2020年06月22日 13:31 リアルサウンド
戸塚慶文の『アンデッドアンラック』(集英社)の第2巻が発売された。『週刊少年ジャンプ』で連載されている本作は、触ったものに不幸が訪れる「不運」(アンラック)の力を持つ出雲風子と、「不死」(アンデッド)の肉体を持つアンディの物語。
2人は「否定者」と呼ばれており、対未確認現象統制組織“ユニオン”から追われていた。敵の追撃を逃れるためには組織に所属する否定者10人の椅子を2つ奪い、特殊チームに入らなければならない。「不可避」(アンアボイダブル)の否定者・ボイドを倒したアンディはもう一つの椅子を手にいれるため、ロシアにいる「不変」(アンチェンジ)の否定者・ジーナに戦いを挑む。
以下、ネタバレあり。
ジーナは「不変」の力で空気の形を操り、不可避のバリアを作ることでアンディの攻撃を遮断していたが、風子の「不運」の力を利用したアンディの捨て身の攻撃によって大ダメージを受ける。もう助からないとわかったアンディはジーナがラクに死ねるようにとどめを刺す。
ジーナは「不変」の力で死ねないことに苦しんでおり、かつて組織に捕まったアンディはそのことを知っていた。「不変」が解けて、実年齢の顔に変わっていくジーナは「醜くい姿は見られたくないの」と言うが「シワの数でお前の魅力は変わらない」とアンディは返す。
強面でマッチョなアンディは、欲望丸出しのキャラクターだが、節々で女性に対して優しい気遣いを見せる。こういったシーンが彼の魅力を高めている。
ジーナの死を悼み献杯する2人だったが、すぐに組織に捕まり、否定者の集う円卓の間へと招集される。アンディと風子が席に座ると、黙示録(アポカリプス)という喋る本が現れる。黙示録は「この地球で最初に見つかった古代遺物(アーティファクト)」で、10人の否定者が揃って円卓に座ると6つの課題(クエスト)を提示する。
課題には「目的」と「(否定者の)参加人数」と「報酬」があるのだが、同時にすべての課題をクリアするための期限が設けられており、期限内にクリアできないと「UMA銀河(ギャラクシー)を追加する」と言われる。アンディと風子は「目的、UMA(未確認生物)スポイルの捕獲」「参加人数、3人」「報酬、不治(アンペア)の否定者の所在」という課題に、「不真実」の否定者・シェンと共に挑むことになる。
ニューヨークで歩く腐乱死体(ゾンビ)の存在が確認されたという情報を元に、腐乱死体の出身地であるアメリカのネバダ州にあるロンギングへと向かう3人。町はゾンビで溢れかえっており、アンディは強引に蹴散らす。しかし、スポイルは町に入ったものは制限時間を過ぎるとゾンビにかかる呪いを仕掛けてくる。アンディはゾンビ化した女性と結婚式を挙げることと引き換えにスポイルの居場所を教えてもらい、スポイルのいる教会へと向かう。
スポイルはあらゆるものを腐らせてゾンビにする力をもったUMA。アンディはゾンビ(にされた人々)と共闘して倒そうとするが、スポイルは巨大化。近づくものを腐敗させるスポイルを倒すために(腐敗の力が発生しない)宇宙空間へと飛ばし、アンディの力でなんとか倒す。
しかし、額の封印(カード)を抜いたことでアンディの人格は豹変し「戦勝の神」(ヴィクトール)に変わってしまう。暴走するアンディを止めるため、すべての否定者がその場に集結。風子も含めた否定者9人VSアンディの戦いがはじまるところで次巻へと続く。
まるで最終回のような盛り上がりだが、一応、連載は続行中。人気面での問題はなさそうだが、一話あたりの物語の密度と設定とキャラクターの詰め込み方が半端ではないので、作者の気力と体力が持つのか相変わらず心配である。
この巻では組織の否定者たちが戦っている“敵”の存在が明らかになる。課題に成功すれば報酬が、失敗すると罰(ペナルティ)が与えられるのだが、その罰とは、この地球に理(ルール)が足されることらしい。
否定者のナンバー1は「性別」「言語」「人種」「死」「病気」が今まで書き足された98回の罰の一部だと言う。課題に挑まないと罰は3カ月に1度増えていくため、否定者たちは課題に挑んで力を上げながら「いつかこの地球に理を強いる」「本の向こうにいる創造主(神)を殺す」ために戦っているらしい。
「神との戦い」という発想自体は漫画において、そう珍しいものではない。しかし、神という概念の捉え方は新しい。神は、後からルールを(罰として)書き足すことが可能で、その都度、様々な概念が生まれるという発想は、あまりにもぶっ飛んでいて、頭が追いつかない。
神をプログラマーと捉えると、すごくゲーム的な世界観だと言えるのだが、物語として転がすとなると実に大変である。実際、本作もアクロバティックな超展開の連続で毎回どうなるのかと驚いているのだが、だからこそ目が離せないのだろう。“理”を強いる神との戦いを本作はどう描くのか。次巻も楽しみである。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『アンデッドアンラック』既刊2巻
著者:戸塚慶文
出版社:株式会社 集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/undead.html