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レクサス「GS」よ、さらば! 生産終了の理由と後継車を考える

2020年06月30日 11:22  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
レクサスはミドルサイズのグランドツーリングセダン「GS」の生産を2020年8月で終了する。これに伴って6月1日に発売した特別仕様車「Eternal Touring」も、すでに売り切れとなったしまったそうだ。

“ミドルクラスの大排気量FR4ドアセダン”と聞いただけで「あ、いいな、乗りたいな」と思ってしまう50代以上のクルマ好きにとって、GS引退の一報は非常に残念な知らせであったに違いない。今回はGSの広報車を惜別の試乗に連れ出し、生産終了の理由や後継モデル登場の可能性などについて考えてみた。

○「GS450h」に惜別の試乗

試乗したのは、ダークグレーボディ×ブラウンレザー内装の「GS450h」。ドライバーズシートに座っても、“運転手さん”と思われないギリギリ(?)のサイズのボディに乗り込み、最高出力295PS(217kW)/6,000rpm、最大トルク356Nm/4,500rpmの「2GR-FXE型3.5リッターV6エンジン」と200PS(147kW)、275Nmのモーターを組み合わせたハイブリッドシステムに火を入れる。

6月半ばに設定した試乗当日は、梅雨の真っ只中の強い雨が降り続く1日で、路面はあちらこちらに大きな水たまりができていた。しかし、ヘビーウェットの道路を走り抜けるGSは全くもって静か。バッテリーの充電ができていなかったのでモーターだけのEV走行は試せなかったものの、V6エンジンは振動もなく粛々と回っていて、分かっちゃいたけど高級車そのものだ。

前が開いたところでドライブモードを「スポーツ」や「スポーツ+」にセットし、ちょっと右足に力を入れてやれば、2トン近いボディがペダル通りに加減速できて誠に気持ちがいい。上を見たらキリがないけれども、900万円クラスのクルマでこれだけ走ってくれれば、ドライバーズカーとして何の問題もないといえるだろう。

一方、しばらく乗っていると、いろんなところが気になり出してくる。ちょっと座高が高いドライバーだと、ひさしが長いナビ画面の上側が陰になって車線の表示部分(矢印が出る)が確認できなかったり、音声でのナビ入力がなかなかスムーズにできなかったり。また、ACCを起動させるのは、今時のステアリングのボタンではなく、ステアリングコラム右下から生えているレバーだったりするのも、「ちょっと前のクルマだな」という印象を受ける。そうした部分は、このクルマが2012年に登場(2015年にマイナーチェンジ)したモデルであることを物語ってしまう。

○「GS」の歴史

GSは1993年、トヨタのハイパワーセダン「アリスト」のレクサス版として登場した。主に米国マーケットを意識したモデルで、搭載したのは3リッター直6エンジンだった。1997年にはアリストがフルモデルチェンジを実施。翌1998年にはGSも、4.3リッターV8エンジンなどを搭載する2代目にバトンタッチした。

2005年の3代目は、日本でレクサスブランドがスタートする際の、まさに第1弾の看板モデルとしてデビューしている。レクサスのハイブリッドモデルもこの世代からスタートしており、GS450hは2006年にカタログに登場した。現行の4代目モデルになったのは2012年。おなじみのスピンドルグリルを初採用したのがGSで、初期型は今のようにボディ下部まで大きな口が開いたワンモーションスタイルではなく、中央にバンパーラインがまだ残されたグリルだった。

4代目GS登場時の試乗では、「『いつかはクラウン』と思っていたオトーサンが走りに目覚めたとき、次に購入するのがGSになるのでは」との記事を書いた記憶がある。ドライバーが意のままにクルマを操る楽しさを追求できる1台として、豊田章男社長の肝煎りで走りを磨き込み、独ニュルブルクリンクなど世界各国の道で100万キロを超える走行テストを行ったのが、このモデルだった。

2015年にマイナーチェンジして現行の顔つきになったGS。最後に設定した特別仕様車「Eternal Touring」は、今回乗った450h、3.5リッターV6の「GS350」、2.5リッター直4HVの「GS300h」、2.0リッター直4ターボの「300F」をベースに、ブラック配色を施したグリルやアルミホイール、オレンジブレーキキャリパー(450hと350)、ブラックにレッドのアクセントを配したインテリアなど、Fスポーツで好評だったアイテムを装着したスポーティーなモデルになっている。

○「GS」生産終了の理由

こうしてレクサスの歴史を背負ってきたGSが、もうすぐ生産終了となる。理由はいくつかありそうだ。

まず注目したいのは、2018年にレクサスが発売した「カムリ」ベースの新型「ES」の存在だ。ESはGSとサイズがほぼ変わらないものの、FFモデルのため後席が広く、最新のデジタル装備など内容が充実している一方で、GSよりも価格が安い。走りについても「FFモデルよりもFRモデルの方が明らかに優れている」と断言できたのは過去の話で、レクサス広報の話よれば、「ドイツ人ジャーナリストでさえ、最新モデルではFFとFRの区別が乗ってみてもわからないと言っていた」そうだ。こうなると、売れるESに一本化するという話になるのは、当然の成り行きと言っていいだろう。

さらに、最近マイナーチェンジした「IS」は、ボディサイズを拡大するとともに、FRモデルとしての走りを一段と磨き上げたという。

SUV人気も、GSを引退に追い込んだ理由の1つとなっているようだ。レクサスでも、セダン系に比べSUVの販売台数は断然多い。ちなみに、2020年1月~5月の国内販売台数は、セダンの「LS」が約830台、「ES」が2,260台で、SUVの「RX」が7,510台、「NX」が4,290台。一方のGSは、わずか290台にとどまっている。

そして、言ってしまえば、直接のライバルだったドイツ御三家のメルセデス・ベンツ「Eクラス」やBMW「5シリーズ」、アウディ「A6」など、ミドルクラスFRサルーンの牙城が万全で、そこを切り崩すのは(残念ながら)並大抵ではなかったという事実もあるだろう。

GSの特別仕様車「Eternal Touring」は140台の注文があり、すでに販売が終了してしまっている。工場では受注分の最後の生産が続けられているはずだ。特別仕様車のカタログには、「Eternal Touring。私たちは信じている。走りを愉しむものがいる限り、GSが切り拓いた道にゴールはないことを。ともに走ろう。走り続けよう。まだ見ぬ歓びにむかって。」と書かれているが、レクサス広報によると、GSの直接の後継モデルはないそうだ。

ただ、前述のFR、FFの話ではないけれど、クルマの電動化が進めば、車内のスイッチ1つでFF、FR、AWDを切り替えて(トルク配分を調整して)走ることも可能になる。そういう意味では、FRの乗り味が楽しめるミドルクラスの“電動”サルーンが今後、レクサスから登場しないとも限らない。昨年の東京モーターショーにレクサス電動化戦略のコンセプトカーとして登場した「LF-30 エレクトリファイド」のように、最新技術を満載したクルマが市販化にこぎつけた暁には、ドイツ御三家のライバルとして、レクサスの存在感はぐっと高まるかもしれないのだ。

○著者情報:原アキラ(ハラ・アキラ)
1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。(原アキラ)