映画配給、映画館運営のアップリンクの元従業員は6月中旬、同社代表から日常的にパワーハラスメントを受けていたとして損害賠償を求めて提訴した。「暴力的な発言や待遇があった」「パワハラによって心身が傷ついた」などと報じられているが、何も映画業界に限らず、多くの企業で似たような実態があるのではないだろうか。
今回は、かつて筆者が中小企業で勤務していた時に受けていたパワハラを暴露してみたい。(文:ふじいりょう)
「コミック誌を今日中に300冊買ってこい」などと無理難題を押し付けられ
筆者は2008年にインテリアサイトの運営会社に正社員で入社した。その職場では、社長や古参社員の力が強かった。例え利益を上げたとしても、気に入らない点があれば執拗に失点を責められた。
また、折に触れて"整理人員"とされて解雇を匂わすような発言を社長や役員がすることもあった。解雇には客観的合理性や社会的相当性が必要とされるが、思い当たることはなく、脅し文句のつもりだったと今なら分かる。しかも、業務過多にも関わらず残業代も出なかった。結局、筆者は心身を壊して休職し、そのまま退職することになった。
その後、派遣社員としてイベント運営会社で働いた時には、正社員の一人に目を付けられた。残業や休日出勤させられたことがあったのはまだしも、イベントで使うための物品を揃えるために、まずは自分の財布から買う必要があり、そのために常に金欠に陥った。
当の正社員からすれば「後で領収書を出してもらえばいい」という感覚だったのかもしれないが、時として消費者金融で借りなければいけないというのは明らかに行き過ぎだっただろう。このほか、「コミック誌を今日中に300冊」など、調達が明らかに困難なものを何時間もかけて探し回り、見つけられずに叱責されることもあった。こうした待遇に耐えられずに3か月ほどで辞めることになったのは言うまでもない。
中小企業の相談窓口設置、改正法適用は2年後
今回挙げたケースは、厚生労働省が2012年にパワハラの例を示し、総合労働相談コーナーでの対応が進められる前の話だ。一般的に、筆者と同じ就職氷河期世代の離職率は高いが、給与が安いということはなく、パワハラで辞めざるをえなかったということも多いと思われる
また、就活の際に大手企業の内定が取れず、零細企業に入ってみたら社長のワンマンでパワハラ気質だったという場合も珍しくないだろう。結果的に短期間での転職を余儀なくされ、履歴書が"汚れ"てしまい、キャリアアップができずにまたブラック企業に入らざるを得ないという負のスパイラルに陥る。
19年5月に成立した改正労働施策総合推進法では、企業側に相談窓口設置などの防止策が義務付けられ、大企業では6月から適用が始まった。だが、中小企業の場合は22年4月まで待たなければならない。
冒頭のアップリンクのように、ワンマン体制の中小企業ほどパワハラが横行する傾向があり、それが常態化しているケースも多い。今後の2年弱の間に、中小企業での新たなパワハラ被害者が増えないとは言い切れないだろう。