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『グランツーリスモ』をどう撮る? 歴戦の写真家に聞く

2020年07月07日 11:22  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
フォトエージェンシーのゲッティイメージズは、レースゲーム『グランツーリスモ』の世界大会で写真撮影を担当する。今やプレイヤー自身が画面をキャプチャーできる時代となったゲームの世界で、実際にF1などを撮影してきたスポーツカメラマンは何を“狙う”のか。本人に聞いた。

○「eスポーツ」に注力するゲッティイメージズ

ゲッティイメージズはグランツーリスモを手掛けるポリフォニー・デジタルとの間でパートナーシップ契約を締結した。今後はゲッティイメージズのモータースポーツ専門フォトグラファーが、グランツーリスモのオンラインイベントやワールドツアーなどの写真を撮影する。この契約により、ゲッティイメージズは「FIA(国際自動車連盟)認定グランツーリスモチャンピオンシップ」の公式フォトエージェンシーとなる。

国際オリンピック委員会(IOC)や全米バスケットボール協会(NBA)などのスポーツ統括団体と世界で初めて提携し、これまでに多くのスポーツ写真を撮影してきたゲッティイメージズは現在、市場規模が急拡大中の「eスポーツ」に注力している。グランツーリスモの撮影も、この文脈に沿った取り組みだ。

「FIAグランツーリスモチャンピオンシップ」は2018年に始まった新しいモータースポーツ。ゲーム『グランツーリスモSPORT』(対応機種:プレイステーション4)の「スポーツモード」で世界中のプレイヤーが競い合い、好成績を収めるとワールドツアー、ワールドファイナルといった世界規模のイベントに参加できる。このイベントには国・地域で競う「ネイションズカップ」と自動車メーカーで競う「マニュファクチャラーシリーズ」という2つのチャンピオンシップがある。
○ゲームのレースをどうやって撮影する?

モータースポーツの歴史には、カメラによって切り取られたいくつもの名場面がある。試しに「1989 suzuka」で画像検索をかけてみれば、1989年の鈴鹿サーキットにて、激戦を繰り広げていたアイルトン・セナとアラン・プロストが接触し、コース上にマシンを並べて停止している歴史的な瞬間を捉えた写真を見ることができる。決定的な一瞬を切り取るカメラマンの力と、写真というメディアの底知れない表現力を見せつけてくるような1枚だ。

では、そんな写真の力、カメラマンの力を、ゲームの中で発揮することは可能なのだろうか。ゲームの映像表現が日進月歩で進化を続けていることは、オリジナルの『FINAL FANTASY VII』とそのリメイク版の比較を持ち出すまでもなく明らかだ。ただ、ゲームは結局のところ画面に映るものだし、どんなに臨場感の演出が卓抜であろうとも、間違いなくバーチャルなものでもある。そんなゲームの世界をカメラは写し撮れるのだろうか。そもそも、どうやってゲームを撮影するのか。

そんな疑問に答えてくれたのは、ゲッティイメージズに所属するフォトグラファーのクライブ・ローズさんだ。ローズさんはこれまで、何度もF1世界選手権の撮影を担当してきたほか、陸上競技世界選手権、アジア大会、UEFAヨーロッパサッカー選手権、FIFAワールドカップなど、数々の世界的なスポーツイベントでフォトグラファーとしての腕を振るってきた人物だ。

マイナビニュース編集部:ゲームの世界を撮影するというのは、実際のところ、どうやるんでしょうか? カメラを持って画面の中に入るわけにはいかないと思うのですが……。

ローズさん:リアルな運転を楽しめるゲーム、シムレースの作品やゲーム全体のテクノロジーの進化により、プラットフォームに内蔵されているフォトモードを使用し、現実と同じテクニックと哲学でゲーム内で写真を撮影することができるようになりました。いくつかのタイトル作品では、多かれ少なかれ、これがまさに可能になっているのです。『グランツーリスモ』は業界をリードする先例であり、それは本当にすさまじいことです。

編集部:なるほど。その場合、実際にF1などを撮影してきたローズさんの、どんなスキルや経験が活用できるのでしょうか。

ローズさん:現実の世界における写真撮影のための、サーキットや時間帯(例えば太陽の位置と写真の関係に関する知見)などの経験は、バーチャル世界でライブレースを創造的に撮影するときに、大きな財産になると思います。私たちは現実世界において、何年にもわたり、どんな状況においてもベストショットや撮影角度を学んできました。だからこそ、ゲームの世界においても、その技術と経験を活用することにより、多くの時間を費やさなくても対応できるのです。必要な写真を撮影するため、どのようなレンズの長さで撮影すべきか理解しておくことは、現実に似た見え方を表現するのに非常に重要です。

編集部:現実世界では考えられないような、ゲームの世界ならではの写真表現も可能ですか? どんなシーンを捉えてみたいと考えているのでしょうか。

ローズさん:現実世界の実際の場所やサーキットを知り、理解している一方で、現実世界のルールに縛られない新しいアングルでの撮影も重要です。これは、バーチャルモータースポーツ写真の重要な鍵です。結局のところ、障壁や遵守すべき安全規則がないので、外に出て探検をすることができます。私はバーチャルの世界で、現実での撮影においてずっと撮りたいと思っていたけれど、撮れなかった写真を何枚か撮影したことがあります。本当にこれはありがたいですね。なので、好きなときに好きなところに行けるのは、写真撮影の観点から考えても最高ですね。

編集部:写真撮影がテクノロジーと融合することで、より良い表現が誕生すると考えることもできると思います。バーチャルな世界、それを舞台に写真撮影をできるようになったということは、フォトグラファーと写真にどんな変化をもたらすでしょうか。

ローズさん:写真は全体として、非常に主観的なものであることを忘れてはいけません。一方のものが他方よりも優れているのでしょうか? それは、写真を制作したり、見たりする人次第なのです。バーチャル写真は表現の自由度が高く、テクノロジーの使用と相まって、ゲーム内のカメラモードやフォトショップなどのソフトウェアを使用することで、さまざまな「見た目」を実現することができます。

現実での写真撮影は、できること、できないことが多くの点で制限されています。バーチャルフォトグラフィーは、完全に創造的なメディアであり、多くの人にとって非常に利用しやすいものであると考えるべきです。今後、バーチャルフォトグラフィーがどこへ向かっていくのか、そしてそれが作り出すイメージを見るのが楽しみです。

プロのカメラマンが撮るグランツーリスモはどのような新世界を見せてくれるのか。楽しみにしたい。(藤田真吾)