2020年07月06日 10:02 弁護士ドットコム
親が私(子ども)名義で借金していましたーー。そんな悲痛な相談が多数、弁護士ドットコムに寄せられています。
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ある人は、親が勝手に自分の名義で消費者金融からお金を借りていること、返済が滞っていることを知ったといいます。当たり前のことですが「自分が作った借金ではないので、返済はしたくないです」と考えています。
とはいえ気になるのは、このまま返済しなかった時のことです。「正直に話したら、親は犯罪者として逮捕されてしまいますか?」と質問を寄せています。許しがたい親の行為とはいえ、親は親。憎めないのかもしれません。
親が勝手に子ども名義で借金を作ってしまった場合、子はどう対応すればよいのでしょうか。浮田美穂弁護士に聞きました。
親が勝手に借金を作ってしまった場合でも、子は返済義務を負うのでしょうか。
「親が勝手に、成人している子ども名義で借金をした場合、子どもは返済義務を負いません。ただし、証明する際に、難しい問題があります。
民事訴訟法228条4項に『私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する』と定められています。
借用証あるいは契約書に子ども自身の署名があったり、子どもの印鑑を用いて押印されていた場合、その借用証あるいは契約書は子どもの意思に基づいて作成されたものと推定されてしまい、契約が有効だと認められてしまうのです」
反論のため、子どもにできることはありませんか。
「署名については、筆跡を調べて、誰が署名したのかを明らかにします。押印については、印影から誰の印鑑によるものかを調べます。
親でしたら、勝手に子どもの印鑑を無断借用して押印している場合もありそうです。この場合は、子どもは親が印鑑を無断借用したことを証明しなければなりません。
具体的に言えば、親の証言や印鑑の保管場所、借入金が誰の口座に入金され、誰が引き出し、どのように使用されたか。また、誰がどのように返済していたかなどを明らかにして、証明していく必要があります」
中には、未成年の子ども名義で借金をする親もいるようです。
「親が勝手に、未成年の子ども名義で借金をした場合、民法824条本文により『親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表』し、子どもの名前で署名することも原則として『署名代理』ということで有効とされます」
子どもは親を選ぶことができません。なんとか、子どもが逃げる方法はないのでしょうか。
「借り入れの効力は子どもには及ばないとされる場合もあります。これは、子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情がある場合です。
その場合には、親権を濫用しているといえ、そのことを貸主が知っているかまたは知ることができたときは、民法93条但書の規定を類推適用して、借り入れの効力は子どもには及ばないとされています(最高裁平成4年12月10日判決)
なお、民法826条により『親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない』とされています。
これに該当すれば、子どもに契約の効力は及びません。ただ、利益相反かどうかの判断は、親権者が子を代理して行った行為自体を外形的、客観的に考察して判定すべきだとされます。
つまり、当該代理行為をなす親権者の動機、意図をもって判定すべきでないとされているため、親が、親自身のために借り入れをした場合であっても、利益相反にはあたらないとされるでしょう」
こうした親に対して、法的な責任を問うことはできませんか。
「親が勝手に、成人している子ども名義で借金をした場合、親は貸主に損害賠償責任を問われます。また、勝手に未成年の子ども名義で借金をして、子どもに借り入れの効力が及ばなかった場合は、親は貸主に損害賠償責任あるいは履行責任を問われます。
貸主を騙して借り入れをしているので詐欺罪(刑法246条1項)に、また、成人している子ども名義で借金をした場合には私文書偽造・行使等(刑法159条1項、161条1項)に該当する可能性があります」
そもそも、そんな毒親を「親権者」から外すことはできないのでしょうか
「民法835条に『父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる』とあり、両親の管理権を喪失させることができます」
ーー毒親をもつ子どもが被害を防ぐため、何かできることはありませんか。
「借り入れをする際には免許証や学生証や印鑑が必要なことがありますから、それらの管理は自分ですることが大事だと思います。子ども名義で借りられてしまってから対処するのは大変です。
また、親が子ども名義で借金をする場合というのは、親自身が借金にまみれ、自分では借り入れできなくなるなど、よほど追い込まれているのではないでしょうか。そのような状況を察知できるのでしたら、親自身に借金の整理をして生活再建をしてもらうようアドバイスされるとよいと思います」
【取材協力弁護士】
浮田 美穂(うきた・みほ)弁護士
2002年、弁護士登録。2010年度金沢弁護士会副会長。著書に 「ママ弁護士の子どもを守る相談室」(2013年、一万年堂出版)。
事務所名:弁護士法人兼六法律事務所
事務所URL:http://kenroku.net/