改正動物愛護法が6月1日から施行された。トピックスとして話題になりがちなのが、虐待に対しての罰則の強化だ。従来では懲役最大2年、罰金刑も200万円までとなっていたが、これが6月からは懲役は最大5年、罰金刑は500万円までとなった。
もう一点、この改正動物愛護法で注目すべきポイントを紹介したい。それが不適切飼養への行政の立ち入りの幅の拡充だ。
これまで、行政が動物の不適切飼養をしている世帯への立ち入りが許されていた事例は、多頭飼育崩壊に限られていた。多頭飼育崩壊というのは、飼い主はペットの繁殖をセーブできず大量に増やしてしまい、しかもその増えたペットの世話も行っていないという最悪の状況を指す。
改正動物愛護法では今後も多頭飼育崩壊に目は光らせつつも、さらに飼育下動物への虐待が疑われる場合や、周囲の環境に悪影響を及ぼしている世帯への立ち入りが可能となる。
で少し説明が長くなったが、国はこうしてペットの飼育環境を改善に向けて色々とアップデートしているのだ。ところが、当の飼い主が飼い方をアップデートせず、対策も放棄してしまうことが多々ある。(文:松本ミゾレ)
「お金もなく、保護団体に預けることができてもせいぜい1、2匹です…」
先日、掲示板ミクルという掲示板サイトに「飼えなくなった猫について」というスレッドが立てられた。正直、こういう話題は見るのも嫌だ。「飼えなくなった」ってどういうことだよって思ってしまうし。
概要はこうだ。スレ主の親戚の家で、現在猫が20頭ほど繁殖してしまった。しかしある事情で親戚の家は空き家になるので、猫の行く宛てがないのだという。
「家族友人や周りの人に、相談しても、引き取り手は見つからなかったようです。私もすでに猫を飼っているので、飼えません。保護団体に問い合わせたところ、1匹あたり5~10万円ほどかかるそうです。お金もなく預けることができてもせいぜい1、2匹です…」
そのうえで「このような状況の場合は、もう野生に返す以外には、手はないのでしょうか」と書き込んでいる。
……まず言いたいのは、飼い主の不手際で増えてしまった猫に帰る野生なんてないということである。猫、つまりイエネコはリビアヤマネコを始祖に、人間が改良した愛玩動物であって、そもそも野生動物ではない。
この方は猫を自分で飼っていながら、そのことを見落としている。挙句には「どうしようもないから外に逃がす」という趣旨の発言をしている。猫を飼っている人の言葉とは思えないというのが正直な感想だ。
というか、この親戚もどんどん増える猫をそのまま放置していて全く理解できない。猫は鼠算式に増える動物だし、繁殖期も年に2度ほどある。放置していれば瞬く間に増えるし、そうなれば飼育環境も劣悪になる。飼い主の手が及ばなくなるのに、1年と掛からない。
こうならないためには飼い猫の避妊・去勢手術しかない。「でもそれは可哀想だし」とか言ってる間に、こういう多頭飼育崩壊直前の状況になってしまうのだ。そういう悲惨な現場を、何例も知っている。
きっかけはいつも飼い主の油断と慢心 増えた猫の生きる権利は
僕は猫を飼っているし、それぞれに去勢手術を施している。猫が本来外来種である以上、万が一にも逸走させた際に、外で交配して野良猫を増やすわけにもいかないし、何より野良猫たちの生活が悲惨であることはよく理解している。
外では車が往来し、虐待しようとするおかしな人間もいるし、感染症リスクも高い。屋外は猫が安心して暮らせない環境なのである。加えて在来動物を捕食して生態系も破壊する悪者になってしまうこともある。
さらには現在、同じく外来種のアライグマと生息域が被ってしまい、喧嘩ののちに食われてしまうという事態も生じている。
猫にとって屋外は地獄に等しい。そんな環境に、スレ主は「野生に返す以外に手はないのでしょうか」と言いながら、今追いやろうとしている。親族の油断と不手際で増えた猫たちを、同じ猫を飼う人が追い立てるという光景は恐ろしい。
このスレッドには、一応猫たちを里親につなげるためのアイディアもあるにはある。だけど「ジモティーで里親探せば?」みたいな、ちょっとゴールの見えないものが目立って頭がクラクラしてしまう。
もちろん「猫をなんだと思ってるんですか? なんで避妊去勢しなかったの?」というような意見も目立つ。この場合、猫に避妊・去勢をしなかったのは親戚の方なので、スレ主がこれを責められるのもちょっと違うのかなって気もするけども、どのみち捨てようとしている時点で問題がある。
そもそもペットの遺棄は犯罪である。1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科せられることとなる。ではどうすれば20頭もの猫たちを助けられるのか。これについては「お金がない」とか言ってる場合ではないように思える。その親戚の財産を処分して、やはり保護団体に有償で保護してもらい、里親探しをスレ主も一緒にすべきだ。
お金も出さずに20頭の猫をどうにかしたいなんて、そんなバカな話はない。まして屋外遺棄なんて考えられない話である。この主張は、恐らく当人には届かないだろう。ただ、こうしたことは今現在、多頭飼育崩壊なんて他人事と考えている人に読んで、理解をしてもらいたい。
多頭飼育崩壊現場は悲惨だ。糞尿にまみれて餌を奪い合い、時には殺し合って共食いをしてでも生きようとする。あれはまさしく地獄である。
飼育環境を地獄にするか、極楽にするか。全ての猫の未来は、飼い主の手に委ねられている。簡単に「野生に返す」なんて言わないでほしい。