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森口将之のカーデザイン解体新書 第33回 最新のスーパーハイト軽自動車5台をデザインで斬る!

2020年07月02日 11:32  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
日産自動車と三菱自動車工業の共同開発・生産による「ルークス」および「eKスペース」が登場し、軽自動車スーパーハイトワゴン5車種の新世代への切り替えがひとまず完了した。競争が激しい人気のカテゴリーで、各社はいかにして個性を打ち出しているのか。デザインを見ていこう。

○売れ筋カテゴリーに参入した2台

現在、軽自動車で最も人気のあるカテゴリーが「スーパーハイトワゴン」、つまり、背の高い箱型のワゴンタイプであることは知っている人もいるだろう。全国軽自動車協会連合会が発表した2020年1~5月の車種別累計販売台数を見ると、1位はホンダ「N-BOX」、2位はダイハツ工業「タント」、3位はスズキ「スペーシア」で、表彰台を独占しているような状況なのである。

2020年3月に発売された日産自動車「デイズ ルークス」改め「ルークス」と、モデルチェンジを実施した三菱自動車「eKスペース」も、このカテゴリーに属する。

ちなみにこのカテゴリー、今年を含めて毎年のように新型が登場している。N-BOXとスペーシアが2017年に2代目に切り替わると、2019年にはタントが4代目にモデルチェンジしたからだ。つまり、ルークスと新型eKスペースが発売されたことで、このカテゴリーの新型が出そろったことになる。

軽自動車は外寸や排気量に上限があるのでデザインの自由度が少ない。特にスーパーハイトワゴンは、限られた外寸で可能な限り広いキャビンを獲得しようとした車種であり、ノーズに660cc直列3気筒エンジンを積んで前輪あるいは4輪を駆動するというメカニズムも共通しているので、差を出しにくい。

それでも、現在新車で買える5車種を見ると、厳しい制限の中でも各社が頑張って個性を出そうとしていることが伝わってくる。

○トップ3のデザインは三者三様

エクステリアが最も個性的なのはスペーシアだろう。ヘッドランプやグリル、ドア開口部など、基本はスクエアながら角を丸めたフォルムはスーツケースをモチーフにしたそうだ。ボディサイドにはスーツケースを思わせるビードを入れて、ポップな雰囲気を演出している。

2018年に追加となった「スペーシア ギア」はさらに独特だ。「ハスラー」や「ジムニー」を思わせる丸型ヘッドランプを据えた専用グリルを与え、バンパーやボディサイドのプロテクター、ドアミラー、ホイールなどをブラック仕上げとするなど、かなり手の込んだカスタムを施している。

多くの軽自動車は標準型と「カスタム」という派生型の2本立てで車種を構成している。スーパーハイトワゴンではN-BOXとタント、スペーシアがそうだ。つまり、スペーシアは他に先駆けて第3の矢を放ったことになる。

王者N-BOXはスペーシアに比べると、機能重視という印象が強い。フロントマスクからリアエンドに至るまでスクエアで、ウエストラインも高い位置にあり、安定感がある。老若男女、誰からも好まれる雰囲気もベストセラーの理由のひとつだろう。

タントはサイドウインドー後端が丸みをおびているのがアイデンティティーで、窓も大きくフレンドリーなイメージ。現行型では標準ボディのヘッドランプを上下に薄くし、モダンなイメージを持たせていることも特徴だ。

○精悍な「ルークス」、主張のある「eKクロス スペース」

そんなライバルたちと比べると、ルークスはかなり精悍だ。彫りの深いサイドのキャラクターラインと後端でキックアップしたサイドウインドーが効いているし、日産独自のVモーショングリルも似合っている。特に、大きなグリルにヘッドランプにつながる太いVラインを入れたハイウェイスターの顔はダイナミックだ。

三菱自動車のeKスペースは、旧型が多くのライバルと同じように標準型とカスタムの2本立てだったのに対し、新型はベースとなっている「eKワゴン/eKクロス」と同じように、クロスオーバータイプ(ekクロス スペース)を派生型として設定してきた。このクラスではスペーシア ギアに続くクロスオーバーになるが、主張の強さでは負けていない。

なによりも、「アウトランダー」や「デリカ D:5」などに続いて導入した「ダイナミックシールド」と呼ばれるフロントマスクが目立っているが、ルークスと基本的には共通のボディに違和感なく溶け込んでいる。上の細長いランプをサイドに回り込ませ、下の縦長のランプの高さを抑えたことが、まとまりの良さにつながっている。

ルークスとeKクロス スペースは、ボディカラーにも注目だ。軽自動車が2トーンカラーを採用するのは珍しくないが、ルーフの色は白あるいは黒が基本となる。ところがルークスには5色、eKスペースには4色もバリエーションがあるのだ。

ただし、パッケージングで見るとN-BOXとタントが目立つのも事実だ。N-BOXは、多くの車種が後席下に置く燃料タンクを前席下に収めた結果、後席座面跳ね上げという独自のアレンジをものにしているし、タントは助手席側のセンターピラーをドア内蔵としたおかげで、広大な開口部を実現しているからだ。

軽スーパーハイトワゴンのユーザーの多くは、本来の荷室はほとんど使わない。後席をスライドさせるとわずかな空間しか残らないうえに、リアゲートが天地に長いので開け閉めしにくいからだろう。むしろ、荷室として活用しているのは後席フロアだ。その点でいくと、床が広くできるN-BOX、開口部が広いタントは有利である。

○これが軽? 上質なインテリアに驚き

インパネは初代以来のセンターメーターを踏襲するタント、運転席正面でありながら遠くにメーターを置いて視線移動を少なくしたN-BOXに対し、残りの3車種は運転席前にアナログの2眼式メーターを据えた一般的なレイアウトを取る。

もっとも、スポーツカーやクロスカントリー4WDなど、操縦の楽しさを大切にする車種はドライバーの目の前にメーターを置くことが多いわけであり、スポーティーなルークス ハイウェイスター、クロスオーバーのeKクロス スペースには、この配置は似合っていると思った。

シートを含めたインテリアコーディネートについては、標準型はベージュやアイボリー系、カスタム系はブラック基調というお決まりの仕立てで、横並びという言葉が思い浮かぶ。ゆえに、スペーシア ギアとルークス ハイウェイスター、eKクロス スペースの仕立てが目立つ。

しかし、3台の方向性は対照的で、メーターやエアコンルーバーに配したオレンジのアクセント、ツールボックスをイメージしたインパネアッパーボックスなどでアウトドアツールを意識したスペーシア ギアに対し、日産と三菱はラグジュアリーという言葉さえ連想させる上質な仕立てをオプションで用意している。

ルークス ハイウェイスターのインテリアは標準がブラック基調だが、オプションの「プレミアムグラデーションインテリア」を選ぶと、インパネとドアトリムの一部がベージュ、ステアリングとシート座面がブラウンになり、背もたれはブラウンからベージュへのグラデーションになる。

eKクロス スペースにオプションで設定されている「プレミアムインテリアパッケージ」はこれとは違い、ブラウンの合成皮革をインパネ、ドアトリム、シートの一部に取り入れ、同じブラウンのファブリックと組み合わせている。

前に書いたように、軽スーパーハイトワゴンの開発では、限られた外寸の中に広く快適なインテリアを実現し、満足のいく走りを与えるという厳しい条件をクリアせねばならない。しかし、5車種を見比べてみると、各車とも明確な個性を打ち出していることに感心する。

その中で、精悍なエクステリアやエレガントなインテリアを備える日産と三菱の2台は、欧州プレミアムブランドのSUVを思わせるコーディネートであり、既存の3車種とは異なるテイストを提案していることが分かった。

○著者情報:森口将之(モリグチ・マサユキ)
1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。(森口将之)