慶應義塾大学特任准教授などを務める若新雄純さんが6月11日放送の「モーニングクロス」(TOKYO MX)にリモート出演し、過疎地域への移住を促進する新たな制度「特定地域づくり事業協同組合(地域づくり組合)」について意見を述べた。
地域づくり組合とは、地域の事業者が集まってつくる組合が移住者を雇用し、さまざまな仕事に派遣するという仕組みだ。雇用者一人あたり年間400万円程度の給与を支払えるよう、国と市町村が運営費を助成する。季節によって、農業法人や観光産業などへの働き方が想定されているという。同制度に関連する法律が4日に施行されたことを受け、若新さんはこれに賛同しつつ「不安定保障」という独自の提言をした。(文:okei)
家も仕事も固定されると逆に不安になる?
若新さんは、同制度について「一部ではわざわざ移住者に派遣で仕事をやらせるのか」という批判もあるが、もっと柔軟に捉えるべきだと語る。これまでの多くの移住政策は「安定した固定的な仕事、住居がある」と訴えて安心をアピールしてきた。だが、移住者からすると、家も仕事も固定された上で「ここがあるから安心と言われると、『逆に不安だ』と感じてしまう人が多かった」という。
実際に住んでみないと仕事が長く続けられるかわからないが、地方に行って"お世話になる"と、合わなかったときに断りづらくなる。また、人口の少ない町では「せっかくお世話してあげたのに」というトラブルになりかねないとして、
「最初から『安定しなきゃ』はお互いにプレッシャーになり、固くなりすぎる、不必要な過剰な固さみたいなものを生み出してしまう」
と問題点を指摘した。
不安定の中でこそ安定する、新しい社会のつながりのあり方
若新さんは、地方移住プロジェクトに長年携わってきた経験から「移住してうまくいっている人は、固定した仕事を見つけられた人とは限らない」と説明する。地方には、週末の空いている時や季節によってできる仕事がたくさんあり、「範囲が限られたコミュニティ内で有機的につながっている」という。
地方特有の、互いに必要な時に仕事や手伝いをする"ゆるやかなコミュニティ"の中で、その人の得意なことが周知され、人材が生かされていくというのだ。若新さんはこれを「一つ一つを見ると不定期で不安定に見えるが、トータルで見ると安定してくる」として、
「僕はこれこそが、これからの時代の本当の意味での安定というか、あえて固定せず不安定であることによって心地よくバランスが保たれてくるというような、社会のつながりのあり方だと思っている」
と語った。実際に、仕事しながら量を調節していくことが可能で、若新さんの周囲でも、3か月や半年単位で試しながら周囲に向き不向きを理解してもらい、仕事の調整が上手にできている人がいるという。
若新さんは、まずは3か月や半年間、少しずつゆるやかに関係を作る時期を設けるよう提案。「移住後すぐには安定しないが、この不安定な時期こそ、今までの都会暮らしとは違うつながりや新しい働き方を見つけるチャンス」とした上で、
「この不安定期間を、ゆるやかなつながりを持ってうちでちゃんと保障しますよという、新しい形を作っていくことを全国に打ち出していけば、人ひとりを雇用できるしっかりした受け皿がなくても、色んな人が入って色んな形で働いていける可能性が、地方の町にはあると感じています」
と語った。"不安定"という言葉に不安が残るかもしれないが、最初から「安定」に固執するのではなく、お互いをわかり合う調整期間と捉えればいいのだろう。テレワークが普及し、都会に高い家賃を払って住み続ける必要性が薄れている今、地方が人を呼び込むためのヒントと言えそうだ。