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『泣きたい私は猫をかぶる』は「猫の存在がとても大きな映画」- 監督語るヨルシカの"寄り添わない"楽曲が広げる作品世界

2020年07月07日 16:21  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●実は表現が難しい猫のかわいらしさ
Netflixオリジナルアニメ『泣きたい私は猫をかぶる』が、現在配信されている。

本作は、第42回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞作『ペンギン・ハイウェイ』で賞賛の声を浴びたアニメーションスタジオ「スタジオコロリド」が手掛けた長編アニメーション映画第2弾作品。当初は劇場公開を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、配信へと舵を切った。「美少女戦士セーラームーン」『おジャ魔女どれみ』など90年代アニメを支えてきた、日本アニメ界の重鎮・佐藤順一監督と、スタジオジブリを経て現在はスタジオコロリドにて数多くのCMや映像作品に参加、本作で長編監督デビューを飾る新進の柴山智隆監督がダブル監督としてタッグを組んだ作品としても注目を集めている。
○『泣きたい私は猫をかぶる』あらすじ

笹木美代(ささき・みよ)は、いつも明るく陽気な中学二年生の女の子。空気を読まない言動で周囲を驚かせ、クラスメイトからは「ムゲ(無限大謎人間)」というあだ名で呼ばれている。しかし本当は周りに気を使い、「無限大謎人間」とは裏腹に自分の感情を抑えて日々を過ごしていた。そんなムゲは、熱烈な想いを寄せるクラスメイトの日之出賢人(ひので・けんと)へ毎日果敢にアタックを続けるが全く相手にされない。めげずにアピールし続ける彼女には誰にも言えないとっておきの秘密があった……。

今回は、佐藤順一監督と柴山智隆監督に、本作の魅力について訊いた。

――歩く、走るだけでなく、跳ぶ、着地する、フワフワの体をなでられるなど、猫の表現にも並々ならないものを感じました。

佐藤:うちにも猫がいるんですが、猫って実はアクティブな時よりもじっとしている時が一番猫らしいんですよね。今回太郎は芝居をしているので、猫らしさを発揮する機会が若干少なくなってしまっているんです。そこは難しかったんじゃないかと思います。

柴山:いま、アニメーション制作の現場で四足歩行の動物を描くことがなかなかないので、これを機会に勉強をし直したという方もいらっしゃいました。最初は骨格や筋肉を意識して描くんですけど、うまく省略していかないと猫のかわいらしさが損なわれてしまうんです。

佐藤:日之出が太郎を抱き上げるシーンのところは少し修正を入れたかもしれません。抱き上げる時に太郎の体がビヨーンと伸びるところとかね。

柴山:もっと猫について知るために、社内で「あの猫の動画いいよ」と情報共有したり、僕自身は猫カフェに行ったり、写真家の岩合光昭さんのDVDを観たりしました。佐藤監督は猫の佇まいを描くのもとてもお上手なので参考にさせていただきました。個人的には、子猫の軽さなどもよく表現できていたんじゃないかと思います。

佐藤:猫の存在がとても大きな映画です。そういえば、日之出を演じる花江夏樹さんも大の猫好き。猫に対して甘々なのは普段の花江さんなのかもしれませんね。

――日之出を演じる花江さんの、ムゲと太郎、それぞれに見せる表情の違いも素晴らしかったです。

佐藤:カッコよすぎない感じがいいんですよね。煮え切らない感じなんだけど、ムゲに好かれるくらいには芯がある。オーディションでは、ほかの方たちは芯がありすぎる印象でした。そんななかで、自然さが一番あるのが花江さんだった。声優経験があまりない志田さんへのフォローなどケアもしっかりしてくださって、本当に一緒にやらせていただいてよかったなと思いました。

――ムゲ役に女優の志田未来さんをキャスティングした意図はどのようなところにあったのでしょう。

佐藤:志田さんに関しては僕の方からお願いしました。志田さんは小さいころからずっとお芝居をされていて、日本テレビ系ドラマ『女王の教室』のイメージが強かったのですが、すごい役者さんだなと当時から思っていました。

ムゲは、大人の都合でできた世界に合わせてきたことでストレスを感じてしまい、感情を爆発させるキャラクター。志田さんも大人の世界でお仕事をされてきて、共感できるところもあるんじゃないかなと。そこでシンクロしてくれたら画が完成するんじゃないかと思い、提案しました。

スキルも高くて、志田さんにはムゲと猫の太郎、ほかにもあるキャラクターをやっていただきました。声の演じ分けは声優さんだったら不安はないんですけれど、役者さんなので、あまり変化がなかったらキャラによって別の方にやっていただこうと思っていたんです。でもまったく問題なかった。特に驚いたのが、学校と家でのムゲの変化、太郎として猫店主に接する自然な感じをとてもうまく表現されていたことでした。

●おぎやはぎ小木博明さんキャスティングの理由は

――声優キャストで見ると、おぎやはぎの小木博明さんのお名前が意外でした。

柴山:これはデザイン先行なんです。キャラクターデザインの池田由美さんに発注する際に、「有名人の方を参考にすると描きやすいかもね」というお話になったんです。ですから、ほかのキャラクターもモチーフは誰かな?と想像しながら見るのも面白いかもしれませんね。そこで先生は小木さんモデルでと。演出の清水勇司さんが小木さんのファンだというのもあるのかもしれません。

佐藤:セリフが少ない役なのでやっていただけるかわからなかったのですが、お願いしたところ受けていただけました。先生役なので、朝のあいさつのパターンもたくさん録っていただいたのですが、作中ではバランスを取るために少なくなっているので、もしかしたら小木さんからするとずいぶんオミットされているなと感じられるかもしれませんね。

――主題歌「花に亡霊」挿入歌「夜行」エンドソング「嘘月」は、特に若者に人気のアーティスト・ヨルシカの楽曲で、劇中でどのようになっているのかも注目ですね。

柴山:音響監督を佐藤監督がやられているのですが、最初にヨルシカさんに説明があった時に、「あまり作品に寄り添いすぎずに」というお話があったんです。そのことが印象に残っていたのですが、ヨルシカさんから最初に「夜行」が上がってきたときに納得しました。画に合わせた時に広がっていくイメージが気持ちよくて、佐藤監督はこれを狙っていたのかなと思って勉強になりました。

――佐藤監督はそうした狙いがあったのでしょうか。

佐藤:僕は最初、ヨルシカさんのことを知らなかったんです。でも、聴いているうちに若い人にすごく人気があるというのがわかる気がしました。最初は世界観がつかみにくかったんです。でも、聴いていると理路整然と語らないというか、楽曲の中ですべてが描写されているのではなくて、全部を聴くとその外が気になるというか、歌われていない風景がすごく見えてくるというのがありました。歌詞って、言葉をチョイスして組み木細工のように組み立てていくものだと思うんです。ヨルシカさんの場合、組み木細工だけじゃなくて、それがどこに置かれているんだろう、誰のものなんだろうということが見えてくる歌だなという印象でした。

ですので、今回お願いする楽曲も、ムゲと日之出が(作中では)こうだったよねというところを描くのではなく、これからどうなるのか、10年くらい後のイメージが広がるといいなと思っていました。いただいた楽曲はまさに映画のできごと全体を10年後から振り返ったかのような風景が見えた。それは最初から狙ったものではないのですが、柴山監督が言うように、画と合わせることでパッと生まれてくるものなのかもしれません。

――「寄り添わないで」ということはいつも言われるんですか?

佐藤:そうですね。合わせてしまうとどうしても映画で言ったことをもう一度語るみたいになってしまう。映画で語られることは語られてしまっているので、そうじゃない風景がほしいんです。何が見えてくるかはわからないんですけれど、画と一緒になったからこそ見えてくるもの、それがほしいんですよね。

――構成上、ストーリーのクライマックスと音楽と作るクライマックスは別だったりするのでしょうか。

佐藤:同じときもありますし、90分あれば中ほどの山のところで作ることもあります。主人公たちの心情をフォローするような楽曲と合わせることで、描かれるシーンの印象をぐっと強くすることができますからね。

――あらためてお二人から見どころを教えていただけますでしょうか。

佐藤:この映画は、まわりの人とどうやればうまくやっていけるんだろうという個人的な感情の動きが描かれています。見方を変えたら幸せになるかもよというメッセージもありますが、軽い気持ちで気楽に見ていただきたいですね。

柴山:映画から配信ということでお届けする形式は変わりましたが、お伝えしたいメッセージや描きたかったものはまったく変わっていません。そして、こうした状況のなか、新作映画をお届けできることをうれしく思っています。ぜひご覧ください。

(C) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会(マイナビニュース編集部)