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猫には猫同士の強い絆があるーー『うちの猫がまた変なことしてる。』が猫好きの心を捉える理由

2020年06月27日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 自然と笑顔になれる温かさが、ここにはある。『うちの猫がまた変なことしてる。』(卵山玉子/KADOKAWA)の新刊が発刊されるたび、いつもそう思い、心が和む。卵山氏の漫画には猫好きの心をギュっと掴む力がある。そうした魅力は卵山氏が猫という動物を心から愛しているから溢れ出るものだ。


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 同作は37万部を突破している、大人気猫コミックエッセイ。卵山氏が描くのは、愛猫のトンちゃんとシノさんのコミカルな日常。ツンデレで天然なトンちゃんと、適度に礼儀正しく、適度に自己主張が強いシノさんは、どちらも個性的。2匹が繰り広げるユニークな日常は読者の心を鷲掴みにしている。


 最新刊でも、2匹の愛くるしさは健在。トンシノコンビの成長を振り返りつつ、予測不能な猫たちに振り回される日常に思わず顔がほころび、猫間にある強い絆に感心させられもする。


 猫の性格は人間の接し方によって、変わることも多い。警戒心が全身から溢れ出ていた野良猫でも、人間の温かさに触れるうちに見違えるほど穏やかな性格になることも少なくない。けれど、人間の配慮だけでは癒せない傷も中にはある。そんな傷を唯一癒せるのが、同居猫という存在なのかもしれないと、トンシノコンビを見て気づかされた。猫同士の間に生まれた絆が猫を救うこともあるのだ。


 今でこそ、人が目の前を通るたび、撫でられ待ちをするほど人懐っこいトンちゃんだが、実はおうちに来て間もない頃は環境の変化に混乱し、なかなか懐いてくれなかったそう。そんなトンちゃんを変えたのが、その後、迎えたシノさん。シノさんは人間は怖くないことを教え、トンちゃんの傍に寄り添った。


 こうした猫の友情を知ると、猫間にある信頼関係は私たち人間が思っている以上に強固なものなのかもしれないと思わされる。人ではなく、猫同士でしか癒せない傷は確かに存在し、言葉ではなく、ぬくもりや行動で和らぐ痛みがあるのだ。猫が他猫に見せる愛情表現は、言葉に頼って生きている私たちの心にズシンと響く。他者を受け入れ、愛することの尊さ。それをトンシノコンビは教えてくれている。


 シノさんは今でもトンちゃんのことが大好きで、好物のウェットフードがもらえる時でも、寝ているトンちゃんを毛づくろいで起こして報告したり、猫パンチで断られてもめげずに添い寝を決行することもあるよう。こうしたちょっぴり強引な愛情表現は、傷つくことを恐れず誰かを想い続けることの大切さを教えてくれてもいるようで、胸が熱くなった。


 なお、本作では前作に引き続き、里親募集中ボーイのたねおも登場。一時預かり中のたねおは現在、シノさんとは仲良く、トンちゃんとは上手に付き合える距離感を見つけたところ。シノさんに貰った愛情を、トンちゃんはこれからどんな形に変換し、たねおに向けていくようになるのかも見守っていきたくなる。


思い通りにならない日常が愛おしい
 ほっこり感満載の本作は、猫の絆を感じさせてくれるだけでなく、思い通りにならない愛猫との日々を、改めて愛おしく感じさせる作品でもあった。自分の意思をちゃんと通すのが、猫という動物の特性。だから、飼い主が良かれと思って行ったことが、あっけなく拒絶されてしまうことは日常の中でたくさんある。


 卵山氏もリモコンで走る猫用おもちゃを購入したところ、3匹の反応はイマイチで残念な思いをしたり、ダンボール箱で作った猫ハウスに自身のニットを入れたら一瞬で出され、悲しくなったりしたよう。けれど、そうした理不尽な扱いをされても許せてしまうかわいさが猫にはある。思い通りにならない日々さえも、猫飼いにとっては「幸せな毎日」なのだ。


 そんな猫好きの心境をしっかりと表現しているからこそ、卵山氏が描く愛猫ライフは多くの人から支持され、新たな猫好きを増やすのかもしれない。猫好きによる、猫好きのための珠玉の一冊。猫愛が漏れ出す本作には、そんなキャッチコピーが良く似合う。


(文=古川諭香)