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スケボーでトラックに掴まる…『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような投稿動画に「危険」の声

2020年06月25日 10:11  弁護士ドットコム

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若者を中心に人気が高まっているスケートボード。ネットには、さまざまな動画も投稿されている。中には危険なものも…。


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今年5月、ネットの掲示板で、発進するトラックの後部に掴まるスケートボーダーの動画についてのスレッドが立てられた。元はTikTokにアップされたものだ。



映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を連想したユーザーも多かったようだが、「急停車したら死ねるな」「事故ったら運転手さんは罪に問われるの?」などのコメントもついている。



注目を集めたい気持ちもわかるが、法的に問題ないのか、清水卓弁護士に聞いた。



●「交通のひんぱんな道路」でのスケボーは禁止

ーースケボーにも道交法は適用されますか?



道交法は、道路における危険の防止・交通の安全をその目的の1つとしています。




「この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする」(道交法1条)




その目的を実現するため、「道路における禁止行為等」(5章1節)の中で、次の行為も禁止しています。




「交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること」(道交法76条4項3号)




スケートボードは、「これらに類する行為」に含まれると解釈されています。違反した場合には、5万円以下の罰金に処せられます(道交法120条1項9号)。





ーー「交通のひんぱんな道路」とは?



道路の広狭、通行する歩行者や車両等の量・状況等から社会通念に基づき判断されます。



例えば、大都市の中央通りは一般的に交通のひんぱんな道路にあたるものの、深夜や早朝の交通が閑散な場合には、交通のひんぱんな道路とはいえないでしょう。



また、田舎の神社の前の道路等でも、祭典等が催され、多くの人や車両等が行き交う場合には、交通のひんぱんな道路ということになるものと思われます(「執務資料 道路交通法解説」の具体例を参照しました)。  



●走行中の車に掴まるのもNG

ーースケボーに乗れる場所が限られていることはわかりました。では、車の後ろに掴まるのはどうでしょう?



道路における危険の防止・交通の安全を実現するという道交法の趣旨から、次の条文に該当すると思われます。




「道路において進行中の自動車、トロリーバス又は路面電車に飛び乗り、若しくはこれから飛び降り、又はこれらに外からつかまること」(道交法76条4項6号)




違反した場合には、5万円以下の罰金に処せられます(道交法120条1項9号)。





●事故ったらドライバーの責任も問われるの?

ーーもしもスケートボーダーが掴まっていたトラックに巻き込まれたり、ほかの車とぶつかるような事故が起きたら、トラックの運転手の責任も問われるんでしょうか?



スケートボーダーが掴まったまま、漫然とそのトラックの運転を続け、掴まっている人や周囲の人に怪我をさせたり、死亡させたりした場合には、「自動車運転過失致死傷罪」が成立し、7年以下の懲役若しくは禁固または100万円以下の罰金に処されます。



また、重大な後遺障害や死亡の結果が生じた場合等には、民事上、多額の損害賠償責任がトラックの運転者に生じかねません。



ーードライバーにも迷惑がかかるわけですね。過失割合はどうなるんでしょう?



認定の際、交通弱者と扱われる場合には被害者保護の観点から相対的に過失割合が低く認定される傾向があります。



ただし、それを踏まえても、道交法の禁止行為をスケートボーダーが行ったという事情は、過失割合の認定上、不利に扱われる可能性があり、事故の状況などによっては、スケートボーダー側に大きな過失割合が認められるケースもあり得るでしょう。



ーー具体的には?  



スケートボードと自動車の事故の過失割合が問題となった参考となる裁判例を2つ紹介します。




(1)スケートボードに乗ってスロープを滑り降りた11歳の女子小学生に四輪車が衝突し、被害児童が亡くなった痛ましい交通事故において、被害者保護等の観点から被害児童(スケートボード側)の過失割合を40%にとどめるのが相当であるとした事例(東京地裁平成15年6月26日判決)







(2)タクシーとスケートボードに乗った人との衝突事故(タクシーの修理代という物的損害の賠償請求の事案)につき、赤信号で道路に進入したこと、道交法76条4項3号により、道路はスケートボードで走行すること自体が禁じられていたこと等から、事故の原因はもっぱらスケートボーダー側にあるといわざるを得ないとして、100%の過失割合を認め、過失相殺をすることは相当でないとした事例(東京地裁平成24年7月20日判決)




裁判例(1)は、被害者保護等の観点からスケートボード側の過失割合を少しでも抑えようとした裁判所の苦心がうかがえるのに対し、裁判例(2)は、事故状況等から、スケートボード側を交通弱者として扱わない裁判所の姿勢が垣間見られます。



ーースケボーの割合が高いですね。これが目安ということでしょうか



いろいろな考え方があるかとは思いますが、1つの見方として、人身なのか物損なのか、死亡事故なのかどうか、といった部分が影響しているのかもしれません。



ともすると、40%、100%という過失割合の数字のみが各裁判例の事実関係を離れて一人歩きしてしまいがちなのですが、やはり、それぞれの事実関係や判断の背景にも思いを致すことが重要であることを、読者の皆さんにも感じていただければ幸甚です。




【取材協力弁護士】
清水 卓(しみず・たく)弁護士
東京の銀座にある法律事務所の代表を務め、『週刊ダイヤモンド(2014年10月11日号)』で「プロ推奨の辣腕弁護士 ベスト50」に選出されるなど近時注目の弁護士。交通事故分野などで活躍中。被害者救済をライフワークとする“被害者の味方”。
事務所名:しみず法律事務所
事務所URL:http://shimizu-lawyer.jp/