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あいみょん、KinKi Kids……ルーツミュージックからの影響をオリジナリティに昇華したアーティスト 新譜5作からピップアップ

2020年06月16日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

あいみょん『裸の心』

 あいみょんの初のバラードシングル『裸の心』、故・ジャニー喜多川氏への愛をファンクに乗せたKinKi Kidsの新曲『KANZAI BOYA』など5作品を紹介。ルーツミュージックへの知識とリスペクト、そこから受けた影響をオリジナリティに昇華するセンスにも注目してほしい。


(関連:あいみょん「裸の心」【short movie】はこちら


●あいみょん『裸の心』
 叙情的なピアノのコードとともに聴こえてくるのは、心の内にある寂しさを吐露するような〈いったいこのままいつまで/1人でいるつもりだろう〉というフレーズ。ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)主題歌に起用されたあいみょんのニューシングルの表題曲「裸の心」は、曲名通り、彼女自身の生の感情がそのまま歌になったバラードナンバーだ。曲の主人公は、恋の成就を一人願う女性。リアルな思いを素朴な筆致で記した歌詞、切ないノスタルジーを含んだメロディは、彼女のルーツの一つである、70年代~80年代はじめのフォークや歌謡曲の匂いが色濃い。古き良き日本の歌を現代的なポップスに昇華する、あいみょんの本質がストレートに表れた楽曲と言えるだろう。ピアノやピアニカの懐かしい響きを活かしたトオミヨウの編曲も秀逸。


●KinKi Kids『KANZAI BOYA』
 昨年末のドーム公演で新曲として披露された「KANZAI BOYA」は、ジャニー喜多川氏から堂本剛、堂本光一に与えられた最初のユニット名を曲名に冠したナンバー。剛のルーツ音楽であるオーセンティックなファンクを前面に押し出したバンドサウンド、ジャニー氏への愛に溢れた歌詞からは、優れたアイドル性と豊かな音楽性を兼ね備えたKinKi Kidsの魅力が伝わってくる。しなやかなグルーヴをたたえたリズムとともに“KANZAI BOYA”を連呼する構成は、アイドルの楽曲としてはかなり異色。それを誰もが楽しめるポップスに導いているのは、二人がもった高いエンターテインメント性だ。そう、この無駄にカッコいい楽曲には、KinKi Kidsにしか持ちえない要素がたっぷり詰まっている。


●奥田民生『サテスハクション』
 アニメ『ハクション大魔王2020』のオープニングテーマ曲として制作された新曲「サテスハクション」は、奥田民生流のオマージュ精神がたっぷり込められたロックンロール。ビリビリに歪んだ“これぞエレキ!”なギター、思わず腰を揺らしたくなる16ノリのビート、大声でシンガロングしたいサビのフレーズなど、ニヤニヤが止まらない楽曲に仕上がっている。原作アニメ『ハクション大魔王』の主題歌(昭和歌謡を代表する作家陣による名曲!)へのリスペクトを表明しつつ、あの世界的バンドの“サティスファクション”風味を加え、どこからどう聴いても奥田民生な楽曲を生み出す技術とセンスはもはや達人の域。カップリングには、サイケデリックとフォークが混ざり合う「プゥータのテーマ」を収録。


●ゲスの極み乙女。『ストリーミング、CD、レコード』
 『ストリーミング、CD、レコード』というタイトルからはこのバンドらしい批評性を感じるが、本作の最大のポイントは(あらゆるリスニング環境に適応したリリース形態ではなく)、著しい音楽的な深化だろう。2010年代後半以降のR&B、ヒップホップ、ファンクの世界的な潮流とリンクした重心低めのサウンドデザイン、休日課長(Ba)、ちゃんMARI(Key)、ほな・いこか(Dr)によるシンプルにして深みのあるアンサンブル(ギターは少なめ)がとにかく最高。派手な展開やギミックを取り除き、洗練されたリズムのアレンジと抑制の効いたメロディを軸にした、現代的なポップミュージックへと結びつけているのだ。社会の事象に対する直接的な言及を避け、詩的な色合いを帯びた歌詞も聴きどころ。相変わらずの多作ぶりを続けている川谷絵音は、音楽家として確実に前進している。


●フレンズ『あくびをすれば』
 結成5周年を迎えたポップバンド、フレンズのニューシングル『あくびをすれば』は、アニメ『ハクション大魔王2020』のエンディングテーマ。軽快なシャッフルビートに乗るのは、カントリー風のテイストを感じさせるサウンド、そして、おかもとえみのナチュラルで心地よいボーカル。“いろいろあるけど、夢を見つけて進んでいこう”という前向きなメッセージにも、ハッピーなポップミュージックを提示し続けるフレンズの個性が溢れている。通常盤には石橋貴明、工藤静香のユニット・Little Kiss「A.S.A.P.」のカバーを収録。以前カバーした「タイミング ~Timing~」(ブラックビスケッツ)と同様、フレンズのルーツである90年代J-POPの名曲だ。(森朋之)