画像提供:マイナビニュース すべてのプログラムがオンラインで実施されることになった今年の「WWDC 2020」。先だって開催された世界中の学生を対象としたプログラムコンテストで、弱冠16歳の日本人高校生が見事に選出されました。プログラミングを始めたきっかけや、アプリ開発を始めてよかったと感じたこと、間もなく開幕するWWDCに期待していることなどをうかがいました。
選ばれたのは高校2年生の杉山丈太郎さん
アップルの年次開発者向け会議「WWDC(Worldwide Developers Conference)」が第31回目を迎える2020年は、6月22日から26日までの5日間にわたってオンラインで開催されます。基調講演をはじめ、多くのセッションがApple Developerアプリなどを通じて無料で視聴できることから、WWDC史上最大規模のイベントになることが予想されています。
WWDCは、世界中から国籍や性別、年齢などの垣根を超えて多くの開発者が集まるボーダレスなコミュニティ、交流の場としても注目されています。アップルは、学生を含む多くの若いアプリ開発者がWWDCに参加できるよう、通常は有料で販売しているチケットの代金やイベントに来場するための渡航滞在費を支援する「WWDCスカラシップ」を2011年から実施し、これまでに何千人もの奨学生を受け入れてきました。
今年は初のオンライン開催となることから、スカラシップの代わりに「Swift Student Challenge」と名付けたプログラミングの腕前を競うコンペティションが設けられました。
Swift Student Challenge(以下、SSC)への参加募集は、世界中の学生デベロッパーを対象に5月4日から5月17日まで行われ、Swift Playgrounds、またはXcodeを使って開発された数多くの作品が寄せられました。そのなかから、特に革新的でクリエイティブな作品を手がけた350人の入賞者が41の国と地域から選ばれましたが、日本からは杉山丈太郎さんが見事に選出されました。
審査員の注目を集めた「福笑い」ゲームアプリとは
現在16歳の杉山さんは高校2年生。SSCには、日本のお正月ならではの伝統的な遊びである「福笑い」が楽しめるゲームをXcodeで開発して応募。見事に賞を獲得しました。
目をつぶったまま、顔の中に目・鼻・口を置いていくという、日本人にはなじみ深い“福笑い”をシンプルなドラッグ&ドロップ操作で再現したユニークなゲームアプリです。杉山さんは、なぜ“福笑い”をテーマにしようと考えたのでしょうか?
「SSCへの応募要項に“3分以内に体験できる、英語化されたコンテンツであること”という条件がありました。アップルはグローバルな企業なので、コンテンツの審査員も大半が海外の方々であることを意識して、日本の伝統的な遊びが新鮮なものとして映るのではないかと考え、シンプルに楽しめる福笑いを選びました」(杉山さん)
今回、SSCに応募することを決めてから、杉山さんは約1週間でアイデアを固め、オブジェクトの制作やデザイン、Swiftによるソースコードの制作までを一気に行い、「FaceMake!/福笑い」アプリを完成させたそうです。
アップルのプログラミング言語であるSwiftが練習できるSwift Playgroundsは、今年の2月にiPadOS版に続いてmacOS版がリリースされました。Swift Playgroundsのよいところについて、杉山さんは「これからSwiftによるプログラミングを学ぶ人に最適なツール」であると話します。
その理由として、Swift Playgroundsには「コードを学ぼう」という教科書が用意されており、最初から特別な準備をしなくてもプログラミングの学習を始められるところを評価。小さな子どもたちでも直感的にプログラミングに触れ、親しみが実感できるといいます。
アップルのSwift PlaygroundsとXcode Playgroundsは、ともに左側のペインに記述したソースコードを見ながら、右側のペインに実行結果を視覚的にプレビューできる機能があります。杉山さんは、トライアル&エラーを繰り返しながらプログラムを作り込めるところが気に入っているそうです。
母親のすすめでプログラミングスクールに
「僕が小さいころにSwift Playgroundsがあれば、きっと夢中になっていたでしょうね」と語る杉山さんは、幼少の頃から“ものづくり”に強く興味を惹かれていたといいます。母親とスーパーマーケットへ買い物に出かける時には、おもちゃではなく乾電池をねだることもあったそう。とにかく、電子工作や機械を分解して仕組みを知ることに熱中していたのだとか。
学校の勉強とともに、ものづくりへの興味関心を伸ばしてあげたいと考えた母親に勧められ、杉山さんは小学生のころからプログラミングスクールに通い始めました。そして、プログラミングというかたちで同じものづくりに情熱を燃やす仲間たちと出会い、切磋琢磨しながら杉山さんはめきめきと力を付けてきました。現在も、高校に通いながらプログラミングスクールで学んでいるといいます。
Swift Student Challnageとの出会いは「中学生のころから通っているプログラミングスクールの方にWWDCのスカラシップの存在を教えてもらい、2020年のWWDCではぜひエントリーしたいと考えていたことがきっかけ」だったと杉山さんは振り返ります。
父親からMacを譲り受け、iOSアプリ開発の道が拓けた
小学生のころに父親が使っていたMacを譲り受けたことから、杉山さんはSwiftによるiOSアプリのプログラミングに興味を持つようになったそうです。杉山さんは、これまでにもiOSアプリを開発し、App Storeに公開してきました。
杉山さんは、学校の部活動の仲間たちとAR技術を使ったクイズアプリ「部長とクイズバトル!」を制作して、同年秋に開催された文化祭に出展した際のエピソードを振り返ってくれました。学校が所有する20台のiPadにアプリをインストールし、文化祭に足を運んだ約1,500人の来場者に体験してもらったところ好評を博し、展示大賞で見事に1位を獲得。今は、新しい観光SNSアプリの開発にも着手しているそうです。
アップルが提供するデベロッパーツールのメリットとして、杉山さんは「SF Symbols」という1,500を超えるシンボルフォントが使えることを挙げています。
「シンボルを自分で制作・入手する手間を省くことができて、しかもアプリのインターフェースを統一感のあるデザインに仕上げられることが魅力的だと思います。プロダクトの機能とユーザー体験、デザインを一体のものとして捉えているアップルの強みを端的に表す一例といえるのではないでしょうか」
○プログラミング教育に親子はどう向き合うべきか
2020年度から施行される学習指導要領には、小学校から高校までの各学校でプログラミング教育が必修化されることが記されています。実際に学校で教育を受ける子どもや学生たちよりも、保護者が耳馴染みのないプログラミング教育をどのようにして我が子に勧めればよいのか、戸惑っているのではないでしょうか。
杉山さんの場合は、小学生のころにMacとプログラミングスクールに出会い、現在はSwiftによるコーディングを覚えてデベロッパーとしての道を歩み始めています。アプリ開発を本格的に始めてから、人との出会いが広がっているそう。また、今回のように栄えあるSwift Student Challnageの受賞者に選ばれたことが大きな自信につながり、成長の手応えを実感していると、杉山さんは会心の笑みを見せてくれました。
今後の国際化社会を生き抜くうえでも、プログラミングのスキルは外国語を話せることと同じくらいに、あるいはそれ以上に大きな財産になると思います。「将来は海外留学に出て見聞を広めてみたいし、アップルで働く機会にも巡り会いたい」と夢を語ってくれた杉山さん。これから、何度も大きなステップアップの機会が訪れることでしょう。
杉山さんがWWDC 20に期待していること
いよいよ、日本時間の6月23日にWWDC 20が開幕します。杉山さんは、次世代のiOS 14に関連する発表が一番気になるトピックスだと語ります。iOSアプリのデベロッパーとして、UIやUXの設計に関わる細かいことも含め、どのような変化が訪れるのか楽しみにしているそうです。
アップル独自のARのフレームワークである「ARKit」に関連する話題も注目しているといいます。兼ねてからウワサが絶えない「アップルのARスマートグラス」に関わるアナウンスもあるのでしょうか。アップルのスマートグラスは、ハードウエアとしても期待しているし、それを活用した没入型のアプリもぜひ手がけてみたいと語る杉山さん。「23日の基調講演は日本時間では深夜の開催ですが、ぜひオンタイムで視聴したいと思います」という言葉にも熱がこもっていました。
年に一度の“眠れない1週間”が間もなく訪れようとしています。アップルがどのような発表をするか、ぜひ注目しましょう。(山本敦)