればすぐに分かる。備考欄の走行距離計表示値は6万3,900km。一方の旧走行距離計表示値は5万8,800kmで、前回の車検取得時からは約5,100kmを走行していることになるのだが、問題はその日付で、平成25年(2013年)11月になっている。つまり、前回の車検が切れて(2015年11月)から4年半ほど、ほとんど動いていないようなのだ。白濱代表の話だと、他の124専門店で長きにわたって眠っていたらしい。

ちなみに、今回の2号機の車体販売価格は222万円。諸費用込みの合計金額は254万3,170円となり、ここから1号機の下取り額(きちんと整備していたのが功を奏したのか、思いの外イイ値段だった)を引いてもらったのが今回の総支払い額だ。当然、その中には、時間をかけて行われる膨大な数のパーツ代と整備代が含まれる。ま、それがさらにプラスされるなんてことになると、手が出ませんけど……。

○納車整備のハナシ

そんなこんなで、コロナの自粛要請が開始されたのと同じ時期に納車整備が始まった我がS124の2号機。大物では、まず6気筒エンジンのヘッドを開けて、ガスケットを新品に交換している。

取り外され、チェーンで吊り下げられたエンジンヘッド部分には、DOHC(ダブルオーバーヘッドカムシャフト)らしく2本の長いカムシャフトが並行に並んでいる。燃焼室側から見ると、吸・排気のバルブが各シリンダーに4個ずつ、6気筒なので計24個のバルブがずらりと並んでいる様子がよく分かる。1980~90年代の日本車の車体に自慢げに貼られていた「DOHC ツインカム24バルブ」のロゴマークが意味するのがコレだ。一方のメルセデスでは、その機構を採用していても大っぴらにひけらかすところがない。

エンジン関係ではそのほか、エンジンマウント、タイミングベルトのテンショナーやダンパー部分、スパークプラグを交換。オイルフィラーキャップも新品だ。

マフラーのすぐ前にある、70リッターが入る燃料タンクも、内部が派手に錆びついていたため交換した。放置期間が長かったのでタンクの空間部分にある空気が結露し、その水がサビの原因になったらしい。ガソリンを送り出す細いパイプ部分もサビで詰まっていて、そのためフューエルポンプに負担がかかっていたようで、そちらも交換だ。白濱代表は「燃料が半分ぐらいになったらすぐに満タンにして、タンク内に空間を作らないようにするのがS124を長持ちさせる秘訣なんです」と教えてくれた。

燃料関係では、ガソリンの未燃焼ガスが大気に放出されるのを抑えるチャコールキャニスターや、それを制御するパージバルブを交換している。

このほか、サスペンションやタイロッドの接続部分に使用するゴムブッシュ類、四輪のブレーキディスクローター、バッテリーを新品に交換。オイル、フルード類ではエンジンオイル、ATFオイル、ディファレンシャルオイル、ブレーキオイル、ウォッシャー液も全部交換だ。

我が2号機の走行距離はまだ6万4,000kmなので、同時期に生産された個体としては走行距離が短い方だろう。一方では、すでに26年の年月を経てきているので各パーツの劣化は否めないし、ましてや不動期間が長かったので、一気に手を入れてやる必要があった、ということだろう。

本連載第1回に対するコメントでは、「まだパーツがそろうのでしょうか?」との疑問が寄せられていたが、124は世界で200万台以上が生産されたクルマで、まだまだ純正パーツやリビルト品が手に入る状況だ。本気でやるなら、かつて124の輸入元だったヤナセの「ヤナセクラシックセンター」や、メルセデス・ベンツ日本の「ヤングクラシック・リフレッシュプラグラム」に持ち込めば完璧に仕上げてくれるだろうし、筆者のように専門店の「アイディング」や「後藤自動車」が比較的近くにあるという環境にあれば、そちらにお願いする手がある。

そのほか、「260E」「280E」「300DT」「500E」などにお乗りだった方からもコメントが寄せられていた。今でも現役で乗っておられる方も多いのだろう。この企画が少しでも参考になったり、逆にご意見をいただいたりできれば嬉しい限りである。次回は装備品などのお話です。

○著者情報:原アキラ(ハラ・アキラ)
1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。(原アキラ)