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香川県ゲーム規制条例で違憲訴訟準備の高校生、裁判費用のクラファン立ち上げ「全力で戦いたい」

2020年06月19日 21:31  弁護士ドットコム

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香川県のネット・ゲーム依存症対策条例は憲法に違反するとして、県を提訴する準備をすすめている高松市在住の高校3年、渉さん(17歳)が6月19日、裁判などにかかる費用を集めるクラウドファンディング( https://camp-fire.jp/projects/view/271398 )を立ち上げた。


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クラウドファンディングの目標額は500万円で、弁護士費用のほかに、憲法学やゲーム依存症の専門家に意見書を求める際に必要な費用などに使用する予定だ。提訴は今年9月を目指している。



「最高裁まで戦いたいと思っています」と渉さん。その思いをインタビューした(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)



●当事者である子どもたちの声を聞かないまま可決

この条例は、全国で初めてオンラインゲームなどに対する依存症から子どもを守る目的で、4月に制定された。しかし、保護者に対して、子どものゲームの利用を1日あたり60分までにする努力義務を課しており、利用時間まで県が定めることは「行き過ぎ」と指摘されている。



香川県弁護士会(徳田陽一会長)も5月25日、憲法に違反するおそれがあるとして、廃止を求める会長声明を発表。ゲーム利用時間を1日60分までという努力義務の条項については「即時削除」を求めている。



県内外から批判を集めている条例だが、香川県の高校生である渉さんは、当事者としてこの条例に真っ向から反対してきた。



今年1月、渉さんはネット上で、条例の素案に対する反対署名を募り、3週間で寄せられた595筆を県議会に提出。当事者である子どもたちの声も聞くよう訴えた。



しかし、条例の素案は非公開の委員会で議論されたうえで県議会に提出され、県民から集めたパブリックコメントの内容すら十分に公開されていない。



●「自分が行動しなかったら、誰が行動するのか」

中学生のころから、政治的な問題に関心を寄せてきたという渉さん。「ただ、国会の動きを見ても、どこか自分とは関わりのないことだと思っていました。でも、この条例の素案をニュースで知ったとき、直接自分に関わることだし、ゲームの利用時間はそれぞれの家で決めることだと思いました」と話す。



「自分が行動しなかったら、ほかの誰が行動するのか」。今までは、どこかの誰かが行動してくれていたが、自分で行動してみようと背中を押された。ネットで署名活動もおこない、賛同の輪は広がっていった。



しかし、3月の県議会で条例は成立してしまう。採決の場にいた渉さんは、こう振り返る。



「賛成意見を述べていた議員は、ゲームは絶対的に悪で、まるで覚せい剤のような悪いもののような言い方をされていました。しかし、僕が署名活動をしたように、反対意見の人たちも多い。議会制民主主義では、そうした声を代弁するために議員がいるはずなのに、ほとんど聞かれなかった。選挙で彼らに投票した人たちはどう思うのでしょうか」



●クラウドファンディングにチャレンジした理由とは?

残された手段が裁判だった。提訴を模索する中、弁護士ドットコムニュースで、作花知志弁護士が、条例の違憲性について指摘している記事を見た( https://www.bengo4.com/c_1017/n_10940/ )。作花弁護士に連絡を取り、正式に依頼することになった。



クラウドファンディングも、作花弁護士が関わっている選択的夫婦別姓を求める訴訟に関係するプロジェクトからヒントを得た( https://camp-fire.jp/projects/view/217790 )。



「切り詰めてやるより、全力で戦いたいと思い、クラウドファンディングで支援を求めることにしました。



裁判では、直接条例の廃止を求めることは難しいと思っています。ですから、できたら最高裁までいって違憲判決を出してもらう。最高裁判決ともなれば、香川県議会も廃案を検討せざるを得ないでしょう。



また、第三者委員会を立ち上げてもらい、条例可決までのプロセスでも問題がなかったか、きちんと調べてほしいです。それが最終的な目標です」



すでに、訴訟費用を支援したいという申し出が寄せられているという。



「振込先を教えてくださいとも言われてありがたいのですが、個別にいただくより、公共性の高いクラウドファンディングで支援していただき、透明性を保ってやりたいです」



●コロナ禍で一転、WHOもゲームを「推奨」

県内の高校生たちはどう受け止めているのだろうか。渉さんの高校では、条例の可決後、教師からは「こんな条例ができた」という説明があったという。



「しかし、塾や習い事があって夜10時以降しかゲームができない家庭もある。先生は、家庭でそれぞれ決めることだという立場をとってくれています」



一方で、「実際に条例は可決されましたが、実際にあらためて家族で話し合った家は少ないと思います」とも話す。条例の存在は知っていても、どういうものなのか、よく内容を知らない人が少なくないのだという。



「たまたま、弁護士ドットコムニュースのようなサイトを見たり、ツイッターで流れてきたとか。それで僕の活動を知ったという人は多いです。



同年代の人には、もっとこの問題を知ってほしいし、関心を持ってほしいです。みんな条例を無視して、ゲームをしていますが、実際にこういう条例があることに対して、ぜひ声をあげてほしいです」



折しも、コロナ禍によって休校が余儀なくされる中、ネットでは「 #PlayApartTogether 」というタグとともに、自宅でゲームをしながら過ごそうというキャンペーンがゲームやネット企業の呼びかけで始まっていた。



条例が施行される直前、WHOのテドロス事務局長もこのキャンペーンを推奨するツイートをしている。







「香川県の条例はWHOの勧めにも反することになるのではないでしょうか」と渉さん。提訴に向け、協力と支援を呼びかけている。