2020年06月22日 10:01 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの影響で仕事が休みになったのに、休業手当を受け取れない労働者に対して、休業支援金の支給などができるようにする雇用保険法の臨時特例法が6月12日に成立した。
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労働者にとってはプラスの仕組みだが、労働問題にくわしい弁護士や厚労省への取材から課題も見えてきた。
今回の制度は、中小企業の労働者が対象で、休業前賃金の80%(月額上限33万円)を休業実績に応じて支給するという。雇用保険に入っていなくても、同様の支給をおこなうそうだ。
具体的な仕組みはまだ完全には固まっていないが、雇用調整助成金と異なり、労働者が直接申請する方式。1カ月以内をめどに運用がはじまる見通しだという。
背景には、休業手当が十分に支給されていない現状がある。
会社都合での休業は、給料の全額補償(民法536条2項)や、平均賃金の6割以上の休業手当(労働基準法26条)の対象となる。
しかし、コロナ問題での休業が会社都合になるのか、不可抗力になるのか確定した判断がない。
政府はこれまで「雇用調整助成金(雇調金)」の拡充で、労働者保護を目指してきた。労基法上の要否にかかわらず、休業手当の支払いがあれば支給するなど、利用を促している。
しかしその一方で、手続きの煩雑さなどから、申請が十分に進んでいないことも指摘されてきた。
今回の法改正について、労働問題にくわしい山岡遥平弁護士は次のように分析する。
「労働者の生活を守るという点では前進。ただ、問題がないわけでもないので、具体的制度設計に当たっては矛盾がないよう、かつ、労働者に迅速に支援が行き渡るようにしてもらいたい」
では、どんな課題があるのだろうか。
「この支援金の申請により、使用者の休業手当未払いが必然的に明らかになる。労働基準監督署が取り締まりをおこなわないことにお墨付きを与えるようなことになってしまわないか」
休業手当の未払いは本来、罰則の対象だ。しかし、今回の制度が会社側に対して、「休業手当は支払わなくてもいい」というメッセージになってしまう恐れがある。
厚労省は、コロナ問題で休業したからといって、「一律に(…)休業手当の支払義務がなくなるものではありません」と説明している。
ただ、裁判所の確定した判断基準があるわけではなく、労基署が強い対応を取りづらいのが現状だ。
「(制度を検討した)審議会の中で、労働者側が強調していたが、あくまで休業手当や通常の賃金の支払いが原則であることを確認すべきだ」(山岡弁護士)
この点について、厚労省も基本的には同じ考えのようだ。
担当者は、「あくまで雇調金で対応してもらうことが基本。それでも払ってもらえない労働者の救済を目的としています」と話す。
その雇調金は臨時特例法にあわせて、さらに拡充された。
(1)上限額を1日8330円から1万5000円に引き上げ、(2)中小企業で解雇がない場合は助成率も100%に、(3)すでに申請済みの場合も、追加の手続きで4月1日にさかのぼって適用される。
企業の経営体力による部分はあるにしても、新制度より雇調金を使った方が労働者にとって有利で、ひいては使用者にとっても労働者の引き留めにつながるような設計をしているという。
ただし、制度はあっても、知って活用してもらわなくては意味がない。広報などには依然課題が残る。
また、具体的な制度が固まっていないため、疑問もある。
たとえば、「二重取り」の問題だ。支援金を得たあと、翻意した会社から休業手当が支払われた場合はどうなるのか。
また、労働者が会社からすでに休業手当を得ているのに支援金も受け取ってしまった場合はどうなるのか。
「制度の趣旨からすると、会社が翻意したときは、支援金を返還してもらうことを考えています。
また、すでに休業手当を受け取っているのに、申請して支援金を受け取るのは『不正受給』になります。迅速な給付のため、複雑な書類を課すことは避けますが、会社に確認をとるなどの運用は検討しています」(厚労省)
だがそうなると、会社からしてみれば、労働者による申請は、休業手当の未払いを「告発」しているように見えることにもなりかねない。
「申請に当たって使用者から妨害されたり、労働者が萎縮したりしないか懸念がある」と山岡弁護士は語る。
制度や運用で、この辺りをどうクリアしていくかも課題と言えそうだ。
【取材協力弁護士】
山岡 遥平(やまおか・ようへい)弁護士
2016年弁護士登録(神奈川県弁護士会所属)。日本労働弁護団常任幹事・事務局次長。Twitter: @yoyamaoka
事務所名:神奈川総合法律事務所
事務所URL:http://kanasou-law.com/