2020年06月20日 09:51 弁護士ドットコム
動画配信をきっかけに、自宅を特定され、実家にまでいたずら電話をされたーー。ネット上で個人情報を晒し上げられ法的措置をとった女性が、弁護士ドットコムニュースに情報を寄せた。
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女性は、神奈川県に住むマヤさん(仮名・46歳)。マヤさんは2019年6月、晒し上げをおこなった男性に対し、損害賠償請求を提起。3カ月後の9月には、男性に対し、271万円の支払いを命じる判決がでた。
しかし、差し押さえた男性の預金口座に入っていたのは、たった12円だった。
訴えたことで男性からの誹謗中傷は止んだが、賠償金は今も回収できていない。マヤさんは「やっていいことと悪いことがある。法的手段を取ることで、許さないという強い姿勢を示したい」と話す。
動画配信サイトで雑談配信をしているマヤさん。男性からの特定行為が始まったのは、2019年3月のことだった。理由は「自分と敵対している人間とマヤさんがコラボ配信をしている」。これまで男性と接触したことはなかったが、突然言いがかりをつけられた。
その後、マヤさんは男性の仲間から自宅を突撃され、その様子は動画で配信されてしまった。その後も、マヤさんの自宅だけでなく、父親の名前や実家の住所、電話番号が「関わってはいけないリスト」として動画配信サイトで公開された。
自宅の敷地内に侵入されたり、自宅を見に来る人が出たりしたため、マヤさんは防犯カメラを設置。固定電話はいたずらで朝5時から鳴りっぱなしになり、電話番号を変更した。最寄りの警察署に相談に行ったが、門前払いだった。
そんな日々が続き、マヤさんは精神的に追い詰められ、不眠や呼吸困難に悩まされるようになった。2019年4月には一時意識障害におちいり、緊急搬送。「急性ストレス障害」と診断され、現在も通院中だ。
マヤさんは2019年4月に弁護士に相談。男性の住所は掲示板に書かれていたため、発信者情報開示請求はおこなわず、慰謝料や弁護士費用、防犯カメラなどの出費など約321万円を求めて、提訴した。
裁判所は、男性の行為について「プライバシー侵害性が強い情報で、表現の自由とはまったく無関係な被害者への人格攻撃、嫌がらせである」と指摘。
男性は答弁書で「和解はできない。原告の主張自体ねつ造されたもので、司法を悪用した遺憾と考えられる主張である(原文ママ)」などと反論したが、裁判所は「謝罪はまったくなく、慰謝料を支払う意向も示していない」「口頭弁論期日などにもなんの連絡もせず出頭せず、まったく反省の様子もない」などとして、男性に対し271万円の支払いを命じた。
マヤさんは他に発信者情報開示など2件の裁判を起こしており、弁護士費用は合わせて約90万円かかった。まだ費用は回収できておらず赤字だが、男性からの誹謗中傷が止んだことに一安心もしている。
法的措置を取ったことを配信で明らかにしたところ、同様の被害に悩む動画配信者から次々と相談が寄せられた。「注意喚起にもつながるため、訴訟をしてよかった」とも話す。
総務省では、発信者情報開示のありかたについて議論が始まっているが、マヤさんも被害者の負担が大きいことを問題視している。
「誹謗中傷する人は、悪気がなく無意識にやっている人と意図的にやっている人がいるのではないでしょうか。発言が法に触れるということが理解されていません。誹謗中傷した相手を1カ月くらいで特定できるようになってほしいし、独自の罰則をもうけても良いのではないかと思います」
誹謗中傷に悩まされ、22歳の若さで亡くなった木村花さんの件にも心を痛めている。「誹謗中傷を続ける人は、彼女が若い命を絶ったことをいまだに理解していないのか。誹謗中傷はしてはいけないし、きちんと代償を払わされるということを分かって欲しいですね」