「ウェブ会議や面談で、伝えたいことが伝えられない」「リモートワークになったけど、部下に何を伝えればいいのか」――。これらは急にリモートワークが広がった昨今の管理職の苦悩の声です。皆さんの中にも同様の思いがあるのではないでしょうか。
高度経済成長期から今日までの日本は、強いチームワークのもとで成果を出し続けてきました。専門用語でいうところの"メンバーシップ型雇用"が機能していたわけです。ただ、昨今急速に広がっているリモートワークの中で、この機能が上手く働かないケースがみられるようになってきています。
今回は、リモートワークが急速に広がる中、メンバーをどのようにマネジメントし、組織成果を上げればいいのかをお伝えします。(文:働きがい創造研究所社長 田岡英明)
"ジョブ型雇用"にシフトするには?
上司は、部下が何をやっているのか、気が気ではない。逆に部下は、上司の監視の目がないので伸び伸びと仕事をしている。リモートワークが広がる中で、このような現象が起こっています。なぜでしょうか?
理由は2つあります。1つ目は上司が性悪説のもと、メンバーを見ていることが挙げられます。性悪説とは「人の本性は悪であり、それが善になるのは人間の意思で努力するからである」という荀子が説いた教えです。
仕事の現場で言うと、「部下はほっておいたら、怠ける」といった考えになってきます。上司がこのような思いに支配されていると、リモート下で働く部下を監視できずに不安ばかりに苛まれてしまいます。
2つ目は日本の伝統である"メンバーシップ型雇用"の弊害です。世界的な雇用形態としては"ジョブ型雇用"と"メンバーシップ型雇用"がありますが、世界の主流は"ジョブ型雇用"です。"メンバーシップ型雇用"では職務や役割が不明確な部分が多く、リモートワーク下では指示が出しにくいし、伝わりにくいといったことが起こります。
"ジョブ型雇用"とは、職務に必要な能力を細かに記載した「職務定義書」のもと、人材を採用、配置していくといった欧米で一般的な雇用形態のことです。重視されるのはその人が持つスキルや経験になるため、仕事に人を合わせていく"仕事思考"の雇用と言えます。
メリットとしては、企業が必要とするスキルを持った人材を採用しやすいことや、求職者にとっては自分の専門分野の仕事に就けるといったことが挙げられます。デメリットとしては、新卒者にとって活躍の場が少ないことや、スキルを自分自身で磨いていかなければならないといったものがあります。
日本の多くの企業でみられる"メンバーシップ型雇用"は、新卒で一括採用した社員を転勤や異動などのジョブローテーションを繰り返すことで、会社を支える人材に育成していくものです。終身雇用の安定性のもと、会社に人を合わせていく"会社思考"の雇用と言えます。
メリットとしては、経験の少ない若者も仕事に就きやすく、社内でのキャリアアップやスキルアップの道が用意されています。デメリットとしては、キャリアアップの名目のもと転勤、異動があることや、「年功序列」「終身雇用」が前提となるために企業の負担が大きくなってしまうことです。
日本でも、少子高齢化による人材不足や多様性(ダイバーシティ)の広がりといった時代背景から"ジョブ型雇用"へ移行する企業が一部みられるものの、実際にはこれからです。そのような最中に、リモートワークが急速に広がったので、現場の管理職の皆さんの中にマネジメントへの戸惑いが現れているのです。職務や役割が明確なジョブ型雇用に対応できるマネジメント力の構築が急がれています。
見張る目ではなく"見守る目"を持つことがポイント
リモートワーク下において、スムーズなマネジメントをしていくためには、上司のあり方として性善説に立っていかねばなりません。理由は、部下を四六時中見張ることは不可能だからです。見張ることに時間をかけるより、部下との信頼関係をつくり、明確な役割を任せるための行動をしていきましょう。以下に3つのポイントを掲げます。
ポイント1は、役割を明確化するために、職務記述書を見直すことです。組織に職務記述書が無い場合は、部下に任せる仕事を棚卸ししましょう。そして、任せる仕事を改めて言語化してみるのです。この言語化の作業が大切です。
例えば、営業マンなら「顧客のニーズに応じて、既存のコンテンツ・サービスを組み合わせて提案し、納品・振り返り、次なる提案ができる」といった形です。職種によっては「顧客のニーズに応ずるためにすること」など、より詳しく言語化してみてもよろしいかと思います。
ポイント2は、リモートワーク下においても、部下との信頼関係づくりのためのコミュニケーションを継続することです。ポイント1の明確な役割を提示するためにも、コミュニケーションにより、部下のパーソナリティを理解し、明確な役割定義をしていくことが大切です。
リモートワーク下においては、部下との信頼関係を造ることの難易度が増しますので、パーソナリティ診断などのコミュニケーションツールを使うことと、ウェブ面談の定例化をお勧めします。定例化した面談の中でツールを使うことによって、コミュニケーションの質を上げることができます。
ポイント3は、定例化したコミュニケーションの中で掴んだ部下の強みや価値観をベースに、職務記述書のもと明確な役割の見える仕事を任せることです。そして、任せた後は"見張る目"ではなく"見守る目"で仕事を任せきりましょう。ここが我慢のしどころです。
今回は、急速に広がるリモートワークの中で、どのようにマネジメントをしていけばいいのかをお話をさせていただきました。ご自身の部署の状況に合わせた形で展開をしてみてください。
【著者プロフィール】田岡 英明
働きがい創造研究所 取締役社長/Feel Works エグゼクティブコンサルタント
1968年、東京都出身。1992年に山之内製薬(現在のアステラス製薬)入社。全社最年少のリーダーとして年上から女性まで多様な部下のマネジメントに携わる。傾聴面談を主体としたマネジメント手法により、組織の成果拡大を達成する。2014年に株式会社FeelWorks入社し、企業の管理職向けのマネジメント研修や、若手・中堅向けのマインドアップ研修などに携わる。2017年に株式会社働きがい創造研究所を設立し、取締役社長に就任。