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日本で「大麻使用」増加か、専門家からは「医療用」解禁求める声も…規制はどうなってる?

2020年06月27日 09:01  弁護士ドットコム

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大麻を所持した疑い(大麻取締法違反)で高校生、大学生などの若者や警察官などが逮捕されたという報道が相次いでいる。中でも、大阪府警の現職警察官4人が大麻を使用し、そのうちの1人である巡査が自宅に微量の大麻を隠し持っていたとして大麻取締法違反の疑いで逮捕・起訴された事件は大きな衝撃を与えた。


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ネットでは「警察でも(大麻が)広がっているならば、芸能界はもっとありそう」「大麻人口増えているのでは」などの反応もみられた。



「令和元年版犯罪白書」によると、大麻取締法違反の検挙人員は2014年から5年連続で増加(2018年の検挙人員は3762人)。



また、国立精神・神経医療研究センターが2019年におこなった「薬物使用に関する全国住民調査」によれば、大麻の生涯経験者数(過去に1度でも大麻を経験したことがある15~64歳)は推計値で160万6638人(2017年は133万1765人)であり、2015年以降増え続けていることが分かった。



同調査の報告書によると、大麻使用者が増加傾向にある要因としては、(1)大麻の入手機会の変化(入手機会の増加)、(2)大麻使用に対する意識の変化、(3)危険ドラッグからの転向の可能性が考えられるという。



●大麻取締法に「使用」罪はない?

なお、大麻をめぐっては、法律が規制するのは「所持」のみで、一般に「使用すること自体」は処罰されないことをご存じだろうか。



大麻取締法には、大麻の「使用」罪は規定されていない。ただし、「大麻取扱者」(大麻栽培者および大麻研究者のこと)ではない一般人が大麻を「研究のため使用」すること、「大麻取扱者」が「所持の目的以外の目的に大麻を使用」することは禁止されており、違反すれば処罰される(同法3条第1項・2項、24条の3第1項)。



ただ、「使用」罪がないからといって、大麻を使用した場合に罪に問われないとは限らない。大麻を使用(吸食:タバコのように喫煙すること)した場合には、通常は所持を伴うことから、所持罪で処罰されることになる。つまり、大麻を使用すること自体は処罰されないが、その前後の行為が「犯罪」(所持、譲受など)にあたるとして、処罰される可能性がある。



大麻取締法は、大麻の所持について、つぎのように規定している。




第3条
1.大麻取扱者でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。
2.この法律の規定により大麻を所持することができる者は、大麻をその所持する目的以外の目的に使用してはならない。



第24条の2
1.大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、5年以下の懲役に処する。
2.営利の目的で前項の罪を犯した者は、7年以下の懲役に処し、又は情状により7年以下の懲役及び200万円以下の罰金に処する。
3.前2項の未遂罪は、罰する。




「みだりに」とは、「社会通念上正当な理由が認められない」という意味だ。また、所持の目的は問わず、たとえ「治療」目的で大麻を所持していたとしても、「所持」罪となる。



ただし、大麻はこれまで繊維や種子の採取のために栽培されてきたという歴史がある。すべての大麻を一律に禁止してしまうと、繊維や種子の採取もできなくなる。そのため、大麻取締法1条は取り締まりの対象範囲となる大麻について、つぎのように定義している。




第1条
この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。




なぜ、大麻の「使用」罪はないのか。



その理由は諸説あるが、中には大麻草の成熟した茎や種子が体内に入ったとしても、尿検査で大麻の陽性反応が出てしまうおそれがあるためという見解もある。また、「大麻取締法と最近の事例について」(安田尚之(厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課)「大学と学生」(64)2009年)では「現段階では、能動吸引と受動吸引を区別することができないことによるもの」とされている。



●有害性については議論も、注目される医療大麻

大麻取締法は、大麻は「有害」であるという立場に立ち、さまざまな規制を設けている。しかし、大麻の有害性については議論もあり、法を疑問視する声も上がっている。また、「治療のために大麻を使えるようにしてほしい」という声もある。



2016年には、末期がん患者で苦痛を緩和させるために大麻を使った山本正光さんの裁判が注目された(山本さんは判決を迎える前の2016年7月に肝臓がんで亡くなっている)。




【山本正光さんの医療大麻裁判】
治療用「大麻」所持禁止は「人権に反する」末期がん患者が「無罪」主張
https://www.bengo4.com/c_1009/c_1296/n_4594/



「体調を維持しないと」治療目的で大麻所持の末期がん患者、裁判への執念
https://www.bengo4.com/c_1009/n_4742/



医療大麻裁判「それしか方法がない」「助けて」末期がん山本さん、裁判官にうったえる
https://www.bengo4.com/c_1009/c_1296/n_4886/



医療大麻裁判の山本正光さん死去、意識失うまで執念貫いた「礼儀正しき紳士」
https://www.bengo4.com/c_1009/c_1296/n_4929/




医療大麻に詳しい正高佑志医師は「大麻取締法が制定されたのは1948年ですが、大麻に関する研究が本格的に始まったのは1960年代。科学や社会は変化している」と指摘。亀石倫子弁護士も「今の時代に合わせた法律のアップデートが必要」と語る。




【亀石倫子弁護士と正高佑志医師の対談】
生きるため「大麻」を必要とする人たちがいる 私たちが発信を続ける理由〈亀石倫子弁護士×正高佑志医師〉
https://www.bengo4.com/c_1009/n_11324/




また、近年はCBD(大麻に含まれている成分「カンナビノイド」の1つ)が難治性小児てんかんの治療に有用とされている。成熟した茎から抽出したCBDを使用した製品であれば、違法ではない。



しかし、CBDは医薬品としては認められていない。そのため、高額な費用を払わなければならないなどの問題から、悩み苦しんでいる親たちもいる。




【CBDオイルを使用している難治性小児てんかんのソウタくん】
2歳児の父「息子は大麻に救われた」…海外では合法化「医療用大麻」使用求め、患者らの模索続く
https://www.bengo4.com/c_7/n_10997/




世界を見渡せば、大麻を合法化あるいは非犯罪化する国もある。はたして、日本ではどうするべきか。大麻取締法に関する議論は続く。