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マルキオンネ直轄の極秘プロジェクト? 独特の美学で中高年マニアを刺激する/アルファロメオ・ステルヴィオ実践試乗レポート

2020年06月16日 10:41  AUTOSPORT web

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今回の試乗車は、2019年11月に導入されたステルヴィオ 2.2ターボディーゼル Q4 スポーツパッケージ。
話題の新車や最新技術を体験&試乗する『オートスポーツWEB的、実践インプレッション』企画。お届けするのは、クルマの好事家、モータージャーナリストの佐野弘宗さん。

 第7回は、アルファロメオのDセグメントスポーツセダン『ジュリア』のSUV版、ステルヴィオを取り上げます。
 
 日本に上陸したのは、2019年2月18日。市場でのSUV人気は継続しているものの、いまいちその流れに乗り切れていないステルヴィオ。でも、ステルヴィオにはドイツ勢や日本勢にはない、アルファロメオ独特の『美学』が込められています。

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■FCAのカリスマ直轄で開発。ステルヴィオに課せられた使命

 ステルヴィオは、アルファロメオ(以下、アルファ)のDセグメント・スポーツセダンであるジュリアの背高SUV版だ。

 ステルヴィオとジュリアの2台は、“プロジェクト・ジョルジョ(以下、ジョルジョ)”と名づけられたプラットフォーム(=基本骨格設計)を共用しつつ、ほぼ同時並行で開発された。

 ジョルジョ最大の特徴は、フィアット(当時)傘下に入ってから約30年で初めて、アルファのためにゼロから専用開発された(という触れ込みの)プラットフォームをもつ量産商品ということだ。

 現在のフィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA)は、アルファ以外にも、フィアットやランチア、マセラティ、そして旧クライスラー系のジープやダッジなど多くのブランドを抱える。

 アルファは1910年に創業されて、第二次世界大戦前からモータースポーツで活躍した名門だ。そんなアルファは中高年マニアの間でいまだに知名度が高く、うまくカジ取りをすれば、メルセデスやBMWに対抗する高級車ブランドになれる……とは、フィアット時代からずっと考えられてきたことだ。

 事実、FCAはこれまでも手を変え品を終えてアルファのテコ入れを図ってきたが、一方で、8Cや4Cなどの少量生産スポーツカーを例外とすれば、フィアット傘下で生み出されたアルファはすべて、大衆車と同じエンジン横置きFFレイアウトをベースとしてきた。

 アルファ独自に4WDを前面に押し出したり、サスペンションのみを専用品にしたり、他社と共同開発した高級プラットフォームを使ったり……といった試行錯誤はあったものの、フィアット傘下以降のアルファが、ビジネス的に大成功したとはいいがたかった。

 日欧ではそれなりに売れたこともあったが、高級車の最重要市場である北米には、何度挑戦してもうまくいかなかったからだ。

 そんななか、FCAの将来にとって“アルファの復権”が必須……とあらためて考えた故セルジオ・マルキオンネ氏が、キモ入りでスタートさせたのがジョルジョだった。

 マルキオンネ氏とは2004年に当時のフィアットグループCEO(最高経営責任者)に就任後、クライスラーを完全子会社化してFCAとなってからも陣頭指揮を執り、2018年に現役CEOのまま急逝したカリスマ経営者だ。

 ジョルジョでは、現場が余計な雑音に悩まされずに“理想のアルファ”を開発できるように、あえてCEO直轄の極秘プロジェクトにしたとも聞く。

 ジョルジョはメルセデスやBMWに真正面から対抗できる縦置きエンジンのFRレイアウト(とそれベースの4WD)を採用している。歴史的に見れば、これは約30年来の悲願達成ということだ。

 また、現在の自動車産業では間違いなく、セダンよりSUVのほうが売れる。ステルヴィオの開発チームも同時並行開発となったジュリアのそれとは対照的に、あえて平均年齢30代の若いエンジニアで固められたという。

 こうした事実ひとつにも、ステルヴィオにかけられた期待の高さがうかがえる。

■ やりすぎで敏感すぎる!でも、その偏りがアルファ党を痺れさせる

 今回の試乗車はディーゼルエンジン搭載車だったが、誤解を恐れずにいうと、今のアルファのエンジンはガソリンもディーゼルも関係なく“ディーゼルっぽい”のが特徴だ。

 低速から力強いトルクをモリモリと発生させるエンジンを多段ATと組み合わせて、あまりエンジン回転を上げずに走らせることが、静かで快適に走るし内部摩擦抵抗も大きくならず高効率で燃費も良くなる……というのが、昨今のクルマづくりの定石である。

 なかでも、アルファの4気筒エンジンはガソリン、ディーゼルともども、その思想が徹底している。

 見事なまでにフラットなトルク特性で、BMWなどのように、高回転域でドライバーを心地よくさせる演出もほとんどない。

 考えてみると、アルファ、そして30年以上もその親会社だったフィアットのエンジニアリングは、歴史的にとても真面目で正攻法なのが特徴だ。

 たとえば、最新クリーンディーゼルの元祖となった直噴コモンレール型エンジンを、乗用車として初めて実用化したのは、何を隠そうアルファ156だった。

 フィアット傘下に入る以前のアルファといえば、高回転で突き抜けるように回るエンジンが代名詞だった。

 昭和~平成初期の日本の自動車雑誌では、そんな高回転型エンジンを「ラテン系の味わい」と持てはやした。

それはそれで間違いではないが、当時の技術では、エンジンを高出力化するには高回転化するしかなかったわけで、それもまた生真面目なエンジニアリングの結果ともいえた。

 また、ステルヴィオはSUVとしては異例なほどロール剛性が高く(=カーブでの左右の傾きが小さい)、ステアリングも非常にクイックな設定となっている。

 聞くところでは「兄弟車のジュリアとまったく同じロール剛性と俊敏性を実現する」のが、ステルヴィオのシャシー開発目標だったとか。

 実際のステルヴィオの操縦性や乗り心地は、少しばかり“やりすぎで敏感すぎ!?”の感がなきにしもあらずだが、これもまた生真面目なエンジニアリングの結果だと理解すれば、好事家には逆に微笑ましくも思えるだろう。

 マルキオンネが逝去してからはFCAもさらなる時代の荒波にもまれて、ジョルジョもいつしかアルファ専用ではなくなり、今後はマセラティやジープにも流用されるらしい。

 そして、ついにはFCA自体までがグループPSA(プジョー、シトロエン、オペル/ボクスホール)と合併することとなった。アルファを取り巻く環境はまたまた激動しそうである。

■アルファロメオ・ステルヴィオ 2.2 ターボディーゼル Q4 スポーツパッケージ 諸元
車体全長×全幅×全高4690mm×1905mm×1680mmホイールベース2820mm車両重量1820kg乗車定員5名駆動方式4WDトランスミッション8速ATタイヤサイズ 235/55R19エンジン種類直列4気筒インタークーラー付ターボ総排気量2142cc最高出力154kW(210ps)/3500rpm最大トルク470Nm(47.9kgm)/1750rpm使用燃料/タンク容量軽油/64L車両本体価格666万円

■Profile 佐野弘宗 Hiromune Sano
1968年生まれ。モータージャーナリストとして多数の雑誌、Webに寄稿。国産の新型車の取材現場には必ず?見かける貪欲なレポーター。大のテレビ好きで、女性アイドルとお笑い番組がお気に入り。