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自宅、マイカーがあっても「生活保護」を受けられるの? よくある誤解をひもとく

2020年06月28日 09:21  弁護士ドットコム

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「生活保護は土地柄、車を手放せないので考えられない」「市役所に行ったが、持ち家があるので生活保護受給できず」「生活保護を受けたいが、自動車は手放せない」。


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これは6月6日に実施された「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守る なんでも電話相談会」に寄せられた相談の一部だ。新型コロナウイルスの影響で、仕事がなくなり収入がダウンし、明日の生活にも困っているという声があった。



セーフティネットとして機能するはずの生活保護。しかし、申請にまつわる誤解もあってか、必要な人たちが制度にたどり着けていない現状が浮かび上がっている。



持ち家の場合、売却を求められるのか。自動車の所有は、認められないのか。申請などを支援している太田伸二弁護士に実情を聞いた。



●絶対に生活保護を受けられないというわけではない

ーー生活保護受給を断られるというのは、よくあることなのでしょうか。



生活保護の相談に行った方が福祉事務所の職員から「自動車の保有は認められない」、「自宅があると生活保護は難しい」と言われることは、残念ながら珍しいことではありません。



私は宮城県で弁護士をしていますが、東北では生活に自動車が欠かせません。しかし、自動車の保有がネックになって、生活保護の申請・受給を躊躇する事案が数多くあると実感しています。また、新型コロナウイルスの影響で生活保護の申請に行った方から、自宅の保有を問題にされたという相談を何度か受けています。



しかし、自動車や自宅を保有していれば、絶対に生活保護を受けられないというわけではありません。



●受給できる場合は?

ーーどういった場合であれば、保有していても受給できるのですか。



まず、自動車についていえば、以下の4つの場合には、自動車の価値が高くないなどの条件も満たせば保有が認められます。



(1)障害のある方が通勤するために必要な場合
(2)公共交通機関を利用して通勤することが困難な場合(公共交通機関では通勤できない、深夜勤務など)
(3)障害のある方が通院、通所、通学するために必要な場合
(4)公共交通機関の利用が困難な地域に住む方が通院、通所、通学するために必要な場合



また、失業して生活保護を受けることになった方などで、おおむね6カ月以内に就労によって保護から自立することが確実に見込まれる場合には、自動車の処分指導を行わないとされています。



なお、処分指導が留保されているだけなので、この場合は就職活動などに限って利用が認められることになっています。



ーー自宅など不動産の場合はどうでしょうか。



自宅不動産については、「処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められる」場合を除いて保有が認められます。



「処分価値が利用価値に比して著しく大きい」かどうかについては、その地域で30代、20代の夫婦と4歳の子の3人世帯を基準として計算した生活扶助(=生活費に相当)と住宅扶助(=家賃に相当)の10年分の金額を目安として判断することになっています。



その金額は、2019年度の基準で計算すると最も低い鹿児島県で2047万円、最も高い東京都で3363万円です。ただ、あくまでも目安なのでこれを超えても保有が認められることもあります。 



なお、高齢者の方が自宅を保有している場合、「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」(いわゆるリバースモーゲージ)の借入れを行うよう求められることがあります。



これは自宅を担保に入れて月々の生活費の借入れを受けるものです。借入れ限度に達しても、そこから生活保護に切り替わり、自宅を出て行く必要はありません。亡くなった後に精算することになります。



●各地の生活保護支援ネットに相談を

ーー今申請を迷っている人は、どうしたら良いですか



生活保護の申請に行くことに迷いがある場合や、実際に行ったけれども断られた場合は、ぜひ各地にある生活保護の利用支援に取り組む法律家のネットワーク(http://seiho-kyushu.net/network.html)に相談してください。



また、私は最近、生活保護申請時に提出するための、自動車保有を認めるよう求める意見書のひな形を作って公開しました(https://note.com/otashin2/n/ne63824d7c800)。項目を埋めていけば意見書になるもので、多くの方が使えると思います。



新型コロナウイルスの影響で生活が困窮する方が増えるのではないかと懸念しています。生活保護は、そんな方の生活を支える重要な制度です。ぜひ有効に活用してもらいたいと思いますし、そのための取組みが求められると考えています。




【取材協力弁護士】
太田 伸二(おおた・しんじ)弁護士
2009年弁護士登録(仙台弁護士会所属)。ブラック企業対策仙台弁護団事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、日本労働弁護団全国常任幹事。Twitter:@shin2_ota
事務所名:新里・鈴木法律事務所