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ドロヘドロ、ゾンビランドサガ…アニメスタジオ・MAPPA、ヒット作の裏にある“手のかかること”をやる精神【インタビュー】

2020年07月01日 19:03  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

野田楓子氏、大塚学氏
アニメサイト連合企画
「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.22 MAPPA

世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、Facebook2,000万人登録「Tokyo Otaku Mode」、中国語圏大手の「Bahamut」など、世界中のアニメニュースサイトが連携した大型企画になります。


MAPPA代表作:『この世界の片隅に』、『坂道のアポロン』、『残響のテロル』、『ユーリ!!! on ICE』、『神撃のバハムート GENESIS』、『ゾンビランドサガ』、『どろろ』、『BANANA FISH』 、『ドロヘドロ』、『LISTENERS』 などがある。

2011年に、マッドハウスを退職した丸山正雄氏が、70歳のときに設立したMAPPA。
設立翌年に、『坂道のアポロン』や『てーきゅう』など、立て続けにTVシリーズを手がけ、独自性とクオリティの高さで注目を集めたスタジオだ。

2016年4月には、設立メンバーの大塚学氏が2代目社長に就任。同年、クラウドファンディングで制作資金を調達した、片渕須直監督の長編アニメーション映画『この世界の片隅に』を公開。日本国内では最長となる1133日連続ロングラン上映となり、累計動員数210万、興行収入27億円を突破する大ヒット作となった。
その後も片渕須直監督、渡辺信一郎監督、山本沙代監督など、こだわりが強い監督とタッグを組み、次々と良質の作品を生み出していくMAPPA。

その未来予想図を、現社長の大塚学氏と制作部の部長を務める野田楓子氏に語ってもらった。
[取材・文=中村美奈子、撮影=小原聡太]













■「世の中にすごいものを出したい」と志を抱く者が集まってできたスタジオ


――スタジオ設立のきっかけはなんでしたか?

大塚:もともとMAPPA(Maruyama Animation Produce Project Association)は、丸山がマッドハウスを退職し、片渕須直監督と『この世界の片隅に』をなんとか世に出すために設立した会社です。
そこに当時丸山と親しくしていた、渡辺信一郎監督も合流し、TVシリーズも制作することになりました。

当時MAPPAに集まったスタッフは、丸山、片渕さん、渡辺さんと一緒に仕事がしたいという人たちばかりでした。僕自身もふくめて。



――設立当初のスタジオの様子はどうでしたか?

大塚:海賊みたいな荒くれ者の集団といいますか(笑)。僕はその前に、STUDIO4°C田中栄子さんの下でやっていたので、カルチャーショックの連続でした。

「とにかく良い作品を作れば、あとはなんだっていいんだ」という古き良き物作りの体質で、細かいことは気にしない。
片渕さんなり渡辺さんたちと一緒に、「世の中にスゴいアニメを出したい」という意欲がある者、そのためにわざわざ会社を辞めてきた人間ばかりだったので、時代に逆走したようなスタートだったと思います。

――マッドハウスの流れを汲む、作画クオリティの高さがMAPPAの特徴でもあると思いますが、創業者である丸山さんから受け継いだものはなんですか?

大塚:「面倒くさいことを言う人の、面倒くさい希望をあえて叶える」という精神ですね。
ハードルは高いかもしれませんが、手の掛かることをやったうえで新しいものが出せたり、自分たちが驚くようなものに辿り着けたりする。

そういう期待に賭けてしまうところは、丸山からも、STUDIO4°Cの田中さんからも受け継いでいます。あのふたりは、その辺が共通していて。僕が目指しているところも、そこにあるのかなと思っています。


――スタジオ設立の目的でもあった片渕監督の『この世界の片隅に』では、監督の要望にどう応えましたか?

大塚:先ほど言った「手の掛かる」の意味は、簡単にいうと「難しいこと、普通ではできないこと」です。片渕監督作品は芝居が細かくて、動画枚数も多くなります。

なぜそうするのか、理由を口で説明してもらって理解はしているんですが、作業工程の中で1カットごとに、監督の意図を理解してついていっているか、要望を全部叶えられているかというと、まだそこに至っていない。片渕さんの脳ミソは、僕たちスタッフよりも随分先に行っているんです。

片渕さんが人生を賭けて辿り着いた境地ですから、僕たち後進が簡単に辿りつけるものではありませんが、とにかく食らいついていこうと必死でした。

2019年9月には、片渕さんと次回作に向けたスタジオとして、株式会社コントレールを設立しましたが、そのあたりをより明確に改善していくことを目的としています。

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■「面白い」が一番の原動力
――片渕監督の『マイマイ新子』や『この世界の片隅に』の資料を見ると、取材資料にイメージボード、落書きを含めて、膨大な絵の積み重ねがあります。その膨大な絵を映像に凝縮する制作作業において、監督の要望を叶えるために心がけていることはなんですか?

野田:スタッフに徹底してもらっているのは、「話をきこう」「コミュニケーションをとろう」という姿勢です。
私もいろいろな監督の下でやってきたので、要望を叶えるためにはどうしたらいいんだろうと、迷ったり難しいなと思ったりしたことがたくさんあります。


制作の観点から、実現不可能だからと考えることをやめてしまうと、クリエイターと対話ができなくなってしまいます。
「できること」しかやらないという姿勢は、単純に作り手としてもおもしろくないですし、視聴者に刺さる映像にならないのでは、と思うんですね。

だから言っていることがわからない、どんな手法を使ったら実現できるのかわからないのなら、それを「わかる」ようにみんなで考えようと、声がけをしています。

――大人数で共通意識を持つ難しさがあると思いますが、スタッフ間の交流で普段心がけていることはありますか?

野田:仕事としてわからないことを、わからないままにしておかない。ひとりずつちゃんとコミュニケーションをとるようにしています。

監督によって大事にしているものは違うし、スタジオとして守るべきものも違います。監督の要望に応えるだけでなく、制作的な視点も踏まえ、きちんと仕事として昇華していこうと、できる限り伝えるようにしています。

でもやっぱり、若手スタッフたちにどういう風に伝えたら響くのか、正解がない難しさも感じていて。


難しさや厳しさも含め、なによりもこの仕事が「面白い」とどうやったら思ってくれるだろうかと日々模索し、悩みながらやっていますね。

挨拶もコミュニケーションも、会社のルールとしてやりなさいというのではなく、個人の資質や状況に合わせて、その人に響くベストの選択をしたいなと常々思っています。

――スタジオとして、制作する作品を選ぶ基準はありますか?

大塚:プロデューサーや監督が、「面白い」とか「やってみたい」と心の底から思える作品です。
それに加えてMAPPAとして取り組むお題というか、役割みたいなものもそれぞれの作品にあります。設立初期の作品は、社員を中心としてスタッフの経験や会社の実績を積むことを目的としたものが多かったです。
最近の作品では、2020年に放送した『ドロヘドロ』でのCGですね。MAPPAで初めてCGを多用して、世の中にどう評価されるのか。有名原作で勝負させていただきました。



なので、どうしても目的意識が見いだせない作品は、お断りさせていただくこともあります。何かしらスタジオとして「今回はこれにチャレンジしよう!」という視点は大事にしています。

――作品ごとに、スタジオとしてミッションをもって取り組んでいるんですね。作品を選ぶときには、主にどなたと話をしますか?

大塚:野田はもちろんのこと、迷ったときはその作品の視聴者に近い人の意見を聞きます。
女性向けの作品、女性に人気になりそうな作品などは、僕だけの判断では決められないので、20代の女性社員やスタッフの話を聞くなど、リサーチしたうえで、最終的に決めています。



――設立から現在までを振り返ってみて、ターニングポイントになった作品はなんでしょうか?

大塚:それこそ初めてTVシリーズを制作した『坂道のアポロン』などいくつもありますが、次に繋がった作品として挙げられるのが、『神撃のバハムート GENESIS』(2014年)です。



会社経営を軌道に乗せなければいけない一番苦しい時期に、Cygamesさんと「信頼関係」を早い段階で結ぶことができたのは、かなり大きかったです。
その信頼が、後の『ソンビランドサガ』や『ユーリ!!! on ICE』にも繋がっていったので。

――設立理由でもある『この世界の片隅に』は、『神撃のバハムート GENESIS』よりも後の2016年にようやく公開されましたね。

大塚:設立当初から作っていましたが、資金集めに苦労していましたし、世の中にどう出すかも決まっていなくて、クラウドファウンディングに辿り着くまでは苦しい時間を過ごしていました。
途中でジェンコの真木太郎さんに協力していただいて。僕が社長を引き継いだ年に映画が公開されましたが、基本的には丸山が『この世界の片隅に』をずっと作り続けていました。
それで国内外で賞をとり、興行的にも成功を収めたのは、純粋に尊敬しますし、片渕監督を含め、先輩たちが結果を残してくれたというのは、スタジオにとっても僕自身にとっても特別な経験となりました。

――2016年には、こちらもまた世界的に注目を集めた『ユーリ!!! on ICE』も放送されています。この作品は、スタジオとしてどんな目的を持って取り組みましたか?



大塚:当時ほかにもいくつか企画がありましたが、フィギュアスケートを題材にした作品の大変さは重々承知していました。
その段階でスタジオとしてはヒット作がなかったので、どの作品であれば勝負できるのかと考え、『ユーリ!!! on ICE』を選びました。

野田:まさに「大変だけど面白そう」という理由でした。企画書の段階から熱量がすごかったですし、単純にアニメでフィギュアスケートという題材自体の挑戦がなかったんです。
難しいが逃げずに描こうとした事で、結果放送中に多くの視聴者から反応が返ってきたので、ちゃんと作品を観てくださっているお客さんがいて、喜んでくれていることが作り手にもかなり大きな力を与えてくれるんだなと感じました。

大塚:翌年の2017年は「生産力を上げよう」という目標で、『アイドル事変』、『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』、『賭ケグルイ』、『将国のアルタイル』、『いぬやしき』、『牙狼〈GARO〉-VANISHING LINE-』と年間通して6本のアニメーション作品を制作しました。

そうした成果も踏まえつつ、2020年の『ドロヘドロ』は「3DCGを中心とした作品つくり」 という大きな挑戦をしました。

――あらためて『ドロヘドロ』はどのような経緯でアニメ化に至ったのでしょう?

大塚:実は僕自身が原作のファンで、10年ほど前にアニメ企画を立てたこともあるんです。でも当時は企画を通す力がなくて。時を経てから制作のお話しをいただいて、「今ならできる」と思って挑戦しました。

――作画ではなくCGをメインにした理由はなんですか?

大塚:どこかのタイミングで、3DCGメインの作品を作りたかったんです。アニメ制作会社の特性を活かして3Dを使うと、どう画を見せられるのかに挑戦したくて。

野田:制作サイドとしても、原作の良さを出すためにCGを使うのがベストだという判断でした。スタジオとして作画とCGに垣根を設けているわけではなく、目指す映像表現を達成するために、ベストな手法を選んでいます。



――新しい挑戦での苦労は?

野田:単純にどういうチームで作っていくのか、表現はどこまでこだわるべきなのかという苦労がありました。
スケジュールや予算があってこその表現ではありますが、そういった理由でクオリティを下げることはしたくない。だったらどんな方法をとれば実現できるかというのを、頭からトライし続けた作品です。

本当は、全編フルCGでいきたいところなんですが、原作の魅力が、服装や世界観の変化にあるため、そこを大切にしたい。そこで、限られた話数にしか出てこない特別な服装は手描きにしました。

現場に入る制作スタッフも、CGという手法をあそこまで使った経験がなかったので、現場の回し方やフローチャートの作り方も、トライアンドエラーの連続でした。
100%内製でやるのは物量的にも無理があったので、外部の力を貸して頂きましたが、「作品がすごく好き」という方がたくさんいらっしゃって、すごく助けていただきましたね。

――最終的には、やはり100%内製を目指していくのでしょうか?

野田:現状、まだまだ時間は必要ですが、これからも常に挑み続けたい目標でもあります。

クオリティも常に上を目指していますが、『ドロヘドロ』の挑戦で、どうしたらもっと良い動きや表情が作れるのかを、常々研究しながらやるというモチベーションが出来たので、すごく大きな成長に繋がったと思っています。

次はどこまでいけるようになるのかが、本当に楽しみです。


→次のページ:後進を育てるための待遇の用意とモチベーションの維持

■後進を育てるための待遇の用意とモチベーションの維持
――アニメーターさんの待遇など、会社として力を入れていることはなんですか?

大塚: 新卒から社員として雇うことです。
アニメーターさんの頑張りがないと作品は成立しないんですが、まだまだ人材不足です。より多く雇用して教育を充実させて人を増やしていくことは、大きな課題として取り組んでいます。

――スタジオが求める人材は?

野田:制作部では、いろんな個性があるといいなと思っています。それこそ目的、演出になりたいとかプロデューサーになりたいとかも、それぞれ別でいい。
その代わり、ちゃんと目の前の仕事に対して、目的を持って取り組んでくれる人ですね。

特別大きな目標じゃなくてもいいんです。新人さんだったら、「今はこれができないけれども、次はできるようになりたい」とか。
やはり、目標がある人とない人では、成長の度合いもモチベーションの持ち方もまったく違うんですね。目的意識が高い人に対しては、指導する側も仲間として目的をもっている人をどう育てていけるのか、何を与えるとその目的を速く達成できるのかを伝えやすくなりますし、単純に一緒に仕事をしていて楽しいと感じています。

――ひとりひとりが目的意識を持って仕事に取り組み、スタジオとしてひとつの作品を作りあげたいというのが、MAPPAの目指すところなんですね。これまでに、うまくいった現場はありましたか?

野田:まだまだです。ですから、私自身も反省点を持って、次はここまでできるようになりたいという意識を持ち続けながらやっています。

――クオリティを維持しつつ作品数を増やすには、それを回す体制づくりも必要かと思います。何か意識されていることは?

大塚:業界で制作本数を減らそうという意見もありますが、それは目の前の課題から目を背けているだけだと思います。作品数が多いという事は需要があるということで、その需要に対して高品質な作品をいかに供給するか。現状では弊社もまだまだですが、常にそこは意識したいと思っております。
ですからMAPPAでは、生産力を高めていくことでアニメ業界にある今の問題すべてに目を向けていきたいと考えています。


野田:問題から目を逸らしても、意味がない。作るものは作るし、クオリティを下げて作るなんてことはしたくないし、やはり面白くないですから。

――そこまで会社全体で情熱を持って取り組める原動力はなんですか?

野田:私自身、12年ほど業界でアニメを作っているんですが、常に目標が変わり続け、次へ繋がっていくのがすごく面白いんです。
設立からまだ10年ほどの若い会社なので、経験すべきことや吸収すべきことが山ほどあるというのが面白い。

それこそ制作部の部長になって、クリエイティブな面だけでなく、人材育成や経営について考えたり、大塚の知見を吸収することで、自分が昔やってきたものとは違うものが見えてきたり、足りない部分がわかったりする。それが、アニメの仕事を続けられるモチベーションになっています。

大塚:ずっと、アニメーション制作において強い組織ってなんだろうと模索し続けているんですが、いろんな性格やこだわりがあるって人がうちの会社にもたくさんいて、その個性を排除して一つの考えにそろえてもダメなんだろうなって。
組織の中には、お互いを刺激し合う緊張感が必要で、それを維持するためには、いろんな人間がいろんな目標と考えを持って、ひとつの作品を作ることができる「環境」が肝であると、最近改めて気づいた感じですね。



――先ほど、視聴者の反応が現場の力になるという話が出ましたが、ファンからの応援を感じるシーンはどんなところですか?

野田:やはり直接お客さんの顔が見えるイベントですね。コスプレをして参加してくださっている方を見ると「そのキャラをそんなに愛しているんだ」という熱量をすごく感じます。特に海外だと、海を越えて愛してくださっていることを実感しました。


大塚:国内外でお客さんが来てくれて、質疑応答でいろんな意見を聞けるのが刺激になります。

――次なる目標は?

野田:労働環境の改善と映像表現の追求の両立です。
表現面だと、手描きとCGをどう融合させて新しい画づくりをしていくのか、日本のアニメーション業界ならではの手法を磨いていきたいです。

まだ誰も見ていない表現、気持ちよさや面白さ、話や音楽などいろいろなものを含め、新しいお客さんに刺さる作品を作りたいと思っています。

大塚:20代の監督がアニメーションで世の中に何を残すのかを見たいので、20代の若手演出家、監督が作品を作る機会を増やしたいです。失敗してもいい、その時にしか作れない作品をぜひとも世に残して欲しくて。
若さ故の勢いやエネルギーを大切にしていきたいですね。

現在、MAPPAの演出部にいる若者には、20代で監督することを視野に入れてやっていきなさいと伝えています。
実際に監督をやった子もいますし、できる限りチャンスを与えていきたい。誰でもなれるわけではないからこそ、志す土壌が大事なんです。
やっぱり競争の中で生まれた作品は、キラキラしていてすごくいいんです。

これからのMAPPAの演出部に期待してください。

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