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『鍵のかかった部屋』“真の密室ミステリー”に 第一発見者・大野智はトリックをどう見破った?

2020年06月16日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『鍵のかかった部屋 特別編』(c)フジテレビ

 6月上旬に『SUITS/スーツ2』(フジテレビ系)の撮影が再開されたと番組公式Twitterが投稿していたが、感染症対策で通常通りの撮影スケジュールで進めるのが難しいのか、現時点ではまだ延期されている第3話の放送日は発表されていない。そのため現在代わりに「月9」枠で放送中の『鍵のかかった部屋 特別編』(フジテレビ系)はこのまま6月いっぱいかけて最終話まで放送されることが決まっており、『SUITS/スーツ2』の再開は早くとも7月の1週目になるのだろうか。


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 6月15日に放送された『鍵のかかった部屋 特別編』は、第9話の「はかられた男」。原作小説では「ゆるやかな自殺」とのタイトルで、このドラマが初回放送された2012年にはまだ単行本化されていなかったエピソードだ(先日再放送されたSP版の原作となった「鏡の国の殺人」などと共に『ミステリー・クロック』に収録されている)。榎本(大野智)が死体の第一発見者の一人となる、探偵ミステリーシリーズでは必ず一度は描かれるタイプの事件が展開する本作は、これまでのエピソードとはかなり異なる性質を持っている。それは、事件現場が正真正銘、おそろしく完璧な密室だということだ。


 物語は榎本から呼び出された青砥(戸田恵梨香)と芹沢(佐藤浩市)が、どうみても堅気の会社とは思えない雰囲気がただよう貿易会社の事務所を訪れるところから始まる。数日前に事務所内で副社長が銃殺される事件が起き、榎本は入口の鍵の厳重化と防犯カメラ設置のために派遣されており、芹沢たちは社長の富樫(岩松了)から法律相談を頼まれたのだ。それから数日後、取締役の野々垣(哀川翔)と坂口(高杉亘)らが帰ろうとして事務所の入ったビルの駐車場にいると、事務所から銃声が聞こえてくる。施錠された入口の鍵を開けるために榎本が呼び出され、彼らが中に入ると副社長の事件の容疑者である社員の八田(鈴木亮平)が自らの口を撃ち抜いた状態で発見されるのである。


 劇中で青砥は、どのようにして八田が殺されたのかを考えながら「催眠術とか?」と呟く芹沢に「催眠術で人を自殺させることはほぼ不可能」と断言する。窓に鉄格子が張られ、出入口はひとつのみ。事務所内には八田しかおらず、入口の鍵を八田自身が閉め、それを開ける鍵を持っていたのも八田しかいないという、ごく一般的な方法での他殺は極めて不可能なシチュエーションで起きた事件なだけに、いかにして“八田が自殺する”ように誘導するのか。つまり今回のエピソードは、他のエピソードのように“密室トリック”を優先的に解き明かすのではなく、“開けられない密室”の中でどのように犯行に及ぶかを見つけだす推理がなされるというわけだ。


 結論から言えば、副社長と一悶着起こした野々垣が口封じのために企てたことであり、そのトリックがあまりにも用意周到で、かつ大胆さをカバーできるだけの高度な心理テクニックが駆使される。八田が娘と水鉄砲で遊んでいることから着想し、本物の拳銃を改造して水鉄砲を作る。そこに日本酒を入れて一度八田に向けてそれを放ち、さらに本人に持たせる。そして後々本物とすり替えて八田が自ら銃を口に向けて撃つことを仕向ける。はたしてこのトリックが本当に実現可能なのかどうかというのを考えるのは些か無粋ではあるが、少なくとも犯人役を演じたのが哀川翔というだけで、その貫禄と茶目っ気も相まってか、不思議なほどに説得力が生じるのだから流石である。 (文=久保田和馬)