ボルボで最も売れている人気SUV「XC60」にマイルドハイブリッド車が登場したので、試乗してきた。あらゆる走行シーンでエンジン回転数を低く抑えてくれるマイルドハイブリッド車は、ディーゼルターボエンジン搭載車の代替になりうる性能を備えていた。
○エンジン自体も改良、上質感はさらに向上
マイルドハイブリッドとはクルマの電動化の第一歩ともいえる技術だ。エンジン車が搭載する交流発電機にモーター機能を持たせ、アイドリングストップからの再始動や加速などの際にエンジンを補助し、快適性を向上させたり、燃費を改善させたりする。ハイブリッド車のようにモーター走行ができないため、マイルド(穏やか)と呼ぶわけだ。
したがって、ボルボ初のマイルドハイブリッド車とはいっても、運転感覚は普通のエンジン車とほとんど変わらないものと想像していた。だが、試乗したXC60 B5はかなり上質な乗用車という印象だった。
2016年に発売となったSUV「XC90」以降、ボルボのラインアップは造形を含め、上質で高級な乗り味を伝えるプレミアムなクルマとなり、消費者を喜ばせている。その延長線上にあるXC60 B5は、さらに上質で上品な乗車感覚を体感させた。
ガソリンエンジンは排気量2.0リッターの直列4気筒ターボで、これまでと変わらない。だが、中身は大幅に良くなっている。改良点はシリンダーブロック、シリンダー、シリンダーヘッド、ピストンにまで及ぶ。エンジンの基本構造から改善を受けているのだ。また、排気系とターボチャージャーにも手直しが入った。さらには、エンジン制御やセンサー、エンジンマウント、遮音材なども変更し、気筒休止システムを新たに採用した。
気筒休止システムとは、エンジンに大きく負荷が掛からない一定速度での走行中に、全部で4つあるエンジンの気筒(シリンダー)のうち2気筒を休ませ、燃料消費を抑える仕組みだ。これらのガソリンエンジンの改良が、運転感覚や乗車感覚に大きな変化をもたらした。
エンジンはどの回転数でも常に滑らかに回り、振動や騒音が少ない。マイルドハイブリッドはモーター走行をしないと述べたが、あたかもモーター走行をしているかのような滑らかな走りと静粛性に包まれて移動できた。高速道路においても、空調の風の音がそよそよ聞こえるのと、タイヤ騒音が耳に届くくらいで、いたって静かだ。あまりの心地よさに昼寝をしたくなるほどであった。それほどストレスフリーな走りだったのである。
これはエンジンの改良が摩擦損失を大きく減らし、モーターが回転するような滑らかさを得たこと、また、エンジンの振動を伝えにくいマウントが使われていること、加えて、適切な遮音が行われていることなど、改良点の効果によるものと推測することができる。
一般道から高速道路まで燃費性能は安定しており、走行中のエンジン回転数は、ほぼ毎分1,500回転を保った。通常の加速を求めるアクセル操作においては、毎分2,000回転も回せば事足りた。この使用回転範囲は、あたかもディーゼルターボエンジンのようである。
高速道路では、時速80キロでも時速100キロでも、エンジン回転数はほぼ毎分1,500回転を維持した。速度が違うのに、なぜ同じエンジン回転数で走れるかというと、全8速の自動変速機が時速80キロでは7速、時速100キロでは8速を選択し、いつでもほぼ毎分1,500回転を保ちながら走行できるように制御されているためだ。
瞬間的な燃費の向上を求めるのならば、時速80キロで走っているときも8速ギアを選んだ方が、エンジン回転を低くできるので燃費の数値を高められるだろう。しかし、ほぼ一定速度で走っているとはいっても、わずかな登りくだりや緩いカーブなどで、運転者は細かくアクセル操作をしているわけで、その都度ギアの段数を変化させていたのでは、加速の応答が遅れる。それによって、無駄なアクセルの踏み込みを促してしまうかもしれない。
しかし、エンジンがもっとも高い効率でガソリンを燃焼させられる回転数を維持するようにしておけば、運転者のアクセル操作に対し素早く加速させ、それによって無駄なアクセルの踏み込みを抑制できる。総合的な燃費を高い水準で維持する制御を、ボルボは選んだといえる。
いつでも毎分1,500回転で走れるという特性はあたかも、ディーゼルエンジンでの走りに似ている。つまり、B5と呼ばれるマイルドハイブリッドは、ディーゼルの代替になりうる運転特性をXC60にもたらしたことが見えてくるのである。
○燃料代で考える「B5」の存在価値
こうなると、優れた燃費と運転特性の両立に加え、静かで滑らかな走りと快適性は、もはやディーゼル車の比ではない。マイルドハイブリッド車はボルボの上質さをさらに際立たせる商品性を獲得しているといえるだろう。残るディーゼルエンジン車との差は、1リッター当たりの燃料代くらいである。
その点を検証してみたい。まず、XC60 B5の燃費性能はWLTCモードで11.5km/Lである。ディーゼル車の燃費は従来のJC08モードでの数値となるため、B5の数値をJC08に換算すると、約13.2km/Lになるというのがボルボ・カー・ジャパンの説明だ。そして、ディーゼルエンジンを積む「XC60 D4」の燃費はJC08で16.1km/Lとなっている。
とはいえ、社内値としてボルボ・カー・ジャパンが実測した参考数値を聞けば、一般道では、XC60 B5がディーゼルのD4よりも0.1km/L良好な11.3km/Lを示したという。高速道路ではB5の14.7km/Lに対し、D4は16.9km/Lとディーゼルが上回った。そして今回の試乗では、一般道と高速を走り、高速道路区間のほうがやや距離は長かったが、車両のオンボードコンピュータの数値は15km/L前後を示し続けたのである。
まとめると、高速道路を頻繁に利用する人には、ディーゼル車の利用価値はまだ高いといえる。しかし、月に1~2回は遠出をするが、日常的には市街地を走ることの方が多い使い方であれば、燃費を含め、マイルドハイブリッドの方が総合的な満足度は高いといえそうだ。
プレミアムガソリンと軽油の価格差は、1リッター当たり30円前後。年間1万キロを走行するとした際の軽油との差額は2万7,000円前後ということになる。734万円するXC60 B5 AWD インスクリプションを買おうかというときに、この差を許容できないほど経済的に気になる人がいるかどうかは疑問だ。ちなみに、「XC60 D4 AWD インスクリプション」の価格は759万円である。ディーゼル車の新車価格での割高さは、上記試算による燃料代で相殺するには9年以上を要する。マイルドハイブリッドのB5なら、ガソリンエンジンを選択する価値は大きい。
すでにボルボは、日本市場において、小型の車種からディーゼル車の販売を止めていくと表明している。北欧の暮らしを体現するプレミアムブランドのボルボをあえて選ぶなら、環境にも日々の移動にもより快適な1台として、B5が持つ意味は大きいと思う。
○著者情報:御堀直嗣(ミホリ・ナオツグ)
1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。(御堀直嗣)